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ドイツ原子力業界 閉鎖炉の運転再開を訴え

15 Apr 2025

桜井久子

2023年4月15日に閉鎖した、エムスラント原子力発電所  Ⓒ RWE

ドイツ原子力技術協会(KernD)は327日、2月の連邦議会選挙の結果を受けて発足する新政権に対し、気候目標の達成と経済強化に向けて、閉鎖済みの6基の原子炉を運転再開すべき、とする見解を発表した。

同協会は、「安定した持続可能なエネルギーのために、今こそ正しい決断を下す時」と述べ、「脱工業化、高すぎる電気料金、電力輸入への依存、不透明なエネルギー供給状況は、今すぐ終わらせなければならない」と主張した。さらに、ドイツの原子力発電所の運転継続は、現在のエネルギー政策に代わって、気候目標に対処し、安全で経済的に実行可能な選択肢であり、同国のエネルギーの未来のために現実的で持続可能な決定を下すためには、今後数か月が極めて重要であると強調している。

見解の中で、再生可能エネルギーは天候に左右され、ベースロード電力は、依然として石炭火力発電所と、今後稼働するガス火力発電所が担わざるを得ないことに言及。一方で石炭火力発電所の継続的な稼働により、CO2排出量は計画を大幅に上回り、現在の枠組みでは石炭を段階的に廃止していくスケジュールは非現実的であると指摘している。既存の閉鎖済みの6基の原子炉を運転再開させることで、石炭火力に代わり、年間約6,500万トンのCO2削減(ドイツの総排出量の約10%)、ガス発電では、年間約3,000万トンのCO2削減に貢献し、2045年にドイツの気候目標を達成できるとの見通しを示した。

加えて、原子力発電は安価な電力を産業や家庭に供給可能であるとし、最大6基を2030年までに運転再開させ、2050年頃までの運転が可能になると予測。年間発電量としては、約650kWhの利用が可能となり、解体状況にもよるが、運転再開1基につき10億~30億ユーロ(約1,620億円~4,860億円)の資金投入が必要と見込んでいる。

ドイツでは、2030年までに総電力需要が1kWh以上になると予測されている(2024年の実績は5,100kWh)。同予測では輸送と暖房の電化を考慮しているが、将来の技術(データセンター、AI)の大幅な拡大は考慮されていない。また、フランスなどの近隣諸国はAIに多額の投資を行っており、余剰電力をドイツに輸出できなくなる恐れがあるとしている。安価なエネルギーは、ドイツをビジネス拠点として、産業がドイツにとどまり、AI、データセンターなどの電力需要の高い未来の新技術を定着させるほか、他の欧州諸国からの電力輸入(2024年の純電力輸入量320kWh、主にフランスによる原子力発電)の減少により、自国内で独立した競争力のある電力を確保し、価格変動の抑制、産業の活性化に期待を寄せている。

なお、技術的にも、最大6基の運転再開は可能であるが、運転再開に向けた検査の実施と解体作業の即時中止が重要であり、決定が迅速であればあるほど、コストは少なくて済むと強調。原子力発電所の運転再開が、経済的にも社会的にも合理的、現実的な解決策であるとの考えを示した。

ドイツの原子力技術コミュニティは、ドイツの原子力産業と研究は準備ができており、安全な原子力発電所の運転再開を強く支持するとして、以下のようにコメントしている。

「原子力発電は、ドイツの気候目標に大きく貢献することができ、電力供給コストも削減できる」
― T. ザイポルト   NUKEMテクノロジーエンジニアリング社CEOKernD会長

「原子力発電所の運転再開を決定する連邦政府は、必要な条件を整えなければならない。一つ確かなことは、原子力発電は、短期的にCO2排出量を削減し、低電力コストを通じて経済の競争力を強化するための重要な柱であるということだ。当社はドイツの原子力発電所の建設者。発電所に精通しており、発電所を安全に運転再開させるために必要な手順を実行できる専門知識を有している」
C. ハーフェルカンプ   フラマトム(ドイツ)社取締役、KernD副会長

「燃料供給は簡単。この選択肢を真剣に考えることは理に適う。原子力再開の利点は、気候保護、エネルギーセキュリティの確保、ロシアへの依存からの脱却だ。そして最後に重要なのは、ドイツの産業の競争力だ」
J. ハレン   ウレンコ・ドイツ社取締役、KernD副会長

「原子力発電は、ドイツの再生可能エネルギーを完全に補完するもの。安全性を損なうことなく、2030年までに原子力発電所の運転再開は可能だ。当社は、国際的な専門知識を持って、ドイツが将来に向けて正しい道を歩むことを支援し、運転再開に向けて必要な製品とサービスを提供する」
M. パシェ   ウェスチングハウス・ドイツ社取締役、KernD理事

「ドイツは、原子力発電所の安全かつ効率的な運転に関する広範な専門知識を有している。原子力技術部門と研究機関は、原子力の運転再開に向けた訓練機会とノウハウを提供できる」
M. コシュ   ルール大学ブーフム、プラントシミュレーション・安全担当教授、KernD理事(研究・人材開発担当)

「ドイツは依然として原子力技術の専門知識を必要としている。研究機関、大学、革新的な企業のネットワークを維持し、若い才能を引き付けなければならない。運転再開は、経済的利益と環境への利点をもたらし、専門知識の維持と発展に大きく効果的に貢献する。ドイツは国際的に追いつくこの機会を逃すべきではない」
T. トロム   カールスルーエ工科大学放射性廃棄物管理・安全・放射線研究 (NUSAFE)プログラムスポークスマン

「ドイツの原子力技術コミュニティは、私たちの安全な原子力発電所の運転再開を強く支持している」
F. アペル   ドイツ原子力学会会長、KernD理事

ドイツでは20234月中旬に脱原子力を達成している。1998年に環境政党の緑の党を含む連立政権が発足、2002年に段階的原子力発電廃止を定める原子力法が発効。その後、発足した新政権は2010年、脱炭素化促進のために、運転期間延長を規定する原子力法改正を実施し、段階的廃止を中止するも、2011年には福島第一原子力発電所事故が発生。当時のメルケル政権は同年6月、2022年末までに全基の原子炉を廃止するための原子力法修正案を閣議決定し、同案は翌7月に可決された。8基が直ちに閉鎖され、その後2021年末までにさらに6基が閉鎖。残る3基も2022年末までに閉鎖予定だったが、政府は202210月、ロシアのウクライナ侵攻後のロシアからの天然ガス供給減リスクに対応するため、残る3基の運転期間を2023415日まで延長した。

ドイツは、脱原子力政策により不足する電力を補うため、再生可能エネルギーの発電量を拡大したが(2023年時点で55%シェア)、再エネだけに適用されている固定価格制度等の優遇措置により電気料金は高騰。ロシアのウクライナ侵攻後は、石炭火力による発電量も増加。この状況下、今回の総選挙で第1党となったキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は、安価でクリーンなエネルギー供給を目指し、送電網、貯蔵、そしてあらゆる再生可能エネルギーの拡大とともに、最近閉鎖された原子力発電所の運転再開の検討を行っている。

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