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EUの調査機関がタクソノミーで「原子力は住民の健康や環境に多大な悪影響をもたらさない」と評価

31 Mar 2021

©European Commission

欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)の「共同研究センター(JRC)」はこのほど、EUが2050年までに気候中立(CO2排出量が実質ゼロ)の達成を目指すにあたり、中心となるグリーン事業の分類投資(タクソノミー)に原子力を含めるべきかという点について、技術的側面を包括的に分析・評価した報告書を公表した。

主な結論17項目の中でJRCは、「地球温暖化の影響緩和に資する電源としてすでにEUタクソノミーに含まれている他の電源との比較で、原子力がそれら以上の健康被害や環境への悪影響をもたらすという科学的根拠は見受けられなかった」などと指摘。これを受けて、欧州の原子力企業約3,000社を代表する欧州原子力産業協会(フォーラトム)は3月29日、ECに対し「持続可能な投資のためのEUタクソノミー」と、「EUのエコラベル規則に則ったリテール投資家向け金融商品プロジェクト」の中に原子力を含めるべきだと訴えている。

EUタクソノミーは見せかけの環境配慮を装った事業を廃し、環境上の持続可能性を満たす真にグリーンな事業に正しく投資が行われるよう明確に定義づける枠組。ECが設置した「持続可能な金融に関する技術専門家グループ(TEG)」は2020年3月、EUタクソノミーの最終報告書の中で、「低炭素なエネルギーの供給で原子力が果たす役割や貢献はデータ等で十分に裏付けられている」と述べた。しかしその一方で、「原子力発電所が排出する放射性廃棄物の管理で、他の環境分野に影響が及ばないかという点については非常に複雑で評価が難しい」と説明。この段階で原子力をEUタクソノミーに含めるよう勧告することは出来ないとした上で、原子力技術とその環境影響について深い専門知識を有するグループが、一層幅広い技術評価を実施することを推奨していた。

今回の技術評価を請け負ったJRCは、EUの政策立案に際して独立の立場から科学的助言と支援を提供する科学・知識サービス機関である。TEGはグリーン事業をEUタクソノミーに含める重要な基準として、「環境への十分な貢献」と「(資源循環や生態系といった)他の環境分野に悪影響を及ぼさないこと(Do No Significant Harm=DNSH)」の2点を設定。このためJRCは今回、高レベル放射性廃棄物(HLW)と使用済燃料の長期的な管理に関する側面など、DNSH基準に照らして原子力を分析・評価するよう要請された。

主な結論の中でJRCは、「HLWと長寿命核種の深地層処分については、現時点で適切かつ安全な超長期的隔離方法として科学的、技術的側面から幅広く合意が形成されている」と指摘。CO2の回収・貯留(CCS)技術でも、同様に地中や海底など別の場所での隔離貯蔵が検討されているが、こちらは肯定的な評価を受けるとともにEUタクソノミーにもすでに含められている。このことからJRCは、HLWの長期的処分においてもTEGが同様の課題を適切に対処可能と考えていたと述べた。

JRCはまた、周辺住民の健康や環境を害することなく放射性廃棄物を処分するには、技術的解決策と適切な行政枠組、法的な規制枠組などを組み合わせる必要があると説明。地層処分に必要な技術はすでに利用が可能であり、政治面や公共面の条件が整えば実行できると広く考えられている。現時点でこの処分方法はまだ実証・試験段階にあり、長期的に実行した経験はないものの、フィンランドやスウェーデン、仏国ではすでに国内で実施計画が進んでおり10年以内に操業を開始できるとの見通しを述べた。

JRCのこのような結論について、フォーラトムのY.デバゼイユ事務局長は、「報告書で強調されているように、既存の技術で周辺住民や環境に悪影響が及ぶのを阻止することができる」と断言。「我々の待ち望んでいた評価結果が出た今こそ、原子力をEUタクソノミーやエコラベル・プロジェクトに含めるべきだ」と指摘した。これと同時に、「原子力産業界としてもこの勧告に真剣に耳を傾け、欧州の原子力部門が可能な限り持続可能となるよう、技術的に利用できる方法すべてを実行しなければならない」と訴えている。

ECに対してはまた、「今回の科学的評価をわきまえた上で、原子力をいつどのようにEUタクソノミーに含めるのか数日以内に明確にしてほしい」と要請。「リテール投資家向け金融商品プロジェクトに関するEUのエコラベル規則」案に関しても、欧州議会や欧州理事会にかける前に原子力が含まれるように見直すことを提言している。

(参照資料:JRCフォーラトムの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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