Ⅰ 米国で拡大する原子力コミュニティと次世代教育
ANSは1954年の設立以来、原子力コミュニティにおいて重要な役割を果たしていると聞きます。具体的には、どのような役割を担っているのですか。
ハシェミアン会長ANSの役割は、ここにきて大きく拡大している。というのも、米国では原子力が再び力強く復活しつつあるからだ。ANSは、学界、産業界、サプライチェーン、人材育成などを支援しており、原子力科学・工学だけでなく医療分野に至るまで、あらゆる領域をカバーしている。
ピアシーCEO現在、原子力産業においては新たなニーズが生まれており、ANSの役割もそれに応じて進化している。米国では2035年までに20万人以上の新規人材が必要になると見込まれている。その多くは必ずしも原子力工学の専門家である必要はないが、技術の仕組みや安全文化についての基本的な理解が求められる。そのためANSでは、専門能力開発プログラムを通じて、より多くの人材を原子力コミュニティに取り込むことに注力している。
ANSの会合には毎年数多くの研究者や技術者が参加していますが、メリットはどこにあるのでしょうか。
ハシェミアン会長参加者は、産業界、政府、そして科学コミュニティにおける最も重要な人物たちとじかに接する機会を得ることができる。原子力の復活を背景に参加者数は増加しており、ANS自体も拡大している。ANSの会合は、産学官、さらには核医学など、原子力に関わる幅広い分野を網羅しており、それぞれの立場の人々にとって有益な場となっている。こうした原子力の各分野は、米国だけでなく世界全体で成長している。
例えば、最近開催したANSの会合では、米エネルギー長官、原子力規制委員会(NRC)委員長、国家核安全保障局(NNSA)長官、連邦議会議員、さらには産業界のリーダーなど、極めてハイレベルな関係者が参加した。このように、政府・産業・科学技術のトップ層と直接交流できる場であることが、ANSの大きな魅力である。
多くの国で原子力人材の育成が課題となっています。若い世代に原子力分野の魅力を伝えるため、ANSはどのような取り組みを行っていますか。
ピアシーCEOさまざまなアプローチで取り組んでいる。ANSの中で最も急速に成長している会員層は、大学で原子力工学を学ぶ学生である。米国では原子力関連プログラムへの入学者数が増加しており、学生会員は過去5年間でほぼ倍増した。そのためANSは全米の原子力系大学に学生支部を設けており、このコミュニティを支援している。テキサスで開催される年次の学生会議には約1000人が参加する。このように、大学レベルの人材育成、特に学部生・大学院生への支援を重視している。
一方で、ANSの新たな取り組みは、他産業からの人材流入を促進することにある。例えば、戦闘機のデジタルコックピットを開発していた企業の技術者が、原子力プラントのデジタル計装制御分野に移ってきたケースもある。彼らは電気工学の専門家である。必ずしも原子力の専門家である必要はないのだ。ただし、原子力技術の基本的な仕組みや規制、安全文化についての理解は不可欠である。そのためANSでは、基礎教育を提供している。具体的には、「Nuclear Fundamentals Program」や「Certified Nuclear Professional」資格制度を整備しており、高卒程度の学歴があれば受講可能である。燃料サイクルなど専門分野ごとの講座も提供している。ANSの目標は、大学教育以前のレベルから、さまざまな分野の人材を原子力産業に取り込むための教育・訓練の基盤を提供することにある。
Ⅱ グローバルな原子力拡大
世界では2050年までに原子力発電を3倍に拡大する議論が広がっています。近年の化石燃料価格の変動やエネルギー安全保障への関心の高まりを背景に、いよいよ世界は本格的な原子力拡大の時代に入りつつあるのでしょうか。
ハシェミアン会長間違いなくその通りだ。世界は今後25年で、特に電力需要において現在の約3倍のエネルギーを必要とするとの見通しがある。米国政府はすでに、今後25年間で少なくとも3億kW、多ければ4億kWの新規原子力を導入する方針を示している。現在の米国の原子力発電設備容量は約1億kWであり、これは過去80年かけて整備してきたものだ。それを今後25年で3億kW規模に拡大しようとしているのだ。これは極めて大きな挑戦であり、野心的な目標ではあるが、実現が求められている。
電気自動車、データセンター、データマイニングなど、あらゆる分野で電力需要が増加している。原子力の拡大は不可避であり、需要を満たす他の手段は存在しない。さらに、環境面での利点も忘れてはならない。COP28で打ち出された原子力3倍化宣言は、非常に重要な動きだと捉えている。
ピアシーCEOハシェミアン会長の指摘通り、世界は膨大なエネルギー需要問題に直面している。米国では2005年から2022年までの17年間、電力需要はほぼ横ばいだったが、現在は年2〜3%、地域によっては4%程度の成長が見られている。電力需要が年4%で増加するということは、毎年新たな発電設備を導入する必要があるということだ。この状況は、原子力にとって極めて有利な環境を生み出している。
ただし、課題も明確だ。我々原子力業界に求められているのは、この需要に応えるために先進炉を一刻も早く商業化することだ。実際に電力系統に接続し、信頼性が高く、かつ安価な電力を供給することだ。これを実現できるかどうかが、今後10年の最大の課題だ。
原子力3倍化が議論される中、放射性廃棄物の量も増加するとの指摘があります。このような大規模拡大を前提とした場合、使用済み燃料や放射性廃棄物の管理を国際社会はどのように進めるべきでしょうか。
ピアシーCEOまず、この議論を始めるにあたって重要なのは、放射性廃棄物の量が実際には非常に少ないという点を正しく認識することだ。例えば米国では、民生用原子力の黎明期以来に発生したすべての使用済み燃料を合わせても、大型商業施設一つの敷地内に収まる程度の量に過ぎない。つまり、量的な問題は本質的には小さい。もちろん、長期的な貯蔵や処分の計画は必要であるが、それと同時に、その燃料が持つエネルギー的価値にも注目すべきだ。
今回我々が日本を訪問した理由の一つもそこにある。日本は再利用・再処理という政策を採っており、使用済み燃料の中に残されているエネルギーを存分に活用しようとしている。この取り組みによって、廃棄物の量や毒性を低減すると同時に、まだ利用可能なエネルギーを取り出すことができる。米国でも、使用済み燃料の資源としての価値に対する認識は高まりつつあり、その活用方法を模索し始めている。そうした意味で、日本は長期的な燃料サイクルの構築において、米国よりも先行している。いずれにせよ、最終的には廃棄物を地層処分する必要はあるが、これは技術的な課題というよりも、むしろ政治的な課題である。技術的な解決策はすでに存在しているからだ。我々に求められているのは、人々にそれを理解してもらい、受け入れてもらうことである。
ハシェミアン会長米国ではカーター政権以来、使用済み燃料は直接処分する方針が採られてきたが、現在ではその政策が見直されつつあり、再処理に前向きな動きが出てきている。廃棄物の量を減らし、より扱いやすくするための手段として、リサイクル(再処理)は有効である。最終的には廃棄物を地中深くに処分する必要が出てくるが、六ヶ所再処理施設はその良い先行モデルだ。六ヶ所では国際原子力機関(IAEA)による査察体制も徹底されており、核物質の管理が極めて厳格に行われている。
最大の課題は技術ではなく社会である。人々は自分の近くに放射性廃棄物が存在することを望まない。そのため、教育を通じて理解を深めていく必要がある。
Ⅲ AI・データセンターと電力需要
近年、一部のIT企業が原子力発電所から直接電力を調達する、いわゆる「behind-the-meter」型の取引を模索しています。こうした仕組みは原子力発電所への新規投資を支える可能性がある一方で、電力系統全体における公平性やコスト負担の観点から問題が指摘されています。
ピアシーCEOこの問題はまさに現在進行形で進化している。まず前提として米国では、将来の経済がデータセンター、特にAIサービスに大きく依存すると認識されている。そのため計算能力の拡大は不可欠であり、それに伴なう電力需要も急増している。そうした中で、「behind-the-meter」型の電力供給は今後さらに広がると考えている。現在の米国政府も、データセンターに対して「自前の電源を持つ」ことを求める方向に議論が進んでいる。将来的には、データセンターが原子力などの発電設備と一体で立地(コロケーション)し、自らの需要をまかなうと同時に、余剰電力を電力系統に供給するような形が一般的になるかもしれない。つまり、この問題は「どちらか一方を選ぶ」というものではなく、むしろ電力系統とデータセンターが相互に補完し合う、いわば「共生関係(symbiotic relationship)」に向かっていくと見ている。
現在米国で議論になっているのは、閉鎖を前提に停止していた原子力発電所を、再稼働させた上で、電力を系統を経由せずに特定の顧客に直接供給するというケースである。確かに、電力系統が逼迫している状況では、こうした直接供給にも合理性はある。しかし将来的には、発電所と系統が電力を融通し合う、双方向の関係になっていくべきだ。
データセンターのような大規模需要と、電力系統全体の公平性・安定性は両立するのでしょうか。
ピアシーCEOエネルギー需要が増えれば、当然価格への圧力が生じる。価格問題に対応する唯一の方法は、電力系統がより多くの供給力を追加することだ。電力会社も昨今、新規電源への投資が必要だと認識しており、その中に原子力も含まれるだろう。電力会社は一般に慎重な投資姿勢を取る傾向があり、多くは公益事業委員会の規制下にある。しかし、電力需要の増加を背景に、新規電源への投資は今後も続くと見られている。
一方で、大手IT企業(ハイパースケーラー)側も、もはや電力系統だけに依存することはできないと理解している。データセンターを建設して系統に接続するだけではなく、必要な電源をどのように確保するかまで含めて計画する必要がある。その意味で、データセンターと発電設備を同じ場所に立地させる「コロケーション」や、電力系統との相互補完的、あるいは共生的な関係を構築することが重要になる。これからのハイパースケーラーには、住宅向けに供給されるはずの電力を一方的に消費するのではなく、自らの需要に責任を持つ姿勢が求められる。実際、各社はその認識を強めており、原子力への投資を進めているのもそのためだ。原子力は現在、ハイパースケーラーの将来戦略の中で明確に位置づけられつつある。
Ⅳ 燃料サイクルと六ヶ所再処理施設
六ヶ所再処理施設を視察されましたが、施設の印象をお聞かせください。日本のサイクル政策をどのように評価されますか。
ハシェミアン会長進められている取り組みは非常に印象的であり、こうした施設は不可欠なものだと感じている。確かに建設や資金面では大きな困難が伴うが、技術的な問題ではない。日本はこの分野において十分な技術力を持っている。施設そのものも、人材の質も非常に優れており、安全性やセキュリティの水準も極めて高い。
六ヶ所施設は日本にとってだけでなく、世界にとっても重要な施設である。こうした施設が世界にもっと存在してほしいし、米国にも必要だと考えている。
また六ヶ所施設は、日本が将来的に原子力比率を20%程度に引き上げる際に、極めて重要な資産となる。日本は資源に乏しい国であり、この施設の意義は非常に大きい。プロジェクトの成功に、大いに期待している。
ピアシーCEO私も同様に、非常に強い印象を受けた。特に、このプロジェクトに携わっている人々の強い熱意に感銘を受けた。燃料サイクルの完結は、社会にとって最も困難な技術的課題の一つだが、その実現に向けた取り組みの規模と範囲は非常に大きい。米国にはこのような施設は存在しないが、日本はすでに実現しつつある。
米国では現在、「燃料サイクル・キャンパス」の構想などが議論されているが、日本にはすでに六ヶ所施設という形でその基盤が存在している。原子力は本質的に困難な分野であり、遅延が生じることもある。しかし、資源を最大限活用し、燃料サイクルを完結させるという方向性を維持できれば、それは社会にとって大きな成功と言えるだろう。
世界的な原子力拡大を考えた場合、再処理は重要な役割を果たすのでしょうか。
ハシェミアン会長そうなる可能性は高いと考えている。フランスや日本がすでに取り組んでいる一方で、米国では実施されていない現状を踏まえると、廃棄物問題への対応という観点から、今後は再処理の役割が拡大していくだろう。
ピアシーCEO結論から言えば、再処理は重要な役割を果たす。特に次世代炉(第4世代炉)では、高濃縮低濃縮ウラン(HALEU)が使用される。これは軽水炉よりも高い濃縮度の燃料であり、その分、使用済み燃料の中に回収可能な有用物質が多く含まれている。したがって、再処理によってそれらを回収する経済的な合理性は、従来よりも高くなるわけだ。
すでにOklo社のようなデベロッパーは、プロジェクトの構想段階から燃料の再処理を考慮している。特に濃縮度が10〜19.9%の範囲にある燃料では、エネルギー回収の観点から再処理する価値が高い。その場合でも、すぐに燃料サイクルの完結が実現するわけではない。まずは原子炉の導入が先行し、その後に燃料サイクルが整備されていくことになるだろう。しかし、方向性としては、確実に再処理が進展していくと考えている。
再処理技術を核不拡散と両立させながら発展させるには、どのようなアプローチが必要でしょうか。
ピアシーCEOまず第一に、先ほどハシェミアン会長も触れたように、六ヶ所再処理施設を実際に見ると、そこにどれほど広範かつ手厚い保障措置が講じられているかがよく分かる。現実には、IAEAの取り組み、核不拡散条約(NPT)、追加議定書などを通じて、すでに非常に強固な基準と手続きが整えられている。したがって、核物質管理や一般的な保障措置について現在の高い水準を維持し続ける限り、新技術の拡大に伴うリスクには十分に対応できると考えている。
また、核不拡散を単なる技術的課題としてだけ捉えるべきではない。これは地政学的な課題でもある。究極的には、最大の拡散リスクは「国家が軍事利用を行おうとする意思」にある。もっとも、技術面から言えば、IAEAの枠組みに参加している先進国においては、こうした課題やリスクは適切に管理可能だと考える。
ハシェミアン会長六ヶ所施設は、核物質管理のあり方を示す非常に良い実例になりうる。IAEAは現地で大きな存在感を示しており、我々もその関与を実際に目の当たりにした。現場には多数のカメラが設置されており、今後さらに増設される予定だと聞いた。保障措置と監視の厳格さには強い印象を受けた。
私はこれまで他国でも核物質防護に関わってきたが、六ヶ所施設における安全性とセキュリティの水準は非常に高いと感じた。“六ヶ所”は、核物質をどのように適切に保護すべきかを示すモデルであり、他国にとっても学ぶべき対象となるだろう。そして、特筆すべきはIAEAの役割だ。IAEAは極めて重要な仕事をしており、各国が国際的なルールや規制を遵守するよう監督している。最終的には、各国がそのルールに従うかどうかがカギとなる。
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「米国のサプライチェーンは回復する」
Ⅴ 原子力サプライチェーン
米国では長期間、新規原子力建設が停滞し、サプライチェーンの弱体化を経験しました。その経験からどのような教訓を得たとお考えですか。
ハシェミアン会長我々はサプライチェーンをここまで衰退させてしまうべきではなかった。米国は原子力発電先進国の一つでありながら、その基盤を弱めてしまったのは誤りだった。ただし、建設を再開すればサプライチェーンは自然に回復する、というのが私の考えだ。私は原子力エンジニアリング会社(Analysis and Measurement Services Corporation: AMS社)を経営しており、サプライチェーンの一部を担っている。その立場からもそう感じている。
現在はまだ「建設について議論している段階」だが、実際に建設が始まれば状況は変わる。サプライチェーンの弱体化や人材不足は課題ではあるが、いずれも解決可能だと考えている。米国は危機に対して非常に強い対応力を持つ国である。例えば新型コロナワクチンの開発では、通常数年かかるものを半年から1年で完成させた。原子力についても同様に、必要となれば即応できるだろう。
ピアシーCEO1960年代後半から1970年代にかけて、米国は多数の原子力発電所を効率良く迅速に建設した実績がある。その後の約30年間で新設が停滞する中、サプライチェーンは徐々に衰退していった。その間、我々は既存の原子力発電所の運転効率の向上に注力してきた。その結果、現在の米国の原子力発電所の設備利用率は90%を超え、他電源よりも高い水準にある。また、定期検査も非常に効率化されており、いわば「F1のピット作業」のように、各工程が綿密に計画されて迅速に実施されている。このような運転・保守に関する知見は、新規建設にも活かされるだろう。
現在は再び技術革新の段階に入りつつあり、多くのデベロッパーが新型炉の開発を進めている。これらの技術の多くは、1960年代に研究されたものを基盤としている。また、燃料供給の面でもHALEU燃料の製造など新たな投資が進んでおり、サプライチェーンの再構築はすでに始まっている。
すべてのデベロッパーが成功するわけではないが、成功する企業は必ず現れる。大型炉であれば年1基、小型炉であれば半年に1基、マイクロ炉であれば量産体制に近い形での製造が、将来的には可能になるだろう。現在のデベロッパーは、従来よりも垂直統合を進め、自らサプライチェーンを構築する傾向がある。こうした新しいモデルや他産業の知見を取り入れることで、原子力産業は再び大きく成長できると確信している。
米国ではCGD(Commercial Grade Dedication)などの仕組みによりサプライヤーの裾野を広げてきました。原子力拡大を支える上で、このような取り組みはどの程度重要でしょうか。
ハシェミアン会長非常に重要な問題だ。実際AMS社でも、CGDを主要な業務の一つとして手がけている。原子力分野では、専用品の供給者が極めて限られている。例えば温度計測機器は原子力プラントにおいて非常に重要だが、原子力グレードの製造メーカーは世界でも数社しか存在しない。一方で、一般産業向けの製品は数多く存在する。これらを適切な手順と品質保証のもとで試験・評価し、「原子力用途に適合するもの」として認定するのがCGDの考え方だ。
原子力グレードの機器は非常に高価である。例えば、家庭用であれば数ドルのセンサーが、原子力用途では数万ドルになることもある。しかし、原子力プラントではそのような機器を大量に使用するわけではないため、市場規模が小さく、専用品のサプライヤーが育ちにくいという構造的な問題がある。そのため、既存の汎用品を活用し、それを原子力仕様に適合させることで、サプライチェーンの制約を大きく緩和することができる。強固な品質保証体制を前提とすれば、このアプローチは非常に有効であり、サプライチェーン問題の解決に大きく貢献する。
Ⅵ 原子力規制と社会的信頼
米国では規制機関が独立性を保ちながらも外部専門家や産業界、市民の意見を制度的に取り入れています。原子力規制への信頼を維持する上で、このような仕組みはどの程度重要でしょうか。
ピアシーCEOこのプロセスにおいて信頼は不可欠であり、信頼を維持するためには、規制機関の独立性が極めて重要である。ただし、「独立性」と「孤立」は異なる概念だ。近年、米国では超党派で、原子力規制委員会(NRC)がそのプロセスを改善し、より効率的になる必要があるとの認識が共有されている。共和党・民主党の両政権においても同様の方向性が示されている。実際、NRCは議会の指示を受けてミッションを変更している。従来は環境保護が中心だったが、現在は「原子力の安全な成長と運用を可能にすること」も使命に加えられている。
ここで重要なのは、規制と推進の間には明確な境界(ファイアウォール)が存在するという点だ。しかし同時に、国家としてのエネルギー政策、経済政策、環境政策の目標を達成するためには、原子力の拡大が必要であるという認識も共有されている。その結果、独立性と安全性を維持しながら、より効率的で、政策目標とも整合した規制のあり方へと変化してきている。
ハシェミアン会長私はエンジニアの視点から補足したい。規制が整備された当初(約70年前)は、現在のようなデータは存在せず、機器の挙動や劣化の実態について十分な知見がなかった。そのため、非常に保守的で厳格な規制が必要だった。しかし現在では、機器の性能、経年劣化、運転実績などに関する膨大なデータが蓄積されている。その結果、当初想定していたよりも信頼性が高いことが分かってきた。こうした知見に基づき、過剰だった部分の規制を見直すことが可能になっている。例えば、従来は毎月実施していた点検を数年に一度に減らすこともできる。さらにAIなどの診断技術の進展により、状態監視(オンラインメンテナンス)に基づいた合理的な保守が可能になっている。過剰な保守はコストだけでなく、かえって機器に悪影響を与える場合もあるのだ。
米国では、近年成立した法律や大統領令により、安全性を維持しながら規制を効率化する取り組みが進められている。また、確率論的リスク評価(PRA)に基づく「リスクベース規制」の導入も進んでおり、重要な部分に重点を置いた合理的な規制へと移行している。
規制機関が独立性を保ちながら科学的・技術的議論に開かれた状態を維持するには何が重要でしょうか。
ハシェミアン会長現在の米連邦政府は、規制機関の独立性を維持しつつ、原子力産業の展開を後押しする方向で非常に良い取り組みを進めている。重要なのは、これまで必ずしも必要ではなかった規制を見直し、本当に重要な部分に焦点を当てることだ。そのために有効なのが、PRAに基づく「リスクベース規制」である。この手法は60年以上にわたり検討されてきたものであり、どの部分に重点を置くべきかを合理的に判断することができる。例えば、すべての事象に同じレベルで対応するのではなく、重要度の高い部分に資源を集中させるべきである。極端な例を言えば、原子力発電所のトイレの水漏れのような問題に過剰に対応するのではなく、本当に安全に影響を与える部分に注力するべきだ。このようなアプローチにより、安全性をむしろ向上させることができる。重要な部分に集中することで、より効果的な安全管理が可能になるからだ。
Ⅶ 原子力の未来
日本では高速炉や高温ガス炉などの研究が進められています。これらの技術の将来性をどのように評価されていますか。
ハシェミアン会長高温ガス炉は現在、多くの関係者が注目している技術だ。日本はこの分野で早くから研究開発を進めてきた国であり、高速炉についても同様である。私自身、高速増殖炉「もんじゅ」が運転していた時期をよくおぼえているが、今はもう動いていないのが残念だ。とはいえ、日本は高温ガス炉や高速炉の分野で、現在米国や他国が進めている取り組みに大きく貢献してきた。我々は今、その成果の上に積み上げている段階にある。高温ガス炉については南アフリカでも開発が進められ、X-energy社もそれを取り入れている。実用化までは困難も多かったが、これから本格的に進んでいくだろう。
ピアシーCEO高温ガス炉とナトリウム冷却高速炉は、米国の政策における中核的な技術になっている。米国には「Advanced Reactor Demonstration Program(ARDP)」というプログラムがあり、高温ガス炉とナトリウム冷却高速炉、それぞれの実証炉開発を支援している。具体的には、X-energy社の高温ガス炉と、TerraPower社のNatrium炉が対象だ。これは、原型炉を開発するためのコストシェア型プログラムである。
それぞれ用途が異なる点が重要だ。X-energy社の炉は、テキサス州シードリフトでダウ・ケミカル社と連携して開発が進められている。ダウ・ケミカル社は石油化学プロセス向けに、高温でクリーンな熱源を必要としているのだ。
一方、ワイオミング州ケンメラーで建設が進むTerraPower社のNatrium炉は、再生可能エネルギーを補完することを念頭に設計されている。熔融塩による蓄熱機能を活用し、日照や風が不足する時にも電力需要に対応できる。両者にはそれぞれ異なる用途があり、いずれも優れた受動的安全機能を備えている。これらの技術は今後、米国における革新炉展開の中で極めて重要かつ基盤的な存在になるだろう。
原子力の非電力利用、例えば水素製造や産業熱供給の可能性をどのように見ていますか。
ピアシーCEO間違いなく重要な分野になる。特に産業用熱や産業プロセスへの応用については、今後さらに関心が高まるだろう。高温ガス炉が商業運転に入れば、高品質でクリーンなプロセス熱を必要とする多くの企業が、原子力に移行していくだろう。ただし、これは一夜にして実現するものではなく、今後10年から20年のスパンで徐々に進んでいくものだ。また、ナトリウム冷却高速炉については、負荷追従性が高く、燃料交換間隔も長いといった特徴があり、電力用途においても再生可能エネルギーを補完する役割を果たすことができる。
ハシェミアン会長加えて、原子力は医療分野においても極めて重要である点を忘れてはならない。現在、医療用アイソトープ、特にモリブデン99の供給不足が深刻化している。これは従来供給していたカナダの研究炉が停止したことが背景にある。この問題は、診断および治療の両面に影響を及ぼしており、今後大きな課題となる。したがって、原子力の役割はエネルギーだけでなく、医療の分野でも極めて大きいと考えていい。米国では現在、大型の研究炉は2基しか稼働しておらず、本来であればもっと多くの施設が必要だと考えている。
米航空宇宙局(NASA)は最近、原子力推進宇宙船など宇宙における原子力利用の推進を発表しました。こうした宇宙分野の原子力テクノロジーは、地上の原子力産業にも影響を与えるでしょうか。
ピアシーCEOその通り。相互に影響し合う関係になると考えている。まず、NASAは月やその先の探査を進めるために、原子力による「電力供給」と「推進」の両方が必要だと明確に打ち出している。例えば月面では「月夜」が約2週間続くため、太陽光発電だけでは対応できず、原子力が不可欠になる。また、地球と月の間の輸送、いわゆるシスルナ輸送においても、原子力による推進システムが重要になる。
こうした宇宙分野の開発が地上にどう影響するかという点だが、私は双方向の関係になるとにらんでいる。宇宙は、新しい技術を比較的安全な環境で試す場となり、その知見を地上の原子力システムに応用することができる。一方で、TRISO燃料など地上で開発されている技術が宇宙用途に転用されるケースもある。したがって、宇宙と地上の原子力技術は相互に発展を促す関係にある。
ハシェミアン会長X-energy社のように、宇宙と地上の両方の分野で技術開発を進めている企業もあり、両者は補完的な関係にあると言えるだろう。
Ⅷ 日本へのメッセージ
最後に、日本の原子力コミュニティへのメッセージをお願いします。
ハシェミアン会長日本での素晴らしいもてなしに感謝したい。文化や人々の礼節に深い感銘を受けている。その上で、伝えたいことがある。まず、原子力発電所の再稼働についてである。審査を合格したものについては、順次活用していくべきだ。発電設備というものは非常に大きな資産であり、今後も長期間運転できる可能性がある。
次に、福島第一事故の経験そのものについてである。事故は大きな負の側面を持つが、そこから得られた知見は、今後数百年にわたって世界の原子力産業に貢献するだろう。事故対応や廃炉の経験は、将来の重大事故対策における貴重な教訓となる。
ピアシーCEO日本での滞在は非常に素晴らしいものであり、これまでの出張の中でも特に印象的なものだったことに感謝したい。私が伝えたいのは、状況は変わりうるということだ。10年前、米国では経済的理由から多くの原子力発電所が閉鎖され、原子力の将来は非常に暗澹としていた。しかし現在では、原子力産業には大きなイノベーションの波が押し寄せている。ANSの会員数も過去5年間で40%増加するなど、状況は大きく変わっている。
エネルギー安全保障、脱炭素、そしてエネルギー需要の増大といった要因は、今後さらに強まっていく。こうした構造的要因は消えることはなく、むしろ一層深刻になる。したがって、日本においても現在は厳しい状況に見えるかもしれないが、将来は必ず好転するだろう。「Hang in there, Stay tough, Good times are coming」が、私からのメッセージだ。









