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「福島イノベーション・コースト構想」でシンポ、浜通りの創生に向け各界の取組状況が発表

21 Dec 2020

浜通り地域の新産業創出を目指す「福島イノベーション・コースト構想」の将来について考えるシンポジウムが12月19日、双葉町産業交流センターで開催され、同構想の実現に向けて活躍する企業、地元学生たちの登壇のもと、成果発表や意見交換が行われた。

挨拶に立つ加藤官房長官

シンポジウムには、加藤勝信内閣官房長官、内堀雅雄福島県知事、伊澤史朗双葉町長らが訪れ、挨拶を述べた。加藤官房長官は、「福島復興は内閣の最重要課題」との認識を改めて示した上で、福島ロボットテストフィールド、福島水素エネルギー研究フィールド、東日本大震災・原子力災害伝承館の開所や、2023年春の一部開所を目指す「国際教育研究拠点」計画の進展など、「福島イノベーション・コースト構想」を巡る1年間の動きに触れ、同構想が浜通り地域の原動力となるよう期待。内堀知事は、同構想で得られた成果の国内外発信に向け「来年は東京五輪の開催により世界から注目される絶好の機会」と、2022年春の帰還開始を目指す双葉町の伊澤町長は、「20年後の双葉町を担っていく生徒たちに期待。新たな未来を考えていく地」と、それぞれ意気込みを見せた。当日は、双葉中学校の生徒も出席し、伝統芸能の「山田のじゃんがら念仏踊り」や「せんだん太鼓」の練習風景を紹介した。

「福島イノベーション・コースト構想」に関わる各界の取組については、阪本未来子氏(JR東日本常務執行役員、基調講演)、徳田辰吾氏((株)ネクサスファームおおくま 工場長)、金岡博士氏((株)人機一体社長)、秋光信佳氏(東京大学アイソトープ総合センター教授)が発表。

阪本氏

阪本氏は、2020年3月に全線復旧した常磐線に関し、「常磐炭田の石炭輸送が日本のエネルギー政策・経済を支えてきた」役割を経て、現在ではビジネス・観光利用に供される重要路線として発展してきた経緯を紹介。動物侵入防止柵や避難通路の整備など、震災後の常磐線復旧工事について触れたほか、2019年に開設されたJヴィレッジ駅(楢葉町)に関し、(1)平成に開業した最後の駅、(2)日本初の「ヴ」がつく駅(3)JR東日本で初のアルファベットがつく駅――と、駅名のうんちくを語った。「観光は『光を観る』と書く」と、今後の観光振興に期待を寄せる同氏は、震災発生から10年の節目に際し、交流人口の拡大を目指す「巡るたび、出会う旅。東北」をキャッチコピーとした東北6県観光キャンペーンの長期開催計画を披露。

徳田氏

大熊町でイチゴの周年栽培を行う徳田氏は、「農業分野は閉鎖的で交流が足りない。個人で行う農業と組織で行う農業とではやり方が全然違う」として、他業界からの人材の積極採用を図り、環境制御プログラムなど、様々な技術を開発・検証しながら収穫量を伸ばしてきた経緯を紹介。「多くの観光客が訪れ、『大熊町がイチゴの町になった』と言われるようになれば」と、期待を述べた。

金岡氏

福島ロボットテストフィールドで人の手足と連動して機能するロボット「人型重機」の開発に取り組む金岡氏は、福島第一原子力発電所事故の経験から、「研究だけでなく社会実装に達することが必要と感じた」と、先端ロボット工学技術の課題を述べ、革新的な知的財産を求心力にリソースと産業を集めるしくみ「人機プラットフォーム」を福島に導入したいと強調。

秋光氏

高等教育の立場から秋光氏は、保育園・小学校の線量調査など、発災直後から地道に取り組んできた被災地支援活動の経験を踏まえた「復興知学」講義を紹介。講義後の学生アンケートで、「普通の県として扱うべき」といった福島に対する対等なパートナーとしての見方が印象に残ったという。「浜通りは大きなポテンシャルを秘めている」と、同氏は強調し、阿武隈変成帯に着目したミュージアムプロジェクトなど、地域と共同した今後の活動に意気込みを示した。

原町高の生徒たち

この他、原町高校からは福島ロボットテストフィールドでの水中ドローン訓練、平工業高校からは土木工学科による中学校への出前授業など、地元5校の高校生たちが浜通り地域に根差した実習経験を披露した。

※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。

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