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【第54回原産年次大会】セッション1「脱炭素社会に向けた地球規模の課題」

14 Apr 2021

第54回原産年次大会では、開会セッション・特別講演における示唆を踏まえて、新型コロナウイルスによる感染の世界的影響を考えながら、「パリ協定」で定められた2050年の脱炭素社会に向けて、エネルギー転換へのコミットメント、持続可能なエネルギーシステムの構築、およびこのような世界的課題への原子力の貢献等をセッション1のパネル討論で議論した。

 まず始めに、国際エネルギー機関(IEA)のL.バロ・チーフエコノミストが脱炭素社会を実現する際に原子力発電がもたらす貢献と、その維持に向けて必要な措置等を以下のように説明した

2050年までのカーボンニュートラル(CN)達成に向けて、今後はゼロ・カーボンの電力を急速に増やしていく必要がある。その理由は、電力部門からのCO2排出量が1千万トン以上と最も大きいことや、脱CO2で最も上手くいっているオプションが化石燃料を暖房等に直接使うことだからである。

エネルギーの転換を図ればエネルギー効率が上昇し、エネルギー全体の消費量を減らすことになるが、現在のエネルギー消費のうち80%が非電力であり、化石燃料の使用を削減するのは非常に大変なことだ。今後、電気の使用量は倍に増えていくが、その際、再生可能エネルギーなど非CO2の電源が非常に大きな役割を果たすことは間違いない。原子力も有用な役割を果たせるが、それは再エネに対抗してということではなく、「CN社会の実現にはすべての技術を活用していく必要がある」ということだ。

すなわち、各国は皆、再エネへの投資を続けねばならないのだが、ここで原子力への投資を止めてしまうのは非常に高く付く。IEAは2019年に原子力の役割に関する報告書を出したが、原子力への投資は今以上に必要になると指摘している。再エネの場合はインフラ整備とくに送電網に多額の投資が必要だが、原子力は送電網を効率的に使っている。また、原子力の持つその他の大きなメリットとしては、発電所の建設にあまり大きな面積を必要としない点が挙げられる。

現在、規制面や市場面の不備により原子力の経済性に大きな問題が生じ、閉鎖を余儀なくされる発電所が相次いでいる。原子力発電所は安全に60年使用できるので、不必要な廃炉を避けるためにキチンとした評価が必要である。また、原子力は新規の建設に巨額の先行投資を必要とするため、民間だけで資金調達するのは難しい。政府はこのような点で原子力を支援するとともに、カーボンプライシングなどでも原子力が公平に評価されるよう、政策整備をきちんと進めねばならない。SMRなどの技術革新を進めることも重要で、今はこれらは実証段階のものもあり、実現すれば投資面でも運転面でも大きなメリットを生むだろう。

世界では脱原子力を決めた国もあり、各国が選択する道は様々だが、社会的にも歴史的にも原子力が受け入れられている国では、原子力は経済的にも非常に賢明な選択肢ということになる。

経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)原子力技術開発・経済課(NTE)の原子力アナリスト、M.ベルテルミ氏は「脱炭素化に向けた地球規模の課題」について次のように説明した。

国際エネルギー機関(IEA)が2020年に公表した「クリーンエネルギーの進展評価」によると、原子力の開発見通しはあまり順調ではない。IEAの持続可能な発展シナリオ(SDS)を達成するためには、既存の原子炉の長期運転(LTO)を支援するとともに、第3世代の大型炉や小型モジュール炉(SMR)など新規建設の加速が不可欠である。これらで原子力発電が進展すれば2050年の脱炭素化では原子力は最大50%の貢献を果たせる。

原子力の見通しとしては、今後は電力以外の多くの分野で原子力を応用することで、気候中立が困難とされるエネルギー部門にも対応可能となる。原子力の熱利用に関しては歴史的な経験があるが、障壁となっているのは技術的なレベルの問題ではなく、今日のエネルギー市場における許認可や市場の連結統合に関わる問題である。このため、原子力はこれらの部門の脱炭素化を支援するポテンシャルは非常に大きいと言える。

今後、原子力が低炭素エネルギーミックスの中で最大限の実力を発揮するには、主に次のような政策が必要になる。すなわち、長期的な脱炭素化を推し進めるための構造的な「電力市場の改革」や、「政府が原子力発電所の新設で資金調達を支援する」ため、直接的、間接的アプローチを取ること。また、小型モジュール炉(SMR)の開発を早期に進めるため「国際的な許認可の枠組を設定する」ことなどである。

もっとも、電力市場を自由化するだけでは低炭素電源は実現できない。低炭素電源に対する資金調達は重要で、原子力発電所への投資は大きな意義を持つ。以前はグリーン支援が大きな意味を持ったが、今ではエネルギー市場から投資を得ることが重要である。少なくとも低炭素化への移行期においては、長期にわたるため民間の融資の対象にはならない原子力発電所の新設に、政府が財政支援を行う必要があり、理由としては、気候変動への影響や清浄な空気、燃料の多様化といった社会面や環境面の要因などが挙げられる。

原子力が今後も他の電源に対する競争力を持ち、柔軟性と信頼性を兼ね備えた需給調整可能なエネルギー源としての地位を維持するには、さらなる技術革新が求められる。今後が有望視されている原子力関係の技術分野としては、SMRや先進的原子炉のほかに、水素製造や海水の淡水化といった電力以外の分野への応用、一層低コストで優れた運転性能を発揮する革新的な原子燃料などが挙げられる。

また、革新的な原子力技術の商業化目指した開発を加速するためには、国際的な許認可の枠組を支援することも必要。規制要件の整合性を図り、設計の標準化を推進するほか、国際レベルで協調を高めねばならないだろう。

世界原子力協会(WNA)のS.ビルバオ・イ・レオン事務局長は、「クリーンエネルギーの未来のための原子力技術」と題したプレゼンで、原子力発電がもたらす利点を以下のように指摘した。

世界では近年、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する必要に迫られているが、原子力発電は電力事業の脱炭素化に大きな役割を果たす。日本の梶山経産大臣も、「今年1月の大雪で日本の電力供給が逼迫した際、太陽光も風力も頼みにならなかった。最終的に原子力が必要だということを国民に理解してもらわねばならない」と指摘、電力価格を抑え、供給不足を回避するには原子力が不可欠との認識を示した。

経産省の2018年の発電計画では、再生可能エネルギーの比率を2030年までに大幅に上昇させる目標を掲げているが、日本がクリーンエネルギーの目標を達成するには、原子力発電所を迅速に再稼働させるとともに長期間運転(LTO)がカギとなる。短期的には、既存の原子力発電所のLTOが重要で、これは脱炭素化において最も費用対効果が高い手段である。これらは昨年のOECD/IEAや同NEAの報告書でも指摘されている。

日本の長期的なクリーン電力目標を維持し、持続的な経済開発を支えるためには、新規の原子力開発プロジェクトが必要である。原子力は電力と熱を供給可能な唯一の低炭素エネルギー源であり、CO2排出量の削減が難しい産業部門の脱炭素化に貢献。CO2を排出せずに水素を生成することも可能で、高温ガス炉は水素製造でも有利である。

これらのことから、結論として原子力が2050年までに世界のCO2排出量の実質ゼロ化達成に中心的役割を果たせることは明白であり、日本は国内原子炉の再稼働を進めるべきである。原子力は日本のように利用できる土地が限られた国には向いた電源と言える。日本はまた、高温ガス炉のプロセス熱を利用した大規模な電力、水素、水素由来燃料などの製造に用いることのできるこの分野の世界的技術を持っており、これに適した産業インフラも存在している。

地球環境産業技術研究機構(RITE)の秋元圭吾・システム研究グループリーダーは、「カーボンニュートラルに向けた各種対策の役割・課題と原子力の位置付け」について次のような発表を行った。

脱炭素化に向けては、最終エネルギーを原則、電気か水素の利用とする必要があるが、水素も燃料電池で利用するケースが多いため最終的な利用形態は電気とも言える。ただし、その製造においては脱炭素化が必要で、一次エネルギーとしては再生可能エネルギーと原子力、化石燃料に加えてCO2の回収・貯留(CCS)のみで構成しなければならない。

また、完全に炭化水素を使わないというのは非現実的なので、植林やバイオエネルギーCCSなどのネガティブ排出技術の活用はあり得る。脱炭素化を実現するには(経済自律的な)低エネルギー需要社会の実現も重要。さらに、その移行過程も重要なので、気候変動影響被害や技術発展にともなう緩和費用を総合的に考えて、実効性のある低炭素化を進める必要がある。

現在の技術・社会の変化を踏まえると、人口の低下等により総エネルギー需要の伸びが減少しており、長期的な大規模投資リスクを取りにくくなっている。このような背景から、米国等を中心に小型モジュール炉(SMR)の開発に関心が高まっているほか、分散型のエネルギー・リソースを安価に活用できる可能性も高まっている。

再生可能エネルギーは、太陽光や風力を中心に大幅にコストが削減されており、大規模な拡大が見込まれる。ただし、システムコストで見た場合、蓄電池や水素を含めた需給制御、システム全体でのコスト削減が重要になる。

原子力のような大規模なエネルギー供給技術は引き続き重要であるものの、分散型リソースとそれをつなぐデジタル化技術の役割が増しているため、原子力の役割は総体的に低下している。原子力は脱炭素社会の実現に向けた重要オプションに違いないが、技術の発展とエネルギー需要の不確実性が増してきているなか、分散型エネルギーである再エネやエネルギー需要側の対策が相対的に大きな役割を担いつつある。原子力はまた、設備利用率の悪化とそれにともなうコストの増加、競争力の低下という悪循環からいかに脱却するかが大きな課題。社会からの信頼回復を急ぐとともに、好循環を再構築する必要がある。

東京大学大学院工学系研究科の小宮山涼一・准教授は、「カーボンニュートラル社会実現に向けた原子力エネルギー戦略」について、以下の発表を行った。

世界のエネルギーシステムで「カーボンニュートラル(CN)」を実現するまでの移行期は21世紀中ごろまでとみられており、CNの実現後はCO2吸収量が排出量を上回る「カーボンネガティブ」の状態に移行するが、原子力はこれらの過程全体に貢献し得る重要なエネルギー源である。

2020年から2021年にかけて、北東アジアでは産ガス国による供給量の低下や寒波による需要の増加でLNGスポット価格が高騰。これにより、LNGの安定調達や電力需給のひっ迫対策は重要課題となっている。2017年以降、中国によるLNG輸入量は徐々に拡大しており、2023年にはアジア最大のLNG輸入国になる見通し。LNGはCNへの移行を支える重要なエネルギー源であるため、この時期のエネルギー供給保証を強化する上で原子力は不可欠と言える。

日本がCNを実現する可能性を「エネルギー技術の選択モデル」で評価してみると、原子力発電設備の新増設・リプレースで2050年までに2,600万kWに拡大することで、原子力はCN実現に貢献し得る経済的に合理的なオプションとなる。また、社会の電力依存が高まり電力の安定供給は一層重要な課題となるため、電力需要対応でも原子力は不可欠な技術オプション。CN実現にはあらゆる技術選択肢を総動員しなければならず、原子力は有力な選択肢となる。

また、世界全体のエネルギーシステムで、総コストが最小となるエネルギー構成を求める数値シミュレーションモデル「DNE21」を使用してみると、高速炉でプルトニウムを有効利用すれば、放射性廃棄物が減容されて環境負荷の低減に貢献するほか、ウラン資源の制約も緩和される。地球の気温上昇を1.5℃に抑えるには、21世紀後半にCO2排出量をゼロ以下(ネガティブ)に抑えねばならないが、そのための技術(大気中CO2の直接回収等)を使うのにも大量の電力や熱が必要。

現在、原子力産業界では小型モジュール炉(SMR)や高温ガス炉(HTGR)の開発に期待が寄せられており、これらは再エネやCO2を(回収・貯留するだけでなく)有効利用することも加えた技術(CCUS)などとともに、「脱炭素化とレジリエンス強化に資する分散型小型モジュラー炉を活用した持続可能なエネルギーシステム」の一部分を構成する可能性がある。このような持続可能なエネルギーシステムの実現に向けて、それぞれの利点や欠点を補完し得る共存関係の構築が重要となろう。

これらに続くパネル討論では、日本政府が現在、エネルギー基本計画を改定中であることから、セッション・モデレーターを務めた東京大学公共政策大学院の有馬純・特任教授は、主に海外パネリストに日本国政府への原子力関係のアドバイスを求めた。

IEAのバロ氏は、「日本の地理や人口密度の高さ、産業界が電力を大量に使用していることを考えると、再生可能エネルギーだけで原子力を使わず脱CO2を進めるのはコストもかかるし非常に難しくなる。政府の支援する姿勢が必要。ソーラー・風力で脱炭素化を図るには、送電網に多大の投資をしなければならずこれを考えているのは中国だけ」と指摘。安全性や社会的受容という点でキチンと折り合いをつけつつ、今ある原子炉を再稼働すべきだと述べた。

WNAのビルバオ・イ・レオン事務局長も、「各国は地理、気候、文化、社会的側面が異なるので、それぞれに即したエネルギー政策を考えるべき。経済性を満たすべきであり、資源がなくベースロード電源が必要で30年以内の脱炭素化を考える日本は真っ先に既存炉の再稼働を果たすべきだ」と表明。また、「既存炉で可能な限りLTOを実現することも重要になるが、日本は今あるノウハウやインフラを活用できる」と述べた。

OECD/NEAのベルテルミ氏も同様に、優先事項として既存炉の再稼働とLTO、国民の理解獲得への働きかけを挙げた。政府には脱炭素化や熱・発電・淡水化などでの原子力利用のメリットを国民に説明するという役割があり、原子炉の新規建設に向けた長期計画の策定も優先されるべきだとした。

このほか、日本のエネルギー政策に関し海外パネリストから再度、「2050 年までのCN達成宣言は画期的」、「原子力発電なしのCN達成は非常に高コストとなる。既存炉再稼働が必要」、「原子炉の運転期間延長、新増設を政策に位置付けるべき」、「次世代炉による応用分野の拡大を図るべき」との提言があった。また「原子力の必要性については政府がリーダーシップをとり、国民に説明することが必要」、「原子力発電を事業者、規制者、自治体、国民によるソーシャル・ライセンスとして推進する政策検討が必要」との声も出された。

会場からは航空機の非化石燃料利用の可能性の質問が出され、秋元氏が近距離での電動化とその前の段階でのバイオ燃料利用や将来の遠距離での合成燃料利用の可能性などを示唆した。

最後にセッションのまとめとして有馬氏は、「CNの実現に向けて今回、原子力が重要な役割を果たすということでコンセンサスが得られた」と表明。再エネ100%で達成することはエネルギーの供給保証やコスト面で課題が有り、現実的ではないとした。

また、「福島第一原子力発電所事故の後、日本では再エネか原子力かという不毛な二者択一論の悪影響を受けてきたが、国土が狭くてエネルギー供給保証が脆弱な日本では、再エネしか認めないという議論は建設的ではない」と指摘。再エネのコストが低下しデジタル化が進んだことで、分散型電源の役割が増してきていることを踏まえ、「様々な脱CO2オプションを組み合わせ、再エネが大きく拡大するという流れのなかでCNに向けて相乗効果を上げ得る原子力の位置付けを考えるべき」と述べた。

さらに、今回のセッションでは、「再エネだけで脱CO2を実現しようとすれば電気代が上昇する。止まっている原子炉をできるだけ早く再稼働させ、長期間運転することが費用対効果という点で最良のCO2削減手段だという点で意見の一致を見た」と説明。2050年という長期のスパンで考えると、高温ガス炉などの新型炉の導入と既存炉のリプレースも議論の中で論点として浮かび上がってきたが、電力市場の自由化が進む中で市場任せにしておいてはこれらへの新規投資は行われない。このため明確な政策インセンティブや市場インセンティブが必要であるとした。

以上のことから有馬氏は、「日本の原子力で最も重要なハードルは世論だが、原子力ナシで脱CO2を進めればコストの増加で日本経済が自爆しかねない。日本が長年にわたって培った原子力技術や人材が危機に瀕するなか、日本の国民生活を守るためにも既存炉の再稼働や原子炉の新設・リプレースが必要だと、理を尽くして国民に真摯に説明していくべき」と締めくくった。

 

 

 

 

 

 

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