原子力産業新聞

海外NEWS

多国間世論調査 世界では原子力支持が反対の2倍

24 Jun 2025

桜井久子

原子力への支持(右の黄色部分)が反対(左の灰色部分)を上回っているのがわかる © Radiant Energy Group

米国のエネルギーコンサルタント会社のラディアント・エナジー・グループ社がこのほど発表した2024年の多国間世論調査結果によれば、原子力発電を支持する人の割合が反対の割合の2倍となる結果となり、世界的に原子力に対する支持が一層高まっている傾向が明らかになった。2023年の調査結果より、支持の割合が増加している。

同調査は、ラディアント社が英国の市場調査会社サバンタ社に委託して、20241125日~1220日(一部の国は別日程)に31か国(うち、運転中の原子力発電所を所有する国は19か国。全運転基数の91%が含まれる)の成人約31,000名を対象にオンラインで実施したもの。本調査は、原子力に対する一般市民の考えを調査した世界最大規模のもので、業界、政府、投資家に対し、国民の期待やニーズを伝えるために一般公開されている。

世論調査の結果は以下のとおり。

■世界的な世論の動向

  • 原子力の支持は反対の倍に
    世界人口のほぼ3分の2を占める31か国を調査対象とし、うち、原子力を「支持する」と回答した人は46%、一方「反対」は23%。22か国で、支持が反対を上回る。中国、ポーランド、ロシアでは支持が反対の3倍以上に。
  • 2023年と比べ、原子力、大規模太陽光、陸上風力への支持が減少
    多くの国でみられた原子力の純支持(支持-反対の差)の減少は、「支持」から「中立」(支持も反対もしない)への移行によるもの。スペインだけは前年から純支持が増加。
  • 原子力は、気候変動対策のセーフガードとして機能し、ネットゼロ目標に対する潜在的な反発に対する保険となる可能性
    G7諸国の「気候変動懐疑派」の間では、原子力が最も高い純支持(+23%)を得ており、バイオマス(+13%)や陸上風力(+11%)より高い。
  • 原子力は大規模太陽光発電よりは支持は低いが、陸上風力やバイオマスより高い
    回答者の5人に1人が、他のエネルギー源よりも自国で原子力を優先すべきとの考え。原子力が陸上風力やバイオマス、CCS付き天然ガスよりも高い割合。風力や太陽光と並んで原子力を「技術中立的に支持する」層の中で、原子力の優先度が相対的に上がる傾向に。
  • 原子力の継続使用と新規建設に賛成
    「原子力を使い続けたい」人は、「廃止すべき」と答えた人の3倍以上。ほとんどの国で、40%以上が「原子力の新規建設」に賛成。ロシア、ポーランド、ノルウェー、フィンランド、オランダ、スウェーデン、フランスでは、原子力の新規建設への公的補助への支持が、大規模太陽光・陸上風力への補助支持と同水準に。

■エネルギー特性に関する認識

  • ほぼすべての国で、健康・安全、信頼性、気候変動対策が三大重要の優先事項に
    調査対象者の約半数が、「健康と安全」をエネルギー選定の三大重要事項に。一方、86%が原子力使用による健康・安全への影響を懸念。
  • 原子力の炭素排出量についての認識は分かれる
    42%が「原子力は炭素排出がないか、少ない」と答えた一方、48%は「中程度または多い」と回答。
  • 原子力のコストは、かつて原子力を廃止した国々で「風力・太陽光より安い」と認識
    ドイツ、台湾、日本、韓国、スウェーデンのような原子力の段階的廃止を経験した国々では、原子力が「エネルギーコストを下げる技術」として最も高く評価。
  • すべての国で「放射性廃棄物への懸念」は強いが、処分方針・施設がある国では懸念が緩和
    フィンランド、オランダ、エジプトやトルコ(使用済み燃料をロシアへ返還予定)などでは、放射性廃棄物への懸念は比較的低め。

人口統計別の傾向

  • 政治的立場が最大の分断要因。次いで性別・気候変動への関心
    原子力支持は一般に、右派政党支持者、男性、気候変動に関心のない人、高所得者、60歳以上の人々で最も高い傾向に。
  • オーストラリア、ドイツ、イタリア、日本、韓国、フィリピン、台湾、南アフリカで「政治的立場」が最大の分断要因
    特に南アフリカでは他国と異なり、左派寄りの有権者が原子力支持層に。

■詳細分析

  • 原子力に関する基本知識の正誤は、必ずしも支持と相関しない
    女性、政治的に左派寄りの人々、および気候変動に非常に懸念を持つ層では、回答者が「ウランは原子力の燃料として使用される」という質問に正しく回答したかどうかに関わらず、原子力への支持は一様に低い。
  • 風力・太陽光について詳しくない人は、「支持」に流れるが、原子力について詳しくない人は「反対」に傾く傾向
  • 環境への懸念項目では、「放射能汚染」を三大懸念に挙げたのは2割未満
    上位3つの環境懸念は、「気候変動」「大気汚染」「水質およびマイクロプラスチック汚染」。この傾向は性別や国を超えて共通。
  • 情報源は「ニュース・テレビ」と「SNS」が主流
    原子力に関する情報源として最も多く挙げられたのはニュース/テレビとSNS。唯一、ウクライナでは「自分で調べた」が最多に。
  • 開発途上国や原子力産業が未成熟な国ほど、新規建設における他国の支援を最も信頼できる国と位置づけ
    開発途上国や原子力産業がまだ初期段階にある国々の回答者の大多数が原子力についてほとんど知らないと答えていることを踏まえると、地政学的要因や技術的以外の要因が、特定の国の原子力信頼度に原子力専門知識よりも大きな影響を与える可能性も。


ラディアント・エナジー・グループ社のパートナーである、R. オリントン氏は、「米国のパリ協定からの離脱は、気候政策がいかに不安定であるかの証左。この世論調査では、クリーンエネルギーのうち、気候変動対策に懐疑的な人々が最も支持している原子力が、民主主義社会において脱炭素化の最良の保険手段となる可能性がある」と指摘。同じくパートナーのM. ヒル氏は、「原子力の登場から70年、放射性廃棄物は最も重要な議題として浮上してきた。世界中で共有されている重大な懸念事項であり、原子力の一般的な受け入れを妨げている。放射性廃棄物の解決策を約束していない数十か国と、対策を講じる数か国を調査したが、今後数年間でこの問題に大きな進展があることを期待している」と言及している。

cooperation