米エネルギー省(DOE)は9月9日、米国内で運転中または最近閉鎖された原子力発電所サイトで、6,000万kW~9,500万kWの新規建設が可能とする報告書「原子力発電所および石炭火力発電所サイトにおける新規原子力立地評価(Evaluation of Nuclear Power Plant and Coal Power Plant Sites for New Nuclear Capacity)」を公表した。この報告書は、DOE傘下のオークリッジ、アルゴンヌ両国立研究所の協力を得て、DOEの原子力局(NE)がとりまとめたもので、54の運転中および11の閉鎖済み原子力発電所サイトを評価。サイトの敷地面積や空中写真などの情報を用いて分析したことに加え、冷却水の利用可能性、人口密集地や危険施設からの距離、地震、洪水の可能性などの観点からも分析を行った。その結果、運転中および閉鎖済みの41サイトで新規原子力発電所の立地が可能であることが判明。AP1000のような大型軽水炉の場合、6,000万kW、60万kWの小型先進炉の場合では、9,500万kWの原子力発電設備容量が設置可能と評価した。報告書は、既存サイトへの新規建設の優位性として、地元コミュニティが、①既に原子力を支持している、②安全文化に精通している、③厳格な環境モニタリングが継続的に実施されていることを認識している――ことを挙げたほか、地元への環境面、雇用面、地域経済面での恩恵を強調した。そのほか、米国原子力規制委員会(NRC)に建設・運転一体認可(COL)を申請済みだが、実際の建設には至っていない17の原子炉についても評価を実施。その結果、2,400万kWの原子力発電設備容量の追加導入が可能と結論し、このようなサイトの活用は、許認可プロセスの迅速化や新設に必要な時間とコストの節約につながるとした。また、報告書は、閉鎖済みまたは今後閉鎖予定の石炭火力発電所サイトへの原子力新設の可能性も検討。その結果、1億2,800万kW~1億7,400万kWの新規原子力発電設備容量の設置が可能と評価した。米国では、クリーンエネルギーへの移行に伴い、2035年までに国内の石炭火力発電所の30%近くが閉鎖されると予測されるなか、DOEは、「石炭から原子力への移行(coal-to nuclear (C2N) transitions」を通じて石炭火力の地元コミュニティでは、既存の労働力とインフラを活用することにより、地元経済と環境に多大な利益がもたらされる、とそのメリットを強調している。なお、DOEは、今回の報告書について、既存の原子力発電所を活用した、新たな原子力発電所の建設可能性について知見を提供するものとしつつも、あくまで予備的な分析であり、最終的には、電力会社と地域社会が協力して、建設の判断を下す必要があるとしている。DOEは2023年3月に発表した報告書のなかで、米国が2050年ネットゼロを達成するためには、米国内で2050年までに約2億kWの追加の原子力発電設備容量が必要との見方を示している。
13 Sep 2024
1459
米原子力規制委員会 (NRC) は9月3日、米ケイロス・パワー社によるテネシー州オークリッジでの「ヘルメス2」実証プラント建設プロジェクトに対し、最終的な環境アセスメント(EA)を発表。「重大な環境影響はない」と結論づけた。「ヘルメス2」は、米エネルギー省(DOE)の「東部テネシー技術パーク(ETTP)」に建設予定の「ヘルメス」(非発電炉、熱出力3.5万kW)に隣接し、フッ化物塩冷却高温炉を2基備えた発電プラント(2万kWe)。ケイロス社は2023年7月にヘルメス2の建設許可をNRCに申請した。ヘルメスは、安価でクリーンな熱生産を実証するため、TRISO燃料((ウラン酸化物を黒鉛やセラミックスで被覆した粒子型の燃料))と熔融フッ化物塩冷却材を組み合わせて原子炉設計を簡素化している。ケイロス社はこれらのヘルメス・シリーズで得られる運転データやノウハウを活用して、技術面、許認可面および建設面のリスクを軽減し、コストを確実化して、2030年代初頭に商業規模のフッ化物塩冷却高温炉「KP-FHR」(熱出力32万kW、電気出力14万kW)の完成を目指している。NRCは建設許可発給の手続きにあたり、環境影響声明(EIS)を必要とする従来のNRC規則の適用をヘルメス2から免除した。ヘルメス2のサイトは以前にヘルメスのEISで既に評価されており、免除の裏付けに十分との考えだ。NRCスタッフは、ヘルメス2の建設許可手続きの最終段階に向けて、ヘルメス2のEAおよび安全性評価報告書(SER)をNRC委員に提出。委員は、スタッフによる審査が建設許可発給に必要な所見を裏付けるものか判断し、許可発給の票決を行う。ケイロス社は今年7月、米のバーナード・コンストラクション・カンパニーと契約し、オークリッジのヘルメスの建設サイトで土木工事(掘削作業)を開始した。両社はヘルメスに隣接し、最終となる工学試験ユニット(ETU 3.0)の建設でも協力。非原子力の実証実験装置であり、サプライチェーン、建設、運転経験の面からヘルメスを支援する。
12 Sep 2024
1456
米テネシー州のB. リー知事は9月4日、仏オラノ社の米国法人であるオラノUS社が遠心分離方式によるウラン濃縮施設の建設候補地に同州オークリッジ市を選定したことを明らかにした。ウラン濃縮施設の敷地面積は約75万平方フィート(約7万平方メートル)と北米最大規模となり、操業すれば300人以上の直接雇用を創出する見込み。 今回の建設は、テネシー州が2023年に5,000万ドル(約71億円)を投じて創設した、原子力関連企業の同州への拠点移転支援や同州の大学・研究機関における原子力教育の発展を目的とする原子力基金を活用して建設されるもの。リー知事は、同州が、原子力関連投資に最適な州であり、オラノ社との提携を通じて、米国のエネルギー自立や継続的な経済成長と機会拡大の推進に貢献できると強調している。テネシー州では、このほどBWRX-300の導入に向け追加投資を決めたテネシー峡谷開発公社(TVA)が所有、運転するワッツ・バー1,2号機(PWR、120万kW級×2基)、セコヤー1,2号機(PWR、120万kW級×2基)の計4基の大型PWRが運転中。そのほか、オークリッジ国立研究所(ONRL)、ケイロス・パワー社、TRISO-X社、セントラス社などの原子力関連企業・機関約230社が拠点を置いている。 米国では、ロシア産低濃縮ウラン(LEU)の米国へ輸入を禁止した「ロシア産ウラン輸入禁止法」が8月11日から施行されているほか、米エネルギー省(DOE)が国内のウラン濃縮能力の強化、商業用核燃料の供給源多様化や安定供給を狙いとして27億ドル(約3,820億円)を拠出するなど、燃料のサプライチェーン強化に向けた動きが活発化している。
12 Sep 2024
1865
フィンランドの電力会社であるフォータム社は9月2日、同社が所有/運転するロビーサ原子力発電所の2号機に、米ウェスチングハウス(WE)社製燃料集合体を8月の定期検査中に装荷したことを明らかにした。ロビーサ発電所の1、2号機はロシア型PWRであるVVER-440(各53.1万kWe)を採用し、これまでロシア製燃料を使用してきた。フォータム社は燃料供給源の多様化を目指しており、今回の米製燃料の装荷は、信頼できる欧米の代替燃料利用の重要なマイルストーンとなった。フォータム社は2022年11月、米WE社とロビーサ発電所向けの新燃料設計、許認可取得、供給に関する契約を締結。2023年8月、同2号機の定期検査中に、WE社が製造したウランペレットを含まない試験要素を装荷、今年8月の定期検査中に試験要素が期待通りに動作していたことを確認した。2023年2月、フィンランド政府はロビーサ1、2号機に2050年末までの運転期間延長(20年間)を許可している。フィンランドでは、オルキルオト原子力発電所3号機(EPR、172万kWe)が2023年5月に営業運転を開始した。2023年には、計5基の原子力発電所で、フィンランドの総発電電力量の42%を供給した。なお、ロビーサ発電所は約10%を供給し、設備利用率は91%であった。
11 Sep 2024
1471
フィンランドで世界初となる使用済み燃料の深地層処分場を建設しているポシバ社は8月30日、同処分場で実際の最終処分作業に先立つ、安全性確認のための試験操業を開始した。試験操業は今後数か月間実施され、計画されたプロセスに従い、機器やシステムを初めて同時に試験する。実際の使用済み燃料は使用しない。使用済み燃料は最終処分前に約40年間冷却され、最終処分場で二重構造のキャニスターに封入される。試験操業では、地下約430mに特別に掘削された長さ70 mの坑道内にある、深さ8mの処分孔に実物大の4つのキャニスターを定置。定置後、坑道はベントナイト粘土で覆われ、コンクリート栓で密封される。なお、試験操業では損傷したキャニスターを想定し、地上に戻す試験作業も行う。地下研究施設のオンカロには、数十年にわたる研究成果である数多くのユニークなシステムと機器があり、初の共同機能テストとなる。ポシバ社のI. ポイコライネンCEOは、「最終処分場の試験操業は、当社と全世界にとって歴史的なマイルストーン」と強調している。ポシバ社は、フィンランド国内で原子力発電所をそれぞれ運転するティオリスーデン・ボイマ社(TVO)とフォータム社による共同設立企業で、同国における使用済み燃料の最終処分事業の実施主体である。同社は2000年、フィンランド南部サタクンタ県のユーラヨキ地方にあるオルキルオト原子力発電所の近隣エリアを最終処分場のサイトに選定し、2012年12月には同処分場の建設許可を政府に申請。同許可を2015年11月に取得した後は、2016年末に総工費約5億ユーロ(約783億円)で同処分場を着工。2021年5月には、実際に使用する処分坑道の掘削を開始し、同年12月、最終処分場を2024年3月から2070年末まで操業するための許可を雇用経済省に申請した。操業許可の最終的な判断は政府が下すが、事前に放射線・原子力安全庁(STUK)が処分場の長期的な安全性評価を実施し、雇用経済相に見解を提示することが必要となる。STUKはポシバ社からの関係資料提出を受け、2022年5月に評価作業を開始した。雇用経済省はSTUKに対し、2023年末までに見解を提出するよう求めていたが、STUKは今年1月、操業許可申請書への見解提出の期限を、今年の年末まで延長するよう雇用経済省に要請している。
11 Sep 2024
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ガーナの原子力発電公社(NPG)は8月29日、米国のレグナム・テクノロジー・グループと、ガーナに米ニュースケール社製の小型モジュール炉(SMR)「VOYGR-12」を1基建設することで合意した。「VOYGR-12」は、ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)を12基組み合わせた発電プラント。レグナム社は、ニュースケール社などと提携する原子力プロジェクト開発会社で、近くNPG社とガーナで「VOYGR-12」を所有/運転する子会社を設立する計画だ。契約は、ケニアの首都ナイロビ市で開催された米・アフリカ原子力エネルギーサミットの会期中に締結された。同サミットは、米エネルギー省(DOE)が主催。原子力導入に向けたアフリカ産業界の準備事項に焦点を当て、原子力サプライチェーン、能力開発、ステークホルダーの参加、資金調達などのテーマで討議された。昨年11月、ガーナで開催された初回に引き続き、2回目となる。同サミットに出席した米国務省(DOS)のB. ジェンキンス軍備管理・国際安全保障担当次官は、「今回の契約締結により、ガーナはアフリカにおけるSMR建設のリーダーとなり、地域の経済発展と雇用創出の起爆剤となる」と指摘。米DOEのA. ダンカン国際協力次官補代理は、「ガーナをはじめとする多くのアフリカ諸国が、経済発展、エネルギー安全保障、脱炭素化の目標達成のために原子力導入を目指している。米国がノウハウとリソースを提供する、強力かつ積極的なパートナーであり続け、アフリカ大陸全体への原子力導入を成功させたい」と抱負を語った。米DOEは2014年以来、NPMを複数設置したVOYGRシリーズの設計および許認可取得への支援に、5.79億ドル(約830億円)以上を投じてきた。5万kWeのNPMは、米原子力規制委員会(NRC)から唯一、設計認証(DC)を取得しているSMR。ニュースケール社は2023年1月、出力を7.7万kWeまで引上げたNPMの標準設計承認(SDA)を申請し、NRCが現在審査中である。米DOSは、今年5月にガーナで開催された、アフリカ原子力ビジネスプラットフォーム会合で、ガーナをSMRの地域ハブとすることを含む、新たな民生用原子力協力を発表している。DOSが主導する「SMRの責任ある利用のための基礎インフラ(FIRST)」プログラムなどの能力開発イニシアチブを通じ、ガーナをアフリカにおける最初のSMRの運転者とし、将来のSMRサプライチェーンのニーズを支える人材育成と雇用創出を支援していく考えだ。なお、ケニアのエネルギー・石油省のA.ワチラ筆頭次官は、同サミットでのスピーチの中で、2034年までにケニア初の原子力発電所を、2030年までに研究炉を完成させる目標を再確認した。米DOEは、次回のサミットを2025年7月にルワンダで開催、特にSMRに焦点を当てる予定だという。
10 Sep 2024
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ポーランドの国営PEJは8月28日、ポーランド初となる原子力発電所建設に向けた準備作業を、建設サイトの地元県知事に申請した。PEJは、ポーランド初の原子力発電所の建設および運転の実施主体で、国営の特別目的会社(SPV)。米ウェスチングハウス(WE)社のAP1000を3基、同国北部のポモージェ県ホチェボ自治体内のルビアトボ–コパリノ・サイトに建設する。初号機は2033年に運転開始予定だ。準備作業の許可後、発電所の建設サイトでは、環境影響評価(EIA)で定められた条件に従い、植生の除去、植林、野鳥保護(巣箱設置)、測量作業、準備作業区域の柵設置などの準備作業を行う。PEJは今回、この作業許可申請と併せて、準備作業に係る環境影響の再評価報告書を提出した。報告書は、準備作業が環境に与え得る影響を分析したもので、2023年9月にポーランド環境保護総局(GDOŚ)がPEJに発給した、原子力発電所の建設・運転に関する環境決定の要件。準備作業は、約300 haのサイトで2段階に分けて行われ、実際の土木工事は、規制当局の国家原子力機関(PAA)およびポモージェ県知事が別途発行する建設許可の取得後に開始される。ポーランド政府は8月28日、2025年予算案で、46億ズロチ(約1,700億円)を原子力発電所の建設準備に割り当てると発表。また同月半ば、原子力発電所建設へのファイナンスに係る法案の中で、約600億ズロチ(約2.2兆円)を上限としたPEJへの資金供給計画について明らかにした。残りの資金は、機器供給国を中心とする外国輸出信用機関、米輸出入銀行(US EXIM)などから調達を計画している。
09 Sep 2024
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アラブ首長国連邦(UAE)の首長国原子力会社(ENEC)社が所有するバラカ原子力発電所の4号機(APR1400、140万kWe)が、9月5日に営業運転を開始した。これにより、同発電所は全基が運転中となった。UAE初の原子力発電所であるバラカ発電所は、2012年7月からUAE北部のアブダビ首長国で建設工事が本格的に始まり、1、2、3号機はそれぞれ2021年4月、2022年3月、2023年2月から営業運転を開始している。4基いずれも、韓国製のPWR(APR1400、140万kWe)を採用し、運転や保守は2016年に設立されたENEC(株式保有シェア82%)と韓国電力公社(KEPCO)(同18%)の合弁企業であるNAWAHエナジー社が行っている。バラカ発電所は年間400億kWhを発電し、UAEの総発電電力量の25%を供給。年間2,240万トンのCO2排出を削減し、UAE企業の脱炭素化も支援している。また、同発電所の建設により、新たに先進的な産業が生まれ、原子力科学分野の研究促進のほか、UAEの若手人材に教育と訓練の機会を提供、これまでに高度なスキルを有する2,000人以上の人材が、発電所の開発プロジェクトに参加したという。ENEC社のモハメド・アル・ハマディCEOは、「UAEは過去5年間でどの国よりも一人当たりのクリーンな電力を生産しており、その75%をバラカ発電所で発電している」「4基いずれも、初コンクリート打設から燃料装荷まで8年以内に実施されており、4号機では、建設準備開始から営業運転開始までの期間が1号機と比較して40%の短縮を達成した」と指摘している。
06 Sep 2024
2518
国営スロベニア電力(GENエネルギア)は8月28日の月例記者会見で、クルスコ原子力発電所の増設計画(JEK2プロジェクト)について今年後半に実施される国民投票の決定に先立ち、同プロジェクトに係る調査結果を公開した。JEK2プロジェクトは、クルスコ発電所(PWR、72.7万kW×1基)に最大240万kWeまたは2基を増設する計画。GENエネルギアは、国民投票前にJEK2プロジェクトについて広く国民の意識を高め、必要な情報を提供する方針の一環として、主要な調査結果を公開している。5月に示したJEK2の経済性評価に引き続き、今回、洪水危険性の分析、核燃料輸入に関連する財務・安全リスクの評価、およびJEK2から発生する放射性廃棄物と使用済み燃料の管理に関する調査結果を公開した。国民投票前に設定されたスケジュールに従い、他の調査結果も順次公開する予定である。洪水危険性の調査の結果、想定される最大水位より低い洪水はJEK2の建設計画地に脅威を与えないが、1万年に一度の洪水を想定した再評価を実施すると強調。核燃料の輸入に関連する財務および供給リスクの評価については、電力コストに占める燃料費の割合が、核燃料の方が化石燃料よりもはるかに小さいことに加え、核燃料の供給はユーラトムへの加盟によって保証されていると指摘した。放射性廃棄物と使用済み燃料の管理については、JEK2の運転時までには既存の技術や経験に基づき、処分・管理施設は完成しているが、相応の増強が必要になると説明している。また、JEK2プロジェクトにSMRを導入する可能性についての調査結果も報告。同プロジェクトの予想スケジュールとSMR開発状況の比較分析により、どのSMRもいまだ初号機リスクが高く、SMRの導入は小国のスロベニアにとって、時間的にもコスト的にもリスクがあるため適切ではないが、今後のSMRの開発の進展状況を注視していく考えを示した。なお、チェコのドコバニ、テメリンの両原子力発電所の増設計画で、韓国水力・原子力会社(KHNP)を優先交渉者に選定したチェコ政府の7月の決定についても概説。KHNPによるドコバニ発電所(5、6号機)へのAPR1000の建設提案で、総事業費の予想額は1基あたり79億ユーロ(約1.26兆円)であったが、5月のJEK2の経済性評価では、同規模の原子炉1基あたり約93億ユーロ(約1.48兆円)であったことを踏まえ、経済的仮定を再検証する国際的なレビューが進行中であると言及した。また、一般市民を対象とし、同プロジェクトやエネルギーに関する対話型の巡回プレゼンテーションを継続的に実施しており、9月末までに国内のさらに10か所で開催する計画だ。なお、JEK2プロジェクトの最終投資決定(FID)は2028年、着工は2032年、運開は2040年直前を予定している。スロベニアでは現在、クルスコ原子力発電所が1983年1月に営業運転を開始して以来、同国の総発電電力量の約40%を供給している。同発電所はGENエネルギアと隣国クロアチアの国営電力会社のHrvatska elektroprivreda(HEP)が共同所有。スロベニアの電力需要は、2050年までに倍増することが予想されているが、2033年以降は総発電電力量の約3分の1を供給する火力発電所を閉鎖する計画だ。2043年にはクルスコ発電所の運転期間(60年)も満了する。
06 Sep 2024
1057
フランス電力(EDF)は9月2日、フランスの原子力安全規制当局(ASN)の承認を受け、フラマンビル3号機(欧州加圧水型炉=EPR、165万kWe)の起動操作を開始、3日に初臨界を達成した。25%の出力レベルを達成後、送電網に接続する。初併入は今年秋の終わりまでに予定されている。その後、出力上昇試験を段階的に実施する。ASNは5月7日、EDFに対して3号機の試運転を認可。これにより、EDFは5月8日から燃料集合体241体の装荷を開始していた。フランス北部のノルマンディー地方にあるフラマンビル発電所の1号機、2号機は各々1986年12月、1987年3月に営業運転を開始。3号機は2007年12月に着工した。原子炉建屋のドーム屋根は2013年7月、原子炉容器は2014年1月に設置された。フランス国内で初のEPR建設だったこともあり、土木エンジニアリング作業の見直しのほか、福島第一原子力発電所事故にともなう包括的安全評価の実施、原子炉容器の鋼材組成の異常(炭素偏析)、2次系配管溶接部の品質上の欠陥等により完成が大幅に遅れた。当初は2012年に完成する予定だった。なお、完成の遅れとともに建設コストも大幅超過。EDFは2022年12月、完成時の総工費を132億ユーロ(約2.1兆円)と見積もっていたが、これは2006年5月当時の見積り33億ユーロ(約5,250億円)の4倍である。EPRは、フランスの国外では既に稼動している。中国の台山発電所1、2号機(EPR-1750、各175万kWe)は各々2018年12月、2019年9月に営業運転を開始。続いて欧州では、フィンランドのオルキルオト発電所3号機(EPR、172万kWe)が2023年5月に営業運転を開始した。英国ではヒンクリー・ポイントC発電所の1、2号機(EPR-1750、各172万kWe)が建設中だ。EDFはまた、2024年のフランスにおける原子力発電電力量について、当初の予測3,150億~3,450億kWhを修正し、3,400億~3,600億kWhに増加するとの見通しを示した。この増加予測は、運転停止の改善、応力腐食検査と補修作業の管理向上、および夏期に大きな気候事象がなかったためとしている。なお、2024年に入り、11基の原子炉が予定より早く送電網に再接続されたという。
05 Sep 2024
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スイス連邦政府は8月28日、国内のエネルギー安全保障強化に向け、原子力発電所の新規建設禁止を撤廃する考えを表明。A. レスティ環境・交通・エネルギー・通信大臣は、長期的な視点から増大する電力需要に対応するため、原子力発電を含む、あらゆる選択肢を堅持する必要性を強調した。スイスでは、2011年の福島第一原子力発電所事故後、50年の運転期間を終了した原子炉を2034年までに段階的に閉鎖する方針を政府決定。その後、2018年1月1日に施行した改正エネルギー法では、安全である限り、既存の原子力発電所の運転継続が認められた一方、原子炉廃止後のリプレース(新規建設)や使用済み燃料の再処理は禁止された。スイスでは昨今、2050年ネットゼロ目標の達成、人口増加に伴う電力需要の増加、地政学的な不確実性などにより、エネルギー事情は一変。今年2月には、原子力発電所の新規建設禁止に異議を唱える中道右派政党が中心となり、約13万もの署名を集め、「いつでも誰でも電気を(停電を阻止せよ)(Electricity For Everyone At All Times[Stop Blackouts])」イニシアチブ(国民発案)を発議した。同イニシアチブは主に、気候変動に配慮したあらゆる電源を認め、化石燃料に依存しないすべての技術によるエネルギー生産の権利を連邦憲法に明記するほか、原子力発電所の新規建設禁止の撤廃などを求めている。しかし、連邦政府はこのイニシアチブに対して反対を表明。その理由として、①連邦憲法は、すでに幅広いエネルギー供給を規定しており、原子力発電所の新規建設禁止の撤廃のために憲法改正は必要なく、立法レベルでの調整で十分、②連邦が電力供給の安全保障に責任を持つよう、連邦憲法への明記を求めているが、憲法は既に、連邦と州がそれぞれの権限の範囲内でエネルギー供給に尽力しなければならないと規定済み、③電力不足の場合の予備電源の稼働可能性が不透明で、電力供給に新たな不確実性をもたらす可能性――を挙げた。今後、連邦政府は同イニシアチブの対案として、原子力法の改正案を策定し、来春以降、連邦議会でそれらを審議する予定だ。今回の連邦政府の発表について、スイス原子力協会(SVA)は、新規建設の禁止撤廃は、安全面かつ気候面に配慮した電力供給に向けた重要な一歩となると歓迎。その一方で、同協会は、国内での新規建設プロジェクトを可能にするためには、許認可手続きの簡素化や計画・建設段階でのファイナンスなど、事業環境整備の必要性などを強調した。スイスでは現在、ベツナウ1、2号機(PWR、38.0万kW×2基)、ゲスゲン(PWR、106.0万kW)、ライプシュタット(BWR、128.5万kW)の計4基・310.5万kWが運転中。2023年の原子力発電電力量は234億kWh、原子力シェアは32.4%だった。
05 Sep 2024
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ウクライナの原子力発電会社であるエネルゴアトム社は8月27日、新規原子力発電所となる、チヒリン(Chyhyryn)発電所の建設計画を明らかにした。同発電所サイトは、同国中央部のチェルカースィ州オルビタ町の近くのチヒリンに所在。2050年までのウクライナのエネルギー戦略では、原子力発電設備容量を現在の約1,380万kWeから、2,400万kWeへ拡大することを掲げており、エネルゴアトム社は同計画を、ロシアのウクライナ侵攻後の復興とエネルギー安全保障の確保に向けた看板プロジェクトと位置付けている。同サイトでは、米ウェスチングハウス(WE)社製AP1000×4基を建設する計画だ。チヒリン原子力発電所はソ連時代にも建設が進められていたが、チョルノービリ事故後の世論の圧力から、建設工事は1989年に取止めとなっていた。この建設プロジェクトの実施に向け、チヒリン市議会は、エネルゴアトム社に対し、総面積約38 haの土地の譲渡と土地開発プロジェクトを許可した。エネルゴアトム社は、オルビタ町を復興させ、ネティシン(フメルニツキー原子力発電所)、ユジノウクラインスク(南ウクライナ原子力発電所)、ヴァラシュ(リウネ原子力発電所)のような発電所近隣にある職員の居住都市にしたい考えだ。エネルゴアトム社は現在、ロシア型PWR=VVER-1000を採用したフメルニツキー原子力発電所3、4号機の建設再開に向け、準備中だ。同3、4号機は1980年代に着工したが、1990年から建設工事は、それぞれ75%、28%の工事進捗率で中断していた。また同発電所では、米WE社製AP1000を採用した5、6号機の増設プロジェクトも動き始めている。ウクライナ最高会議で「フメルニツキー3、4号機のサイト、設計、建設に関する法案」が近く審議され、採択後の3年以内に3号機を、その後、4、5、6号機を完成させる計画だ。なおWE社は、同3、4号機のVVER-1000を第3世代+(プラス)炉の安全レベルにするため、追加の安全システムの設計支援を実施している。エネルゴアトム社は今年5月、南ウクライナ原子力発電所(VVER-1000×3基、各100万kWeが運転中)の4、5号機にAP1000を採用した増設計画も明らかにしている。
04 Sep 2024
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チェコ電力(ČEZ)は8月27日、チェコ政府と小型モジュール炉(SMR)の開発に係る安全保障協定を締結した。国内に導入するSMRのサプライヤーを選定する際、大型炉の建設と同様に、国家の安全保障を確保するのが目的。2021年9月に成立した低炭素エネルギーへの移行法により、サプライヤー選定に先立ち必要となる取決めである。J. スィーケラ産業貿易相は、「SMRは老朽化した石炭火力発電を代替し、チェコの将来のエネルギーミックスにとって不可欠となる可能性がある。同時に、SMR建設プロジェクトはチェコ経済にとって大きな好機。大型炉の場合と同様に、機器の製造やサプライチェーンに参加する機会もある。本協定は、SMR開発における国家の安全保障の確保を保証するものだ」と語る。ČEZは、チェコのエネルギー安全保障を維持するため、SMRが大型炉を適切に補完し、長期的に原子力と再生可能エネルギーの組合わせによるエネルギーミックスを追求する中で、大きな役割を果たすと考えている。現在、チェコの総発電電力量に占める原子力発電のシェアは40%である。ČEZは、南ボヘミアのテメリン原子力発電所の近くにSMR初号機の建設を計画している。2040年までに予定されている大型炉の運転に先立ち、完成させる計画だ。ČEZは南ボヘミア州政府および同社子会社であるÚJV Řežと、「南ボヘミア原子力パーク」プロジェクトを始動、緊密に協力して準備を進めている。また後続のSMRの建設サイトについては、閉鎖予定の石炭火力発電所サイトであるチェコ北東部のジェトマロヴィツェ(Dětmarovice)および北西部のトゥシミツェ(Tušimice)で、サイト適性の調査を集中的に進めている。なお、ČEZはこれまでに、米ニュースケール社、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社、英ロールス・ロイス社、フランス電力(EDF)、米ウェスチングハウス(WE)社、韓国水力・原子力会社(KHNP)、米ホルテック・インターナショナル社とSMR分野での協力覚書を締結し、建設の実行可能性等を調査中である。チェコ政府内で独立した第三者機関である競争保護局(UOHS)は8月27日、米WE社と仏EDFが、チェコのドコバニ原子力発電所5、6号機のほか、テメリン原子力発電所3、4号機の増設で、今年7月に韓KHNPが優先交渉者に選定された入札手続きの見直しを求めていることを明らかにした。EDFは入札の競争者。WE社は、必要な条件を満たしていないという理由で1月に入札から除外されていた。WE社は、韓国のAPR1000やAPR1400はWE社の技術を組み込んでいると主張、知的財産権と輸出管理をめぐってKHNPと係争中だ。WE社は、国際仲裁が2025年後半までに決着する可能性は低いとみている。
03 Sep 2024
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米原子力規制委員会(NRC)は8月28日、ドミニオン・エナジー社がバージニア州で運転するノースアナ1、2号機(PWR、各100万kW級)に対して、2回目となる運転期間延長を承認した。1978年と1980年に送電開始した両機は、2003年に当初の運転期間である40年間にプラス20年間の運転期間延長が認められ、現行の運転認可はそれぞれ2038年と2040年まで有効。今回さらに20年が追加されたことから、それぞれ運転期間は80年に延長され、1号機は2058年4月まで、2号機は2060年8月まで運転することが可能になった。ドミニオン社はこれまで両機の運転継続に向けて、発電機や復水器の交換、原子炉冷却ポンプの改修などの改造工事のほか、追加検査や機器の試験などを実施してきた。ドミニオン社が両機の2回目の運転期間延長申請を発表したのは2020年9月。その前月には、NRCは同社の申請書を既に受理しており、NRCの担当部門は2022年1月に安全性評価報告書(SER)の最終版を発行したほか、今年7月には環境影響声明書(EIS)の最終版を発行。これらの中で、両機の運転期間をさらに20年延長したとしても、安全面や環境影響面の問題はないと結論付けている。また、NRCの原子力安全許認可会議(ASLB)は、反原子力3団体がノースアナ・サイトの地震リスクを理由に聴聞会を要請したことに対応。2024年7月、ASLBは同要請について、「解決すべき争点が残っていない」と結論、反原子力団体による申し立てを退けた。なお、ASLBの決定は現在、NRCに上訴されているが、NRCの規則により上訴中であっても認可を発給することが可能。NRCはこれまでに、送電開始以降の運転期間を合計で80年とする認可をフロリダ・パワー&ライト(FPL)社のターキーポイント3、4号機(PWR、各82.9万kW)、コンステレーション・エナジー社とPSEG社が共同所有するピーチボトム2、3号機(BWR、各141.2万kW)、およびドミニオン社のサリー1、2号機(PWR、各89万kW)に対して発給している。そのうち、気候変動を含む潜在的環境リスクの見直しに伴い、再評価が必要となったターキーポイント3、4号機とピーチボトム2、3号機については、再評価完了まで80年運転認可の効力が一時停止している。 NRCによると、後続案件として7サイト・14基について現在、2回目の運転期間延長申請を審査中で、今後の申請予定については、名前が明らかにされていない原子力サイトを含め、18サイト・少なくとも20基以上にのぼるとみられる。
03 Sep 2024
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米ウェスチングハウス(WE)社は8月23日、英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)が同社製の小型モジュール炉(SMR)であるAP300(PWR、30万kWe)の英国の包括的設計審査(GDA)への参加を正式に承認したと発表した。WE社は今年2月、DESNZにAP300のGDAを申請していた。DESNZはWE社のGDA申請書を事前に精査、AP300のGDA開始前の評価基準適合を確認後、原子力規制庁(ONR)が同設計の安全性とセキュリティ面について、環境庁(EA)が(該当する場合、ウェールズ自然保護機関(NRW)も)環境影響面について、英国の基準を満たしているかを2段階で、サイト特定後の建設許可申請とは別に評価する。WE社が2023年5月に発表したAP300は、同社のAP1000型炉をベースとした1ループ式のPWRで、2030年代初頭に初号機の運転開始を目指している。AP300は、AP1000のエンジニアリング、コンポーネント、サプライチェーンを活用し、許認可手続きの合理化が可能だ。WE社傘下のWEエナジー・システムズ社のD. リップマン社長は、「英国はAP300の基盤技術に精通しており、AP1000が英国および世界で許認可を取得してきた確固たる実績があるため、GDA手続きを迅速に進められる」と指摘し、自信を示した。英政府は原子力発電設備容量を、現在の653.4万kWから2050年までに2,400万kWまで拡大する計画を発表しており、SMR導入も謳われている。すでにAP300は、英国の原子力発電所新設の牽引役として2023年7月に発足した政府機関「大英原子力(Great British Nuclear:GBN)」が実施するSMRの支援対象選定コンペの最終候補の1つに選定されており、現在、評価中だ。今年2月、WE社は英国のコミュニティ・ニュークリア・パワー(CNP)社と、AP300×4基の建設で合意した。建設予定地はイングランド北東部、ティーズ川北岸にあるノース・ティーサイド地域。経済発展が著しい同地域では、カーボンフリーで安定した電力供給が可能な電源が必要とされており、英国初の民間出資の建設プロジェクトとなる。WE社によると、AP300は英国の他、欧州、北米の顧客に導入が検討されているという。
02 Sep 2024
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英国のロンドンに拠点を置く世界原子力協会(WNA)は8月19日、世界中で稼働する商業炉の2023年の運転実績について取りまとめた報告書「World Nuclear Performance Report 2024」を公表した。 原子炉配管の応力腐食割れ(SCC)の保守作業が終了したフランスの原子力発電所が再稼働したことなどが主に影響し、原子力の総発電電力量は2022年実績の2兆5,440億kWhから2兆6,020億kWhに増加。総発電電力量に占める原子力の割合は、約9%となった。また、原子力発電設備容量は3億9,200万kWと、2022年実績から100万kW減少した一方、平均設備利用率は2022年実績の80.4%から81.5%に増加した。報告書によると、2000年以降、世界的に原子力の平均設備利用率は、プラントの新旧を問わず、総じて高めで推移していると分析している。報告書の結論の中で、WNAのS.ビルバオ・イ・レオン事務局長は、世界の原子力発電開発推進の勢いがさらに高まっている現状をふまえ、「世界中の多くの原子炉は優れた運転実績を積み重ねてきており、これらの実績を基に今こそ新規建設を大幅に加速させる時だ」と主張した。 報告書によると、2023年末現在、世界で運転可能な商業炉は437基。2023年に5基の原子炉が閉鎖されたものの、5基が新たに送電を開始したため、2022年と比較して基数に変化はなかった。 なお、日本の商業炉は運転停止中のものも含め33基が運転可能としてカウントされている。また、同事務局長は2023年12月に開催されたCOP28での「原子力3倍化の宣言」に触れ、目標達成のためには大幅な新規建設の拡大が必須と指摘、特に西側諸国での新規プロジェクトの成功は、資金調達、サプライチェーン、規制の課題を原子力産業界がクリアできるかどうかにかかっていると強調した。今回の報告書のその他の主な判明事項は以下の通り。 原子力発電電力量の増加は、フランスが420億kWh増加したこと、中国、韓国などアジア地域での新規系統接続の増加が主な要因。 2023年に世界で6基の原子炉(中国5基、エジプト1基)が着工しており、いずれも大型のPWRである。新たに中国、スロバキア、米国、ベラルーシ、韓国で各1基が送電を開始した一方、5基が永久閉鎖された。その内訳は、ベルギー、台湾で各1基、ドイツで3基で、いずれも脱原子力政策により閉鎖されている。世界の原子炉の3分の2が、80%以上という高水準の設備利用率をマークした。地域別では、北米の平均設備利用率が最も高い。炉型別で比較した場合、BWRが最も高い設備利用率を達成している。2023年に送電を開始した原子炉の平均建設期間は115か月で、2021年の88か月、2022年の89か月から増加し、近年の平均よりも長期に及んでいる。原子炉の運転実績は、ばらつきはあるものの、経年による低下はみられない。また、運転期間が25~35年の場合は原子炉の平均設備利用率が低く、運転期間が45年を超えると平均よりも設備利用率が高い傾向にある。そのほか、報告書では、米国のパリセード原子力発電所(PWR, 85.7万kW)の再稼働、韓国水力原子力(KHNP)の運転期間延長、チェコのドコバニ原子力発電所(VVER-440×4基)の出力増強に関する、各々の取り組みがケーススタディとして紹介されている。
02 Sep 2024
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米テネシー州のテネシー峡谷開発公社(TVA)の理事会は8月22日、テネシー州オークリッジ近郊のクリンチリバー・サイトへの小型モジュール炉(SMR)建設に向けて、1.5億ドル(約217.5億円)の追加出資を承認した。すでに2022年2月の理事会で2億ドル(約290億円)の出資を承認しており、今回の承認によりSMR建設プロジェクトは総額3.5億ドル(約507.5億円)となる。人口および経済が拡大する地域の電力供給にSMRを活用し、クリーンエネルギーへの移行の加速化をねらう。TVAのJ. ライアシュCEOは、「SMRは、米国が覇権を握るべきエネルギー革新技術。米国のエネルギー安全保障のためであり、まさに国家安全保障である」と述べた。また、テネシー州のB. リー知事は、「テネシー州民は、安全でクリーンで信頼性の高い原子力へのTVAの継続的な投資を高く評価。テネシー州は原子力エネルギー企業が投資して繁栄するナンバーワンの州となる」と今回の追加出資を歓迎している。TVAはクリンチリバー・サイトについて2019年12月、米原子力規制委員会(NRC)より、SMR建設用地として事前サイト許可(ESP)を取得済みだ。TVAは合計電気出力が80万kWを超えない2基以上のSMRの同サイトでの建設を想定し、2016年5月にNRCにESPを申請していた。TVAは、SMRの中でも最も実現性が高いとの判断から、2022年8月、クリンチリバー・サイトで、米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMRのBWRX-300(BWR、30万kWe)を建設する可能性に基づき、予備的な許認可手続きを開始した(既報)。TVAは、先進炉の開発・導入には連邦政府による支援が不可欠であり、財務的・技術的リスク回避の観点から、複数のパートナーと連携して開発すべきとの考えだ。そのため、カナダのダーリントン新原子力プロジェクトにBWRX-300を採用した、加オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社と2022年4月に提携で合意、SMRの設計、許認可、建設、運転について協力するほか、ポーランドにBWRX-300導入を計画する、オーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社とも革新技術導入に伴う財務リスク低減のためノウハウの共有促進で協力する。さらに、TVAは2022年4月、米ケイロス・パワー社が結成した北米電力会社のコンソーシアム(加ブルース・パワー社、米コンステレーション社、米サザン・カンパニー)にも参加し、ケイロス社のフッ化物塩冷却高温炉(FHR、14万kWe)の開発を支援している。2021年5月、ケイロス社と低出力(熱出力3.5万kW)のFHR実証炉ヘルメスの建設への協力を表明。クリンチリバー・サイトに近い、米エネルギー省(DOE)の東部テネシー技術パーク(ETTP)内での建設に向けて、エンジニアリング、運転、許認可手続関係の支援を実施している。TVAは1933年、米大統領F. ルーズベルトが、世界恐慌の対策として実施したニューディール政策の一環として、テネシー川流域の総合開発と失業率対策を目的に行われた米政府による公共事業を実施する国有電力企業。現在、アラバマ州、テネシー州において3サイトで計7基の120万kW級の大型軽水炉を所有/運転する。
30 Aug 2024
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カザフスタンの首都アスタナで8月20日、今秋に予定されている原子力発電所の建設に関する国民投票を前に、20回目となる最後の公開討論が開催された。公開討論は、原子力分野の専門家、政府関係者、一般市民が参加し、国内複数の地域で2023年夏から開催されてきた。同討論会で、エネルギー省原子力産業局のG. ムルサロヴァ副局長は、同国は総発電電力量の70%を石炭火力に依存しており、複数の石炭火力発電所が今後10年で閉鎖されると指摘。一方、電力消費量は年間約3%増加し、2023年には消費電力1,150億kWhの内、20億kWhがロシアから供給されたと懸念を表明。エネルギー安全保障の観点から、今こそ原子力発電所の建設に向けて行動する時だと述べた。また、周辺国の状況として、ベラルーシとアラブ首長国連邦が初の原子力発電所を運転開始し、トルコでは現在建設中、隣国ウズベキスタンは小規模な原子力発電所の建設を発表していると強調した。有限責任事業組合「カザフスタン原子力発電所」(KNPP)のT. ジャンチキン事務局長は、首都アスタナを含むカザフスタン北部では電力不足はないが、同国最大の人口を擁する南部の都市アルマティ周辺の状況は複雑で、既存の送電線も南部地域への送電には十分な容量ではないと説明。なお、アルマティ州のジャンブール地区にあるバルハシ湖西南のウルケン村が原子力発電所の建設サイトとして選定されている。また同事務局長は、13件の炉型候補から、建設と運転経験で実証済みの4炉型の選定に言及したほか、原子力発電所の建設は、新たな雇用創出だけでなく、同国経済と関連産業の発展に重要な相乗効果を与えるものだと強調した。KNPPは、カザフスタンにおける原子力発電所建設の事業化可能性調査や設計文書の作成などを目的に2014年に設立された。2023年9月、K.-J. トカエフ大統領は国民向けのメッセージの中で、原子力発電の導入は経済的・政治的に重要であると強調し、原子力発電所の建設を国民投票で決議することを提案。同大統領は今年6月下旬、原子力発電所の建設に関する国民投票を今秋実施すると発表した。なお、大統領直轄の戦略研究所はこのほど、8月7日~18日に実施した原子力発電所建設に対する国民の意識調査の結果を公表した。調査は、大都市であるアスタナ、アルマティ、シムケントを含む17の地域の18歳以上の1,200名を対象に電話で実施された。回答者の53.1%が原子力発電所建設を支持し、32.5%が反対を表明している。
29 Aug 2024
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中国国務院の常務会議は8月19日、5サイトで、11基の新設を承認した。なお、「安全確保は原子力発電の発展の生命線。原子力発電の安全技術水準とリスク防止の能力を絶えず向上させ、全分野にわたり安全監督管理を強化、原子力業界の長期的かつ健全な発展を促進しなければならない」と強調した。今回承認された新設11基は、以下の通り。■中国核工業集団公司(CNNC)江蘇省 徐圩原子力発電所第1期プロジェクト計3基(PWR=「華龍一号」(HPR1000)×2基、各120.8万KWe、HTGR「HTR-PM600S」×1基、66万kWe)■中国広核集団(CGN)山東省 招遠原子力発電所1、2号機(「華龍一号」(HPR1000)×2基、各121.4万kWe)広東省 陸豊原子力発電所1、2号機(PWR=CAP1000×2基、各124.5万kWe)浙江省 三澳原子力発電所3、4号機(「華龍一号」(HPR1000)×2基、各121.5万kWe)■国家電力投資集団(SPIC)広西チワン族自治区 広西白龍原子力発電所第1期プロジェクト1、2号機(CAP1000×2基、各125万kWe)CNNCの徐圩原子力発電所第1期プロジェクトは、中国が独自開発した第3世代の加圧水型炉と第4世代の高温ガス炉を連結した世界初の原子力発電所となる。原子炉、蒸気タービン発電機、加熱システムを含む統合運転方式を採用。主に工業用熱(高温蒸気)供給に焦点を置き、余剰熱エネルギーを電力供給に転用する。加熱負荷に応じて発電量を決定する運転モードの採用は初となる。第1期プロジェクトの発電所が完成すれば、近隣の連雲港石油化学工場に低炭素電源による大規模で高品質な熱を供給し、エネルギー集約型産業の脱炭素化を後押しするという。CGNの陸豊原子力発電所では、現在、5、6号機(華龍一号、各120万kWe)が先行して建設中。今回、承認された同1、2号機で採用されるCAP1000は、米ウェスチングハウス(WE)社製AP1000の中国版標準炉モデルである。また、三澳原子力発電所では現在、1、2号機(華龍一号、各112.6万kWe)が建設中だ。CGNによると現在、承認された新設に向けて様々な準備作業を進めており、国家核安全局(NNSA)から建設許可を取得した時点で着工する予定だ。SPICの広西白龍原子力発電所第1期プロジェクトでは、今回承認された同1、2号機が建設されるが、後続のプロジェクトでは「国和一号」(CAP1400、153万kWe)を採用した4基の建設が計画されている。2023年の中国における総発電電力量のうち、原子力発電シェアは約4.9%。同年の原子力発電電力量は4,065億kWhで、米国に次いで第2位である。なお、原子力発電設備容量は5,699.3万kWで、米国、フランスに次ぎ、第3位。
28 Aug 2024
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南アフリカのK. ラモコパ・エネルギー・電力相は8月16日、計250万kWeの原子力発電所の建設の調達プロセスに関する大臣決定を撤回すると発表した。パブリックコメントを募集しなかったことが、手続きの上で不備と指摘されたため、あらためてパブコメを募集し、手続きの透明性を確保するという。同大臣は、原子力は南アフリカのエネルギーミックスの重要な構成要素であり、国のエネルギー安全保障と気候目標に大きく貢献できる低炭素で信頼性の高い電力を供給するものと強調。「今回の撤回は、このような重大な決定において国民の声が確実に考慮されるようにする重要な一歩だと考えている」と述べた。プロセスは3~6か月遅れとなるが、確実に調達プロセスを実施するという。新規原子力発電所の建設計画は、2019年に公表された、国のエネルギー・インフラ開発計画である「2030年までの統合資源計画(IRP2019)」に明記されている。現在、政府は改定版となるIRP2023の草案を最終調整中だ。
27 Aug 2024
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米ホルテック・インターナショナル社は8月15日、同社のパリセード原子力発電所の改修の一環として、ミシガン湖の水温上昇予測に対応する新しい熱交換器システムを製造中であると発表した。ホルテック社によると、湖や海、川などの水域からの冷却水に依存する発電所の出力は、地球温暖化の影響で水温が上昇するにつれて確実に低下。現在、改修工事中のパリセード原子力発電所に冷却水を供給するミシガン湖の水温は、世界の他の貯水池と同様に上昇を続けており、今後数十年の運転期間延長の間にも、上昇を続けると予想している。パリセード発電所の改修の一環として、ホルテック社は、ペンシルベニア州ピッツバーグにある自社の工場で冷却水熱交換器システムを製造している。既存の熱交換器の設置スペースが極めて限られる中、予想される湖水温度の上昇に対応するため、新しい熱交換器は既存の2倍以上の伝熱面積が必要であった。自社の革新的な設計開発によりアップグレードされた熱交換器セットは、2025年末に予定されるパリセード発電所の再稼働のため、今後1年以内に設置される予定。この冷却システムのアップグレードには土木/構造工事がほとんど必要なく、費用は当初の見込みより50%以上削減できる可能性があるという。ホルテック社のJ. ラッセル広報担当責任者は、「地球温暖化が原子力発電所やその他の発電所に及ぼす悪影響と闘うために何が可能か、この技術的成果を他の発電所の関係者と共有したい」と述べた。パリセード発電所(PWR、85.7万kWe)は、1971年に営業運転を開始し、2022年5月に永久閉鎖となり、翌6月、同発電所は所有者・運転者のエンタジー社から、廃止措置を実施するため、ホルテック社に売却された。近年、各国が炭素負荷の抑制に取り組み、原子力のようにクリーンなエネルギー源が重視される時代となったことを受け、ホルテック社は同発電所を再稼働する方針に切り替え、2023年10月、米原子力規制委員会(NRC)に運転認可の再交付を申請した。パリセード発電所の再稼働方針については、ミシガン州のG. ホイットマー知事が2022年9月に支持を表明。2023年7月には、同発電所の再稼働に1.5億ドル(約215.4億円)の支援を盛り込んだ2024会計年度の州政府予算法案に署名している。2024年4月には、米エネルギー省(DOE)が融資プログラム局(LPO)を通じて、同発電所の再稼働に向けた融資保証として15.2億ドル(約2,183.2億円)を上限とする条件付きの提供を発表。ホルテック社は、少なくとも2051年まで運転できるよう種々の機器の大規模な改修や交換工事プラントの改良を実施中だ。なお、ホルテック社は、同社製小型モジュール炉「SMR-300」(PWR、30万kWe)を2基、パリセード発電所サイトに建設する計画も進めている。同2基が稼働すれば、ミシガン州の無炭素電源の設備容量はほぼ倍増となる。2026年の建設許可申請を予定している(既報)。
26 Aug 2024
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米ウェスチングハウス(WE)社は8月15日、米原子力規制委員会(NRC)から、同社製事故耐性燃料(ATF)であるEncore燃料の燃焼度制限引上げの承認を取得した。国内で初承認となる。燃料効率の向上、燃料交換間隔の延長により、運転コストの削減に貢献する。米国のPWRは現在18か月サイクルで運転されており、この新しい高燃焼度燃料によって供給バッチサイズを小さくすることが可能になり、燃料サイクルの経済性が改善される。米国で初めて62,000MWd/tの燃焼度制限を超えた燃料装荷が可能となり、将来的には24か月サイクル運転になることが期待される。WE社は、今回の燃焼度引上げの承認が、2012年に同社が開始したATF開発プログラムにとって重要なマイルストーンと強調する。同プログラムには、米エネルギー省(DOE)が資金拠出。米国のエネルギー安全保障と気候目標の達成支援のため、原子炉性能と安全性を向上させることを目的としている。WE社のEncore燃料は、既存燃料よりもはるかに厳しい条件下で耐性を持つ。炭化ケイ素燃料被覆管の融点は極めて高く(2,800℃以上)、水との反応が少ないため、特にジルコニウム燃料被覆管が1,200℃を超えると水素と熱の生成反応が著しくなるのに比べ、過酷事故条件下で画期的な安全性を発揮するという。また、同社はジルコニウム-蒸気反応も抑制する代替被覆管材料であるクロムコーティングジルコニウム合金も開発している。
26 Aug 2024
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欧州原子力共同体(ユーラトム)供給局は8月13日、欧州域内における燃料供給に関する2023年の年次報告書を公表。多くの国でロシア型PWR(VVER)向け燃料の供給保証が大幅に向上したとする一方、転換・濃縮サービスの多様化に関しては課題が残ると強調している。報告書はまず、2023年の核燃料供給状況について、ウクライナ紛争の影響やロシア依存脱却に向けた供給多様化の必要性、地政学的影響に関連した供給の不確実性に直面したと指摘。同時に、一部の国による原子力発電所の運転期間延長や拡大計画、小型モジュール炉(SMR)や先進モジュール炉(AMR)などの革新炉プロジェクトの出現、さらには医療用RIの利用に対する関心の高まりにより、ヨーロッパにおける核物質の供給状況が変化していると指摘した。報告書は今後も、少なくとも中長期的には、天然ウラン、燃料加工、関連サービスに対する需要は、地政学的状況の課題やさまざまなリスクに左右されるであろうと結論付けている。こうしたなか、EU域内(27か国)では103基の原子炉が運転中で、2023年の原子力発電電力量は5,876億kWh、総発電電力量に占める原子力の割合は約23%であった。このうち、フランス、スロバキア、ハンガリー、ブルガリアの原子力シェアは40%を超えている。EUの天然ウランの調達先をみると、カナダが約33%(4,801トンU)、ロシアが約23%(3,419 トンU)、カザフスタンが21%(3,061トンU)、ニジェールが約14%(2,089 トンU)と、EUの天然ウランの91%以上をこれら4か国が供給。このうち、カナダからの供給が前年比約86%増、ロシアからの供給も約73%増と大きく伸長した。ロシアからの供給増について、報告書は、ロシアのウクライナ侵攻による地政学的緊張を受けた、VVER用燃料備蓄の動きによる影響であり、現段階ではEUのロシア依存の高まりとして解釈すべきではないとした。2022年以降、VVERを運転するハンガリーを除くEUの事業者(ブルガリア、チェコ、フィンランド、スロバキア)は、新たな燃料サプライヤーとの燃料供給契約を締結するなど燃料供給先の多様化に取り組んでいるが、代替燃料等が完成、認可されるまでの期間をカバーするため、既存の燃料の備蓄を積み上げている状況だ。不安定な市況に対応するため、EUの電力会社は在庫を積み増した結果、2023年のEU全体の在庫水準も約5%増加、さらに濃縮ウランの在庫も13%増加した。報告書は、大多数の電力会社は、2 回以上の燃料再装荷が可能な在庫状況にあるとし、健全なレベルを維持しているとの見方を示している。一方で、報告書は、原子力発電に対する関心が世界的に再燃するなか、エネルギー自立を維持しつつ、気候目標を達成するためには、信頼性の高いサプライチェーンの開発に向けたさらなる取り組みが必要と指摘。特に、転換・濃縮における西側諸国の潜在的な能力不足を挙げ、これらサービス確保の重要性を強調した。そのうえで、今後、転換・濃縮サービスの安定的かつ信頼性のある供給を確保するためには、新たな生産能力へのさらなる投資が不可欠であり、原子力産業が多額の投資をできるよう、安定した予測可能な市場環境の整備、投資家に保証を与える長期契約や明確な政治的コミットメントの必要性を勧告した。なお、EU域内における転換サービスは、仏加米などの西側諸国が約66%を供給、一方、EU域内での濃縮は55%と半分以上を占めている。報告書はまた、MOX燃料や再処理による回収ウランといった二次資源の利用が増加している点にも着目、今後10年間でこれらの利用が大幅に増加すると予測している。報告書によれば、2023年のMOXおよび回収ウランの装荷量は、天然ウラン換算で前年比44%増の481トンU、年間の原子炉所要量の3.6%を占めた。この二次資源利用の増加の傾向は今後も継続し、2034年以降は2,800トンU程度で安定すると分析している。なお、2023年のEU域内におけるMOX燃料の装荷量(プルトニウム換算)は、前年比59%増の4,787kgとなり、これによる天然ウランと濃縮役務(分離作業単位: SWU)の節減は、天然ウランで427トンU、濃縮役務で300,000SWUとなった。1996年から2023年までのMOX燃料装荷量は、累計で24万6,009kg(プルトニウム換算)となり、天然ウランと濃縮役務の節減もそれぞれ26,626トンU、18,085,000SWUに達している。EUにおけるMOX燃料装荷量は、2008年の16,430 kg(プルトニウム換算)をピークに、徐々に減少。報告書によると、2023年にMOX燃料を利用した国は、フランスとオランダの2か国のみとなっている。
26 Aug 2024
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英国のコアパワー社は8月15日、ロイド船級協会(LR)、海運業界最大手のデンマークのA.P.モラー・マースク社とともに、第4世代原子炉を動力源としたコンテナ船の実現に向けて、規制要件や安全性を調査する共同研究プロジェクトを開始した。 コアパワー社の発表によると、今回の共同研究は、温室効果ガス(GHG)排出量削減を求められている海運業界全体に、原子力船の実現に向けた判断材料を提供するのが狙いで、同社の浮体式原子力発電所プロジェクトを手掛けてきた経験、LRの長年にわたる船級協会としての専門知識、海運業界最大手のマースク社の経験を活かしていくとしている。コアパワー社のM. ボーCEOは、「原子力がなければ、ネットゼロを実現することは不可能だ」と述べ、LRのN. ブラウンCEOも「今回の共同研究開始は、海運業界に原子力発電の可能性を解き放つ刺激的な旅の始まり。海運業界の脱炭素化に向けた原子力を含む多燃料化は、国際海事機関(IMO)が求める排出削減目標を達成するために不可欠」と述べた。マースク社の船舶技術責任者である、O.G.ヤコブセン氏は、安全性、廃棄物処理、地域の理解といった原子力発電に関する課題に触れつつ、「これらの課題が第4世代の原子炉開発によって解決されれば、今後10~15年で物流業界の脱炭素化のオプションの一つとなり得る」と期待した。 IMOの「2023 IMO GHG削減戦略」は、国際海運からのGHG排出量を2050年頃までに正味ゼロにすることを目標として掲げ、海運業界にとってGHGの削減は大きなミッションとなっており、原子力船についても様々な方向から検討がなされている。今年6月にコアパワー社が英国で開催した「第5回海事向け新原子力サミット」には関係者250人以上が集まり、原子力と海事の専門家が原子力船実現に向けた講演やディスカッションを行った。なお、今年7月には韓国の大学で世界初の小型モジュール炉(SMR)搭載船舶を研究する機関が設立されている。
23 Aug 2024
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