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オランダのNGO、政府に原子力発電所の新設を提言

19 Apr 2021

ボルセラ原子力発電所©EPZ

オランダで原子力に対する政治的、社会的、経済的支援の拡大を奨励している非政府組織「e-Lise財団」はこのほど、原子力発電所の新設に向けてオランダ政府が何をすべきか勧告する報告書「原子力事業におけるオランダ政府の役割」を公表した。

同国では1973年から、唯一の原子力発電設備であるボルセラ発電所(50万kW級PWR)が稼働中。運転開始後40年目の2013年、同炉の運転期間は20年延長され、2033年まで運転継続が可能となっている。e-Lise財団は今回の報告書で、「パリ協定の目標達成に向けたオランダ国内の議論のなかで、原子力はこれまで除外されてきた」と指摘。実質的に無限のエネルギー源である原子力には、太陽光や風力に対するのと同様の支援を政府が与えるべきだと訴えている。

2020年に創設されたe-Lise財団の呼称は、「リーゼ・マイトナーの核分裂反応原理に基づくエネルギー」を意味している。マイトナーはオーストリアの物理学者で、ノーベル賞を受賞したドイツの物理学者オットー・ハーンとともに核分裂連鎖反応を発見したが、同財団と原子力産業界の間に財務に関する関係はない。

e-Lise財団によると、パリ協定の下でオランダは1990年時点のCO2排出量を49%~55%削減する必要があるが、CO2を排出しないエネルギー源の一つである原子力については、具体的なビジョンがオランダの法令や規制、国家戦略の中で示されていない。原子力がオランダでもたらす可能性に関して、現段階では知識が不足しているものの、議会下院が政府に指示して実施させた新規建設に関する市場調査の結果やe-Lise財団の今回の報告書により、このような状況が改善されることを期待するとしている。

原子力発電所の新設に向けオランダ政府が実施すべき勧告事項として、e-Lise財団は今回の報告書で以下の点を含む13項目に集約した。

・政府の政策変更等により原子力発電所建設プロジェクトの準備作業や工事が妨害されることがあるため、政府自身がプロジェクトに参加したり政府保証に関する長期ビジョンを策定し、信頼できるパートナーとなる。

・原子力発電所新設プロジェクトに低金利融資が保証されるよう、政府が資金調達メカニズムを新たに設定する。

・原子力について、マクロ経済学的な費用対効果分析を実施する。

・風力や太陽光などと同じく、原子力も一つの原子炉技術をシリーズ建設することで価格が抑えられるため、諸外国や複数のエネルギー企業と協力して同一設計の原子炉を建設し、経済的な脱炭素化を促進する。

・高圧送電網など既設のインフラは有用なので、エネルギー企業に対し既存の化石燃料発電所やバイオマス発電所を原子力に転換するよう奨励する。

・原子力は化学産業や製鋼事業の脱炭素化で重要な役割を果たせるため、原子炉のプロセス熱利用など非電力分野の原子力活用研究を奨励する。

・放射線防護政策によって国民の原子力に対する不安を解消する。

・放射性廃棄物の貯蔵に関する社会的議論を積極的に再開し、社会の原子力に対する不安を解消する。

(参照資料:e-Lise財団の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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