原子力産業新聞

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学術会議、福島第一原子力発電所事故に伴う環境汚染調査で報告書

09 Jul 2020

日本学術会議の「原子力安全に関する分科会」(委員長=矢川元基・原子力安全研究協会会長)は7月7日、福島第一原子力発電所事故に伴う環境汚染の調査研究に関し報告書を取りまとめ発表。

これまでの政府関係機関や学術界による取組を整理した上で、(1)事故進展解析分野と環境影響解析分野の連携、(2)事故からの経過時間に応じた環境動態モデルと環境モニタリングの継承、(3)情報や試料の散逸防止のための長期にわたる組織的対応、(4)アカデミアと行政機関との連携と役割分担、(5)放射線教育の定着、(6)研究進展の全貌把握・横断的解析――に取り組むよう提案した。

福島第一原子力発電所事故時の炉内事象と環境放出との関連性について、報告書では、エネルギー総合工学研究所によるシビアアクシデント解析コードのSAMPSONと、原子力災害対策に用いられるWSPEEDI(世界版緊急時環境線量情報予測システム)との比較を紹介。セシウム137の放出量に関し、両者の解析結果に相違が見られたことから、今後の定量的な放出量評価に向け「甲状腺被ばくの点で重要度の高いヨウ素については高い評価精度が求められる」などとして、事故進展解析と環境影響解析との両分野間交流の意義を説いた。

学際的な調査研究を通じ、事故から数年以内で、河川、ダム・ため池、海域、森林、農地、市街地など、水系や土地・土壌、そこにおける生態系に関し、放射性物質の環境動態の実測調査やモデル化が進展したことを評価した上で、今後も環境モニタリングの継承が重要な課題と指摘。

さらに、情報の収集と蓄積について、ウェブサイト更新によるリンク切れ、測定試料のアーカイブ問題、住民個人による放射線測定データの活用の可能性にも言及。長期にわたる情報の散逸を防ぐため、「組織的対応を行う恒久的なアーカイブ機関が必要」などと提言した。

また、「放射線に対する歴史上の経験を考えた場合、わが国は世界で最も充実した教育と人材育成をすべき」、「事故で明らかになったのは社会としての放射線に関連した知識の欠如」と述べ、放射線教育について、(1)初等中等教育で基本的な知識を系統的に取り入れる、(2)大学における総合教育として環境放射能や放射線の講義を行う、(3)学協会が中心となって関連分野の教員を派遣する――ことを提言。

報告書では結びに、環境汚染調査と健康調査の連携が不十分などと、分野横断的な解析に係る課題をあげた上で、事故後10年の区切りを迎えるのに際し、「環境影響の全貌が把握でき、さらに包括的かつ緻密な報告」を、事故の当事国としてまとめる必要性を述べている。

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