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米エネ省の長官、原子力における米国の競争優位性回復について専門誌で説明 

05 Jun 2020

D.ブルイエット長官 ©DOE

米エネルギー省(DOE)のD.ブルイエット長官は5月28日、米国の国家安全保障や防衛問題を専門的に取り上げている一般メディア「Defense One」に寄稿し、4月下旬に原子燃料作業部会(NFWG)が取りまとめたDOEの包括的戦略「米国が原子力で競走上の優位性を取り戻すために」について、より具体的な説明を行った。

「Defense One」は、連邦政府高官や軍当局者、高位の民間人を主な読者とする政府関係情報誌の「Government Executive Media Group」が提供するメディアの一つ。ブルイエット長官は同メディアを通じて、DOEの新しい戦略で米国が何をなすべきかを明確に示している。

同長官はまず、国内で原子力発電が盛んであるにも拘わらず、米国は原子力における世界のリーダー的立場をロシアや中国に譲り渡したと指摘。これらの国は、核の影響力を巡る国際競争で米国がリーダーシップを失ったことで力を得ており、ウランの採掘や転換を促進することでこの間隙を埋めようとしている。これら2国はまた、原子炉技術の輸出にしばしば反競争的手法を用いて世界市場を蝕んでいるが、残念なことに米国は原子炉新設の世界市場にほとんど参加しておらず、米国の国家安全保障には重大な隙間が残されることになった。

D.トランプ大統領は、米国の原子力産業を再活性化し競争力を取り戻すため、昨年7月にNFWGを創設。政府全体の取り組みの成果として、今年4月には今回の包括的戦略がDOEから公表された。ブルイエット長官の説明によると、同戦略ではクリーンで信頼性が高く安全、かつ機能停止からの回復力も高く、発展するエネルギー環境の中でも持続可能という確実なベースロード・エネルギー源として、原子力を推進するための一連の行動を提案。ウランの採掘と精錬および転換産業を復活させるとともに、米国の技術的優位性を強化する。新型原子炉や燃料技術の輸出を促進することもこれに含まれる。これらの活動の多くがすでに進行中であり、トランプ大統領が提案した「国産ウランの備蓄」など、新しい政策のいくつかについてはDOEの2021会計年度の予算要求項目に盛り込まれた。

同長官は、このような戦略全体を支えているのは、米国の国家安全保障が強固な原子力産業に依存するという認識だと説明。この戦略によって米国が国家安全保障を改善し、原子力界のリーダー的立場を取り戻すには直接的な方法が2つあり、1つ目は外交政策を修正することだと述べた。

地政学的に重要な国の多くが国内の電力需要を満たすために原子力発電を推進中で、その大部分が原子炉建設に必要な技術支援をロシアと中国の国営企業に依存する一方、米国は傍観者的立場を取っている。ロシアと中国は実際、原子力の専門技術を輸出しつつ、100年間単位の二国間関係を構築して地政学的な影響力を増強。このため今回の戦略は、米国が民生用原子力技術や機器、燃料の輸出を容易にし、新たな市場における競争力を高めるよう求めている。

2つ目の方法としてブルイエット長官は、DOEの同戦略により世界中で核兵器の増加を防ぐことを挙げた。世界の核不拡散体制における米国の信頼性は、盤石な民生用原子力産業と世界市場で米国の技術革新が牽引する技術的リーダーシップにかかっている。米国の規制構造は依然として、原子力発電所の安全運転を保証する国際的ゴールド・スタンダードとなっているが、米国が世界的核不拡散体制や原子力セキュリティ、安全基準に影響力を及ぼすには、原子炉輸出の国際市場で米国がその信頼性を維持する必要があると指摘した。

こうしたことから、同長官は今回の戦略で、次世代の原子力技術を生み出す先進的な研究開発と建設に向けて資金調達することを要請。これらを通じて、米国は世界的な競争力と核不拡散体制におけるリーダーシップを長期的に確保することができると述べた。

新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大は今回、諸外国が必ずしも米国の利益を最優先に考えているわけではないことを思い出させたが、医療からエネルギーに至るまで世界の覇権と影響力を巡る争いは衰えることなく続いていく。ブルイエット長官は、ますます敵対的になっていく世の中で安全確実かつ繁栄した国であり続けるには、国内の米国人と国外で米国の国益を守るため、このような重要な措置を講じていかねばならないと訴えている。

(参照資料:「Defense One」の寄稿記事、5月1日付け原産新聞・海外ニュース、ほか)

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