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国連欧州経済委、エネルギーミックスの脱炭素化で原子力の必要性を強調

12 Aug 2021

©UNECE

国連経済社会理事会の欧州経済委員会(UNECE)は11日、地球温暖化の防止や低炭素エネルギー技術の開発を加速するため取りまとめている技術概要書(technology brief)のシリーズで原子力発電を取り上げ、「原子力を除外した場合、地球温暖化の防止に向けた国際的な目標達成は難しくなる」との見解を表明した。

それによると、2015年の国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP)で採択されたパリ協定、および国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に沿って、世界中のエネルギー供給システムやエネルギー多消費産業を脱炭素化するには、その他の持続可能な低炭素技術や無炭素技術と並行して、原子力発電が幅広いエネルギーミックスの一要素となり得る。また、原子力は低炭素な発電技術であり、過去50年間に抑制したCO2の排出は約740億トン。これは、世界中のエネルギー部門が排出するCO2の約2年分に相当する。

原子力はまた、UNECE地域全体の発電量の約20%を賄っており、低炭素で生産される電力に至っては43%を供給。ただし、欧州各国に加えて米国やカナダ、ロシア、および旧ソ連諸国などが所属するUNECEでは、未だに化石燃料による発電量が全体の半分以上を占めることから、世界中のエネルギー供給システムを低炭素なものに変えるまで残された時間は少ない。UNECEのO.アルガエロバ事務局長は、「原子力利用国ではCO2排出量の実質ゼロ化を達成する重要電源として原子力を捉えており、2030年までに持続可能な開発の諸目標を達成する一助になるはずだ」と強調した。

今回の技術概要書によると、UNECEに所属する国の中でも20か国が原子力発電所を保有。このうち11か国では総発電量の30%以上を賄うなど、原子力はエネルギー供給システムの中で中心的な役割を担っている。また、15か国が新しい原子炉を建設中か開発中で、7か国は新たに原子力発電を導入するプログラムを進めている。さらに、所属国のうちカナダ、チェコ、フィンランド、フランス、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、ロシア、ウクライナ、英国、米国などの国が「原子力は将来的に各国が国内のCO2排出量を削減する際、重要な役割を果たす」と明言している。その一方で、ベルギーとドイツはそれぞれ、2025年と2023年までに脱原子力を達成すると表明している。

UNECEの技術概要書はまた、原子炉技術を大まかに①100万kW級の大型炉、②小型モジュール炉(SMR)、および③マイクロ原子炉の3種類に分類。大型炉の成熟した技術は商業的に活用されているほか、SMRも商業化に向けて開発が急速に進展している。マイクロ原子炉については、5年以内に米国とカナダで利用可能になることが期待されている。原子力発電所はさらに、低炭素な熱と電力を併給出来るため、エネルギー多消費産業の中でも製鋼や水素製造、化学製品生産では脱炭素化を大幅に進める可能性があると強調した。

技術概要書はこのほか、「世界中の数多くの地域において、原子力はコスト競争力のある発電オプションである」と指摘。電力市場の運用の仕方によっては、また資金調達コストを抑えることができれば、大型炉の建設に必要な50億~100億ドルのコストは縮減することができる。また、今後SMRやマイクロ原子炉を建設する場合、資金調達は一層容易になり、様々な再生可能エネルギーを補完することも可能だとした。

一方、原子力発電にともなう具体的リスクとしてUNECEは放射線関係の事故や放射性廃棄物の管理を挙げており、これらの事故発生を未然に防ぎ、あるいは廃棄物は適切に取り扱う必要があるとした。いくつかの国では、このようなリスクは容認できないと考えており、放射性廃棄物を長期的に処分するという問題もあり、原子力を利用しない道を選択したと説明している。

(参照資料:UNECEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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