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経済同友会「未来選択会議」が気候変動とエネルギーをテーマに議論

23 Apr 2021

経済同友会・櫻田代表幹事、若手も交えたマルチステークホルダーによる議論の重要性を強調

経済同友会は4月20日、「気候変動・エネルギー カーボンニュートラルの実現に向けたエネルギーミックスのあり方」をテーマとするフォーラムをオンライン開催。同会が昨秋「次世代と多様性」をキーワードに、「社会の様々なステークホルダーが集い、自由闊達な議論を通じ日本の将来に向けた論点・選択肢を提示していく会議体」として設立した「未来選択会議」の主催によるもので、議論の模様はウェッブサイトで公開されている。「未来選択会議」のフォーラムではこれまで、若者の政治参画に関わる課題をテーマに取り上げてきた。

フォーラムを進行する高村氏

今回、中央環境審議会会長他、多くの政府審議会の委員を務めている高村ゆかり氏(東京大学未来ビジョン研究センター教授)の進行のもと、再生可能エネルギーの導入、原子力発電や火力発電の今後の位置付けに関して、有識者の他、学生やメディア関係者も加わり議論。まず、資源エネルギー庁次長の飯田祐二氏がエネルギー基本計画見直しの検討状況を、経済同友会副代表幹事の石村和彦氏(AGC元会長)が最近の同会によるエネルギー政策に関する提言について説明し議論に先鞭を付けた。

経済同友会は、3月に発表した提言の中で、原子力については、2050年カーボンニュートラルを見据え、これまで同会が掲げてきた「縮原発」を基本に、新規制基準適合性審査に係る設置変更許可済み・申請済みの27基の再稼働を前提として、総発電電力量に占める割合で15%程度を下限に、2030年エネルギーミックスでの目標20~22%の達成が可能となるよう環境整備を求めている。また、東日本大震災後の長期停止期間を法令で定めた運転期間から除外すべきとの意見も盛り込んだ。石村氏は、「供給者視点だけでなく、需要者視点も重視した基本計画の策定が必要」などと、政策決定のあり方にも触れ、今回のフォーラム開催に際して、「ゼロエミッション電源である再生可能エネルギーと原子力の役割は極めて重要」と強調し活発な議論を求めた。

前半の再生可能エネルギーの導入拡大に関する議論に続き、後半は原子力発電・火力発電についてまず、電力中央研究所社会経済研究所所長の長野浩司氏、BloombergNEF日本・韓国市場分析部門長の黒﨑美穂氏が発表。

BloombergNEF社がまとめた原子力発電量の将来見通し、右上は説明する黒﨑氏

長野氏は、「基本公式:脱炭素化=電化×電源の低炭素化」を掲げ、将来的に電化が進むことで増えていく電力需要は「再生可能エネルギーを最大限導入しても賄いきれない」と強調。これに関し、電中研による2050年時点で「CO2排出量80%減」を想定した電源構成試算(2019年)を紹介し、再生可能エネルギーのポテンシャル最大化、CO2排出量の制約が許される範囲での火力電源運用を図っても、原子力発電が約2,200億kWh必要となることを示した。因みに、2020年度の原子力による総発電電力量は約388億kWh(原子力産業新聞調べ)。一方で、同氏は、今後の原子力の活用に向け、電力市場における収益・投資回収の予見性、国民理解の課題などを指摘。加えて、火力の脱炭素化として注目されている水素やアンモニアについて、製造・輸送・貯蔵に係る方策が不透明なことから、安易な期待は禁物であるとした。また、脱炭素化に関する各種リサーチに携わっている黒﨑氏は、BloombergNEFによる「国内の原子力発電は20年の運転期間延長がなければ2038年にはゼロとなる」との見通しや、火力発電所新設の動きをデータで示し、2050年カーボンニュートラル目標との整合性など、エネルギー基本計画見直しにおける問題を提起。

これに対し、前半の議論で発表を行った地球環境産業技術研究機構副理事長の山地憲治氏は、原子力発電プラントの審査に伴う長期停止に関し、「実際は『経過年数』として数えられてしまい、技術的には極めて非合理的」と、法令で定める運転期間において、いわゆる「時計を止める」必要性を示唆。原子力の国民理解に関し、メディアの立場から読売新聞社の高橋徹氏は、政界の動きも見据え「国民を二分する議論がある。2030年、2050年にはどうするのか、国民が納得しなければ進まない」と訴え、消費者団体の村上千里氏は、2012年にエネルギー政策の検討で行われた討論型世論調査を振り返り「見える化した意思決定をきちんと反映させることが重要」と強調した。

学生参加の中野さん、エネ問題に係る世代間格差やバックキャスト手法なども含め幅広い観点から発言

また、脱炭素化の技術に関し、NHKで科学番組の制作に当たってきた土屋敏之氏は、最近のゼネコンへの取材から、コンクリートのCO2吸収に触れ、「高度成長期からバブル期に作られたインフラの更新を通じたカーボンリサイクル」の可能性をあげるなど、日本独自の取組に期待。気候変動問題で啓発活動を行っている大学生の中野一登さんは、「日本から世界を見たときに置き去りとされていてはいけない」と、未来を担う世代として日本のリーダーシップ発揮に向けマインドを示した。

※写真は、いずれも経済同友会発表の動画より引用。

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