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米エネ省、「MARVELプロジェクト」で3年以内にマイクロ原子炉の運転を開始

22 Apr 2021

マイクロ原子炉の概念図©INL

米エネルギー省(DOE)は4月13日、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指すなど、米国の地球温暖化防止取り組みの一つとして、電気出力100kWのマイクロ原子炉を建設する「MARVELプロジェクト」を新たに推進すると発表した。

同計画は、革新技術を採用した先進的原子炉技術を市場に送り出すため、DOEが傘下のアイダホ国立研究所(INL)・国立原子炉イノベーションセンター(NRIC)と実施している協力活動の一環。DOEは今後3年以内に、INLの「過渡事象試験(TREAT)施設」内でマイクロ原子炉の運転を開始する計画である。

DOEによると、米国は地球温暖化の防止に向けて積極的な活動を展開中であり、低炭素電源の中では米国最大の発電量である原子力はクリーンエネルギーへの移行に重要な役割を果たすと認識している。その中でも近い将来、最も大きな貢献が可能なのが、近年様々な設計開発が進んでいる容量が小さくコンパクトな原子炉。これらは小型であるほか柔軟な操作が可能で、発電のみならず様々な目的に利用することができる。

「MARVELプロジェクト」はこのような原子炉を他の技術と統合する方法について、エンドユーザーや研究者の理解を深めるとともに、その開発と建設を加速するためにDOEが立ち上げた。略語であるMARVELの正式名称は、「Microreactor Applications Research Validation and EvaLuation(マイクロ原子炉の適用に関する研究検証と評価)」である。

同プロジェクトでDOEは具体的に、現時点で国立研究所で実施できない試験のための設備を整備して産業界に提供。同技術の基本的な特性や操作性、挙動などについて産業界の研究開発を促進し、関係企業による設計の実証を支援する。またマイクロ原子炉のシステムを使って、送電網からの需要と原子炉による供給の調整能力を試験・実証。これにより、再生可能エネルギー・システムの統合や水の浄化、水素製造、産業プロセス用の熱供給など、幅広い分野へのマイクロ原子炉技術の応用を支援する。

DOEが建設するマイクロ原子炉は、炉内の冷却に自然循環と液体金属(ナトリウムとカリウム)の冷却材を使用。エネルギーを100kWの電力に変換するには、既存技術のスターリング・エンジン(*)を活用する。燃料としては、U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン(HALEU)燃料を少量、研究機関から入手する計画である。設計は主に既存の技術に基づいており、建設工事を迅速に進められるよう市販の機器を用いる方針である。

なお、可搬式のマイクロ原子炉については国防総省(DOD)も軍事作戦への使用を検討しており、2020年3月に原型炉の建設と実証に向けて、ウェスチングハウス(WH)社とBWXテクノロジーズ社、およびX-エナジー社の3社を選定。今年3月には2022年初頭の最終設計審査に向けて、WH社を除いた2社を支援対象に絞り込んだ。このための資金は、マイクロ原子炉の開発で推進中のイニシアチブ「プロジェクトPele」から提供されている。

【注*】:19世紀初頭に開発された外燃機関の一種。シリンダー内に水素等の気体を封入し、外部から加熱・冷却を繰り返してピストンを作動させるエンジン。

(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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