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原子力船「むつ」が船舶海洋工学会「ふね遺産」に認定

05 Aug 2020

原子力船「むつ」(原子力機構ホームページより引用)

日本船舶海洋工学会は7月31日、産業・文化の発展に寄与した歴史的・技術的価値のある船舶や、関連する設備、史料類を広く周知する「ふね遺産」(Ship Heritage)の2020年度選考で、原子力船「むつ」(1992年退役)など、8件を認定したと発表した。

「ふね遺産」は、2019年度選考より非現存船も認定の対象となり、今回の原子力船「むつ」については、「多くの技術的知見をもたらしたわが国初の原子力船」との技術的価値が認められたもの。同学会は、「むつ」の研究開発に着手した日本原子力船開発事業団の流れを汲む日本原子力研究開発機構に認定書を贈る。

日本における原子力船の研究開発は、1961年に原子力委員会が策定した「原子力開発利用長期計画」で、貿易量の増加に伴う船舶の大型化・高速化への対応から、その必要性が示され、1963年の日本原子力船開発事業団設立で本格的に動き出した。第1船「むつ」の設計・製造は、原子炉を含め可能な限り国産技術で行うこととされ、1965年からの臨界実験などを経て、1968年に建造が開始し、1969年に進水に至ったが、1974年に遮蔽の不具合による放射線漏れを起こし計画に大幅な遅れが生じることとなる。

「むつ」は、1978年より佐世保港で安全性総点検および遮蔽改修工事が行われた後、1988年に青森県むつ市の関根浜港に入港。1990年3月からの出力上昇試験、海上試運転を経て、1991年2月に原子炉等規制法および船舶安全法に基づく合格証を得て、原子力船として完成した。その後の4回にわたる実験航海では、東はハワイ諸島沖、南はフィジー諸島沖、北はカムチャッカ半島沖まで航行し、通常海域、高温海域、荒海域などにおける実験を進め、陸上では得られない貴重なデータを取得。「むつ」は原子力で約82,000km(地球2周強に相当)を航行し、原子炉の運転時間は2,252時間(100%出力換算)に達した。

現在、「むつ」は解体され、原子炉は「むつ科学技術館」(むつ市)に保管展示。船体の一部分は海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」として活躍中だ。

この他、今回の「ふね遺産」選考では、「第五福龍丸」(第五福龍丸平和協会、西洋型肋骨構造による現存する唯一の木造鰹鮪漁船)、「さんふらわあ」(商船三井、大型豪華高速カーフェリーの先駆け)などが認定されている。

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