原子力産業新聞

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原子力学会、地球環境問題における原子力発電の役割で報告書発表

08 Sep 2020

日本原子力学会の専門委員会は、地球環境問題に対する原子力発電の潜在的能力の活用と役割について、IEAなどのデータに基づき定量的調査を行い、9月4日に最終報告書を発表した。

日本が地球環境問題への対策強化を図り、世界の持続可能な発展への実現に貢献する上で、「安全・信頼性を高めた原子力発電技術は極めて重要な技術選択肢」との考えから、同報告書では、エネルギーセキュリティ、電力市場、放射性廃棄物を巡る諸課題も含め提言をまとめている。

地球環境問題の観点から、今回の調査では、原子力の環境価値についてエネルギー技術選択モデルによる分析・評価を行った。2050年までに日本のCO2排出量を8割削減するための原子力の将来シナリオとして、既設炉の運転期間を60年として新増設を行わない「基準シナリオ」と、2050年まで現状の設備容量を維持する「維持シナリオ」を想定。「基準シナリオ」では、設備容量が2050年に2,000万kWにまで縮小し、電力供給における原子力発電への依存度が徐々に低下する。分析の結果、2050年の日本の総発電量に占める原子力発電比率は、「基準シナリオ」で9%、「維持シナリオ」で18%となった。

また、2050年までの電源構成をみると、「維持シナリオ」の方が、太陽光発電、風力発電(陸上)、同(洋上)の導入量で、「基準シナリオ」よりも、それぞれ2,300万kW、1,100万kW、3,200万kW減少しており、原子力発電を維持することにより、再生可能エネルギーへの投資が大幅に抑制できることが示された。さらに、CO2排出削減に要するコストに関し、両シナリオとも、2040年代後半から急上昇する試算結果を示し、「2050年までにCO2排出8割削減を達成することは経済的にみて容易ではない」として、既存技術と新技術を最大限活用した経済的合理性のあるCO2削減に向け、「原子力発電は経済的にCO2削減を達成する上で重要なオプション」と指摘。

これらを踏まえ、「原子力技術先進国」として日本は、技術開発を一層強化し、安全性をさらに高めた原子力発電所の新増設・リプレースを実現すべきとし、新興国における開発も通じ地球環境問題への国際貢献も期待されると述べている。

この他、将来のエネルギー資源調達におけるリスクに向け、(1)どのような環境下でも安定的出力が期待できる、(2)短期・長期で燃料備蓄効果により燃料供給途絶にも強靭である、(3)エネルギー価格高騰を抑制する、(4)核燃料サイクルにより資源の有効利用が可能である――ことから、「エネルギーセキュリティに貢献できる重要な選択肢」と、原子力の有効性を述べている。

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