原子力産業新聞

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原子力総合シンポ開催、「2050年の持続可能社会の実現に向けたシナリオと原子力学術」で議論

02 Oct 2020

Web会議での討論の模様(左上から時計回りに、山口氏、野口氏、山地氏、小宮山氏、土田氏、秋元氏)

日本学術会議と関連学協会による「原子力総合シンポジウム2020」が9月30日に開催された。今回は「2050年の持続可能社会の実現に向けたシナリオと原子力学術」がテーマ。

感染症対策のためWeb会議による開催となったが、400名を超す参加者のもと、山地憲治氏(地球環境産業技術研究機構副理事長)らの進行により、秋元圭吾氏(地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダー)、小宮山涼一氏(東京大学大学院工学系研究科准教授)、土田昭司氏(関西大学社会安全学部教授)、野口和彦氏(横浜国立大学リスク共生社会創造センター客員教授)、山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授)が講演・討論に臨んだ。

2019年の同シンポジウムでも論点となった「持続可能な社会の実現」に関し、秋元氏は、1870年以降の超長期にわたるCO2累積排出量と気温上昇の関係を図示し、「気温を安定化しようとすれば、いずれはCO2の正味ゼロに近い排出が必要」と考察した。その上で、各種エネルギー・CO2削減技術のコスト評価が可能なモデル「DNE21+」を開発し解析を行った長期排出シナリオを披露。同氏は、デジタル技術の進展による社会構造の変化にも言及し、再生可能エネルギーの大幅なコスト低減の他、カーシェアリングなど、需要サイドの社会イノベーションがさらに誘発される可能性から、原子力については、「重要なオプションに間違いない」とする一方、「持続可能な社会の実現」に貢献するには不透明性が増していくとも指摘した。

総合資源エネルギー調査会の委員を務めている山口氏は、原子力がエネルギー政策において安定供給、経済効率性、環境適合に優れた「重要なベースロード電源」と位置付けられている一方、その便益が十分理解されていない現状を日本原子力文化財団による世論調査結果から示し、「原子力技術が過小評価されているギャップをまず押さえねばならない」と自省。近年の北米、欧州、中国における原子力イノベーションの躍進ぶりにも触れた上で、技術が社会に受け入れられる条件として、米国の科学者J.ダイアモンド氏の著書「銃・病原菌・鉄」が述べている(1)既存の技術より経済的である、(2)社会的ステータスがある、(3)既存の技術との互換性がある、(4)メリットがわかりやすい――ことをあげた。

また、エネルギー確保に関わる技術的要件、社会的要件に関して、小宮山氏、野口氏が発言。小宮山氏は、日本機械学会や日本原子力学会における議論にも触れ、社会ニーズに適合した原子力のあり方の検討に向け、「3R+T」(再生可能エネルギーとの共存:Renewable、レジリエンス強化:Resilience、カーボンリサイクル:Recycle、信頼の獲得:Trust)を提唱。野口氏は、社会学の観点から「社会の豊かさは多様な価値観が関係し合っている」などとした上で、電力会社の姿勢に関し「自分たちは正しいという前提に立っているのではないか」と指摘し、地域住民の考え方を理解する視点の重要性を強調した。

討論の中で、原子力が社会から受け入れられない理由について、社会心理学の立場から登壇した土田氏は「子供の頃から広島原爆の写真を見て、理屈なしに視覚情報で出てくるイメージが不安を巻き起こしていると思う」、また、理解を得ることに関し「自己同一性、『相手と自分は同じ』という意識に達しないとなかなか信頼は得られない」と述べた。さらに、学術会議で工学システムの安全と安心の関係に関する報告書取りまとめに携わった野口氏は、「200人乗りの飛行機は事故が起きても犠牲者はせいぜい200人。原子力は事故が起きたときの規模など、わからないことが多い」としたほか、専門家と一般市民との見方の違いも指摘し、原子力学会に対し「専門家への信頼は重要。最も厳しい専門家集団であって欲しい」と訴えかけた。

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