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米エネ省 HALEU燃料の製造能力実証でセントラス社に補助金交付

15 Nov 2022

出典:Centrus Energy Corp.

米エネルギー省(DOE)は11月10日、開発中の多くの先進的原子炉で使用が見込まれているHALEU燃料[1][U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン]の製造能力を実証するため、セントラス・エナジー社(旧・米国濃縮会社)の子会社であるアメリカン・セントリフュージ・オペレーティング(ACO)社に費用折半方式の補助金、約1億5,000万ドルを交付すると発表した。

この実証計画は、DOEが2019年11月に濃縮カスケードの実証でセントラス社と結んだ3年契約に基づいており、DOEは2020年のエネルギー法で承認された「HALEU燃料の入手プログラム」に沿って、同燃料を製造する複数の方法を模索中。今回の補助金のうち、初年の分担金である3,000万ドルは、オハイオ州パイクトンにあるセントラス社のウラン濃縮施設に、新型遠心分離機「AC100M」16台を連結したHALEU製造用カスケードを配備し、これを起動・運転するために活用される。

ACO社は現段階で「AC100M」の製造を終え、組み立て作業も概ね完了しているが、実証用カスケードに遠心分離ローターを設置する作業がまだ終わっていない。同社はこのような最終段階の作業を完了してから、実証カスケードの起動準備状態をレビューする方針である。これにより、2023年12月末までに濃縮度19.75%のHALEU燃料を20kg製造できるようUF6ガスの濃縮要件をクリアしていくほか、2024年も年間製造能力900kgのペースで運転を継続する。ただしその際は、議会からの予算配分と今後の契約に基づいた追加製造オプションが必要になるとしている。 

DOEの説明によると、HALEU燃料は先進的原子炉の設計を一層小型化するとともに運転サイクルを長期化し、運転効率を上げる際にも必要な重要物質。第4世代の小型高温ガス炉を開発しているX-エナジー社は今年10月、この設計に使用する3重被覆層・燃料粒子[2]HALEU燃料に黒鉛やセラミックスを被覆したTRISO燃料の商業規模製造施設の起工式をテキサス州オークリッジで開催したが、現時点で米国内ではHALEU燃料を商業規模で製造できるサプライヤーは存在しない。

このような状況は、米国の先進的原子炉開発とその建設に大きな支障をきたすとDOEは認識しており、商業規模の大型HALEU燃料製造施設を国内で建設することにより、一層多くの世帯や企業にクリーンで安価な原子力エネルギーを供給できると考えている。このことはまた、J.バイデン大統領が目標に掲げた「2035年までに電力を100%クリーン化」の達成にも重要な貢献をするほか、連邦政府のクリーンエネルギー投資から得られる利益の少なくとも40%を、経済的に不利な立場にある地域コミュニティに還元する取り組み「Justice40」を通じて、一層多くの経済的機会をこれらのコミュニティに提供できるようになるとしている。

DOEのJ.グランホルム長官は、「敵対国が供給するHALEU燃料への依存を減らし、自前のサプライチェーンを国内で構築すれば、米国は数多くの先進的原子炉を配備し国民にクリーンで安価な電力を今以上に供給可能になる」とコメント。「今回の実証計画を通じて、DOEは産業界のパートナーとともに、クリーンエネルギー関係の雇用創出につながる商業規模のHALEU燃料製造に向けて動き出しており、すべての米国民が原子力の恩恵を被れるようにしたい」と述べた。

DOEによると、今回交付した補助金はHALEU燃料製造能力の実証に向けた米国の近年の投資をさらに前進させるものであり、次の段階ではバイデン大統領が今年8月に成立させたインフレ抑制法の予算措置により、HALEU燃料製造能力獲得のための活動を支えていく。

DOEは2020年代末までに必要とされるHALEU燃料は40トン以上と予測しているが、バイデン政権の「電力を100%クリーン化する」目標の実現のために先進的原子炉が複数建設されることから、この量は毎年追加されていく見通し。今回の実証計画はHALEU燃料の短期的需要に対応するものだが、長期的には同燃料の認定試験やDOEが別途進めている「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」にも活かされると指摘している。

(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

脚注

脚注
1 [U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン]
2 HALEU燃料に黒鉛やセラミックスを被覆したTRISO燃料

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