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米国防総省、マイクロ原子炉の建設計画でBWXT社の高温ガス炉を選定

10 Jun 2022

BWXT社のマイクロ原子炉 © BWX Technologies

米国の原子力機器・燃料サービス企業であるBWXテクノロジーズ(BWXT)社は6月9日、国防総省(DOD)が軍事作戦用の可搬式マイクロ原子炉を設計・建設、実証するために進めている「プロジェクトPele」で、同社製の先進的高温ガス炉(HTGR)設計が最終的に選定されたと発表した。

DODの戦略的能力室(SCO)から獲得した約3億ドルの契約に基づき、同社は2024年までに米国初の先進的マイクロ原子炉となる同社製HTGRの原型炉(電気出力0.1~0.5万kW)をフルスケールで製造し、アイダホ国立研究所(INL)内に設置。HALEU燃料(U-235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の三重被覆層・燃料粒子「TRISO」を使用する同炉では、INLがその後、最大3年にわたって様々な実験プログラムを実施する。具体的には、同炉の操作性や分散型電源としての性能を確認するほか、システムの分解と再組立て実験を含む可搬化の実証も行うとしている。

DODの作戦活動では、年間約300億kWhの電力と一日当たり1,000万ガロン(約37,850m3)以上の燃料が必要。今後、この量は一層増加する見通しであるため、SCOは小型で安全かつ輸送も可能な原子炉でクリーンエネルギーを確保し、遠隔地や厳しい環境下での作戦活動を長期的に維持・拡大する方針である。SCOはまた、マイクロ原子炉を民生部門における災害対応とその復旧活動に活用し、脱炭素化構想の推進に役立てる可能性を指摘している。

INLで建設するHTGR原型炉は、市販の輸送用コンテナを使って、鉄道やトラック、船舶、航空機等で安全かつ速やかに運搬することを目指しており、長さ20フィート(約6m)の機器を内蔵した複数モジュールでの構成とする予定。設置場所で組立て始めて、72時間以内に稼働できるようシステム全体を設計する一方、撤収に際しては7日以内の停止、冷却、接続切断、分解、輸送機器への積載を可能にする計画である。

「プロジェクトPele」の非営利性に鑑み、SCOはエネルギー省(DOE)の権限の下でマイクロ原子炉の運転や実験を実施する考え。独立の立場から安全・セキュリティ面の規制を担う原子力規制委員会(NRC)も同プロジェクトに参加し、適用される原子力規制や許認可プロセスについて、SCOに正確で最新の情報を提供する。

BWXT社は今後約2年にわたり、バージニア州やオハイオ州にあるBWXTアドバンスド・テクノロジーズ社の施設で原型炉の製造に取り組む。約40名の熟練技能者やエンジニアを新たに雇い入れるなど、総勢120名余りを同プロジェクトに動員する計画である。このほか、同プロジェクトの主契約者BWXT社の業務を支援するため、様々な経験を積んだ企業チームが同社に協力。その主要メンバーには、軍需メーカーのノースロップ・グラマン社やエアロジェット・ロケットダイン社、英ロールス・ロイス社の北米技術部門であるリバティワークス、防衛・宇宙製造業のトーチ・テクノロジーズ社が含まれている。

BWXTアドバンスド・テクノロジーズ社のJ.ミラー社長は、「環境を保全しつつ必要な動力を得るため、当社は新しい原子炉を設計・建設・試験するというミッションに取り組んでいる」と説明。増加する電力需要に応えながらCO2排出量の大幅削減に貢献するには、先進的原子炉設計が重要な対応策になることを原子力産業界全体が認識していると強調した。

(参照資料:BWXT社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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