原子力産業新聞

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NEA SMR導入の進捗を詳細分析(第3版)

12 Aug 2025

大野 薫

©OECD/NEA

経済協力開発機構(OECD)の原子力機関(NEA)はこのほど、小型モジュール炉(SMR)の世界的な開発・導入状況を体系的に評価した「NEA SMRダッシュボード」の最新版(第3版)を発表した。許認可、立地、資金調達、サプライチェーン、関係者とのエンゲージメント、燃料供給の6分野にわたる準備状況を詳細に分析し、世界各地で進むSMRプロジェクトの実証・商業化に向けた取り組みを紹介している。

今回のダッシュボードでは、NEAが特定したSMR計127炉型のうち、公開情報が十分にあり評価可能とされた74炉型について分析を実施。そのうち7炉型はすでに運転中または建設段階にあり、また51炉型が事前許認可または許認可プロセスに関与している。評価にはNEAが独自に構築したSMRデータベースが活用されており、2025年2月14日時点の最新情報が反映された。なお、第3版では日本に関して、日本原子力研究開発機構(JAEA)、Blossom Energy社、東芝エネルギーシステムズ社がそれぞれ開発するSMR6炉型が紹介されている。

SMRへの関心は、気候変動対策とエネルギー・セキュリティの両立をめざすなかで、世界的に高まっている。地域別に見ると、北米に本拠を置くデベロッパーが最も多く、欧州、アジア(OECD加盟国)、中国、ロシア、アフリカ、南米、中東と続く。評価対象となったSMRには、概念段階にあるものから初号機(FOAK)の実証に向けた準備が進むものまで、技術的成熟度にばらつきが見られるが、全体として拡大傾向にある。

ファイナンス面でも動きが加速している。NEAによると、2024年版のダッシュボードと比較して、今回資金調達の発表が確認されたSMRは81%増加。NEAは、SMRに対する世界全体での資金流入を約154億ドルと試算しており、そのうち約54億ドルが民間からの出資と見ている。政府の補助金やマッチングファンドに加え、米国を中心に民間投資が存在感を高めているという。具体的には、グーグル、アマゾン、メタ、ダウ・ケミカルなどの米大手グローバル企業が、自社の環境目標に沿ったエネルギー需要を満たすために、積極的に投資している。

また、SMRプロジェクトの立地候補地の大半が政府機関または公益事業体の所有サイトである一方で、近年では民間所有サイトも増加傾向にある。需要地近くでの建設や、廃止された(あるいは廃止予定の)石炭火力発電所サイトでの導入検討も進んでいる。事業モデルも従来の電力会社中心の枠組みから、建設・所有・運転(BOO)モデル、電力購入契約(PPA)など柔軟な形態へと多様化している。

一方、NEAは技術面において、燃料供給の整備が依然として課題と指摘。SMR設計の多くは、現在商業レベルで利用できないHALEU(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を必要としており、燃料形態の多様化も進んでいる。酸化ウランセラミック燃料が最も一般的だが、TRISO燃料(HALEU燃料を黒鉛やセラミックスで3重に被覆した粒子型燃料)や金属燃料、熔融塩燃料など、従来炉とは異なる技術も広く採用されつつある。これら新型燃料の商業規模の生産施設はないことから、NEAは新たなインフラ整備が不可欠としている。

NEAは2025年中に、ダッシュボードのオンライン版「SMRデジタルダッシュボード」を立ち上げる予定で、SMRに関する情報をリアルタイムで把握できるプラットフォームを提供する。このインタラクティブなツールは、関係者がSMRの世界的な進展状況を即座に把握できるよう設計されており、NEAは今後の政策立案や事業戦略にとって重要な判断材料を提供していく考えだ。

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