原子力産業新聞

1分でわかるサマリー

英国のロールス・ロイスSMR計画をめぐり、原子炉系統の主要機器に韓国の斗山エナビリティが関与することが議論を呼んでいる。英国政府はSMRを脱炭素電源としてだけでなく、国内製造業再生の柱としても位置付けており、海外企業の活用はその目的と矛盾するのではないか、という見方もある。しかし専門家は、現代の原子力産業は一国だけでは完結せず、大型鍛造品や燃料、タービン、変圧器など多くの分野で国際サプライチェーンが不可欠だと指摘する。一方で、すべてを海外に委ねれば原子力産業の中核的能力は失われる。問われているのは「誰が原子炉を作るのか」だけではない。各国が何を自国に残し、何を信頼できるパートナーに委ねるのかである。

英国で進む小型モジュール炉(SMR)開発計画をめぐり、思わぬ議論が広がっている。英ロールス・ロイスSMRが、原子炉系統の主要機器についてチェコのŠkoda JSと韓国の斗山エナビリティ(Doosan Enerbility)を戦略的サプライヤーとして選定したことに対し、一部メディアがこのうち斗山の関与に焦点を当て、「英国の雇用や製造業育成という政策目的に反する」と報じたのだ。

だが、本当にそうなのだろうか?

ロールス・ロイスSMR自身は、斗山との協力を計画成功のための重要な要素として位置付けている。さらに、国際原子力法・政策の専門家であるジョージ・ボロバス氏や、国際的な原子力プロジェクト開発や資金調達に携わってきたポール・マーフィー氏への取材から浮かび上がったのは、「英国対韓国」という単純な構図ではない。むしろ、世界的な原子力回帰が進む中で、各国が直面するサプライチェーンの制約と、原子力産業の基盤をいかに維持するかという共通課題であった。

英国SMR計画をめぐる議論は、「誰が原子炉を作るのか」という問いを私たちに突き付けている。

英国で起きた論争

ロールス・ロイスSMRは5月27日、圧力容器本体を含む原子炉系統の主要機器(nuclear island components)について、チェコのŠkoda JSと韓国の斗山エナビリティを戦略的サプライヤーとして選定したと発表した。両社は初号機の早期運開を支えるため、設計から製造準備までを事前に進めることで、建設スケジュールの短縮につなげるとしている。

英フィナンシャル・タイムズ紙は6月3日、このうち斗山の関与に焦点を当て、英国国内産業との関係を問題提起した。背景には、英国政府がSMR開発を単なるエネルギー政策ではなく、国内産業振興策としても位置付けていることがある。SMRの量産化を通じて製造業を再活性化し、高度技能職を創出するという期待があるためだ。

一方で、ロールス・ロイスSMRの発表を見ると、同社の狙いは特定国への依存ではなく、供給確実性の確保にある。同社は、Škoda JSと斗山の2社による「二重供給体制」によってサプライチェーンを強化し、重要な長納期品の納期確実性を高める考えを示している。

斗山側も同様に、今回の選定を欧州SMR市場参入に向けた戦略的足掛かりと位置付けている。同社は発表資料の中で、英国およびチェコで進むロールス・ロイスSMRのプロジェクト向けに、圧力容器本体を含む主要機器について、設計の最終化や製造準備を進めると説明している。

両社の発表を読む限り、「英国企業の仕事を韓国企業が奪った」という構図よりも、「プロジェクト成功のために最適な供給網を構築する」という発想の方が近い。

英国がSMRに託す産業戦略

ロールス・ロイスSMRは、英国が国家戦略として推進するSMR開発計画の中核を担う存在である。

同社が開発するSMRは出力約47万kWe級で、主要機器を工場で製造し、現地で組み立てるモジュール方式を採用する。建設期間の短縮やコスト低減を目指しており、英国政府が設立したGreat British Energy – Nuclear(GBE-N)が進めるSMR選定プロセスでも有力案件として位置付けられている。

英国政府がSMRに期待しているのは、脱炭素電源の確保だけではない。ロールス・ロイスSMRはこれまで、国内サプライチェーンの活用を通じて数万人規模の雇用創出や製造業活性化につながる可能性を強調してきた。

かつて造船、航空宇宙、原子力機器製造で世界をリードした英国にとって、SMRは産業競争力を取り戻すための象徴的プロジェクトでもある。そのため、主要機器製造に海外企業が関与することに対して一部で議論が生じるのも自然な流れと言える。

© Rolls-Royce SMR

「英国製100%」は現実的なのか

この点について、国際原子力法務の専門家であり、英国の原子力プロジェクトにも深く関わってきたジョージ・ボロバス(George Borovas)氏は、より本質的な視点を示す。

同氏は原子力産業新聞の取材に対し、「英国は依然として高い原子力エンジニアリング能力を有している」としながらも、「大型鍛造品や特殊機器など一部の分野では、国際的な供給企業が引き続き不可欠になる」と指摘した。

さらに、「単独であらゆる能力を大規模に保有している国は存在しない」と述べ、現代の原子力産業は国際的なサプライチェーンを前提として成立しているとの認識を示した。

実際、現在建設中の大型原子力発電所を見ても、一国だけで完結している例はほとんどない。米国のAP1000、フランスの欧州加圧水型炉(EPR)、韓国のAPR1400なども、多国籍のサプライチェーンによって支えられている。

英国SMR計画への斗山の参加も、そうした国際分業の延長線上に位置付けることができる。

英国が失ったもの、残したもの

英国は世界でも長い原子力利用の歴史を持つ国の一つである。1956年には世界初の商業用原子力発電所であるコールダーホール原子力発電所を運転開始し、その後もマグノックス炉(GCR)や改良型ガス冷却炉(AGR)といった独自炉型を開発してきた。長年にわたり、英国は設計、製造、建設、運転のすべてを国内で担うことができる数少ない原子力先進国だった。

しかし、そうした状況は徐々に変化していく。

1995年に加圧水型炉(PWR)であるサイズウェルB原子力発電所が運転を開始して以降、英国では長期間にわたり新規原子力発電所建設が行われなかった。ヒンクリーポイントCの建設が本格化するまで、およそ四半世紀にわたって大型原子力プロジェクトの空白期間が続いたのである。

この間、原子力産業そのものが消滅したわけではない。ロールス・ロイスをはじめとする企業は、高度な設計能力やエンジニアリング能力を維持し続けた。一方で、大型鍛造品や重機製造など、一部の製造能力は縮小あるいは海外依存が進んだ。

その象徴的な存在がシェフィールド・フォージマスターズである。同社は長年にわたり大型鍛造品製造を担ってきたが、2000年代の原子力ルネサンスへの期待を背景に行った設備投資は、期待されたほどの市場拡大には結び付かなかった。

ボロバス氏が、「英国は依然として重要な原子力エンジニアリング能力を保持している」と述べる一方、「大型鍛造品や特殊機器については国際的なサプライヤーが引き続き不可欠になる」と指摘した背景には、こうした歴史がある。

一方で英国は、設計や先進炉開発といった「中核的能力(core capabilities)」の維持にも力を入れている。6月14日には高市早苗首相の英国訪問にあわせ、日本原子力研究開発機構(JAEA)とロールス・ロイスが高温ガス炉(HTGR)分野における協力覚書を締結した。両者は高温ガス炉技術の研究開発や将来的な実用化に向けて協力を進めるとしている。

製造能力の一部を国際サプライチェーンに委ねながらも、原子炉設計や先進炉開発への関与を維持する英国の姿勢は、中核的能力の重要性を示す一例と言えるだろう。

現在の英国SMR計画は、新たな原子炉を建設するだけのプロジェクトではない。長期間の建設停滞によって弱体化したサプライチェーンを再構築し、原子力産業を将来にわたり維持していく試みでもある。

だからこそ英国では、「どの能力を国内に残し、どの能力を国際的なパートナーシップに委ねるべきか」という議論が続いている。ロールス・ロイスSMRと斗山エナビリティの協力関係をめぐる論争も、その文脈の中で理解する必要があるだろう。

なぜ斗山が選ばれたのか

ロールス・ロイスSMRの発表で注目すべきは、斗山だけが選ばれたわけではないという点である。同社はチェコのŠkoda JSと韓国の斗山エナビリティを戦略的サプライヤーとして選定し、重要な長納期品について二重供給体制を構築すると説明している。これは特定国への依存ではなく、供給確実性を高めるためのリスク分散策と見るべきだ。

では、なぜその一角に斗山が入ったのか。その答えは、斗山が「作れる企業だから」である。

斗山は長年にわたり韓国国内の原子力発電所向け機器製造を担ってきた。近年では、世界の原子力サプライチェーンの中で存在感を急速に高めている。

同社は韓国国内でのAPR1400建設を通じて大型原子力機器製造能力を維持してきた。さらに、アラブ首長国連邦(UAE)のバラカ原子力発電所向け機器供給にも参画し、国際プロジェクトでの実績を積み重ねている。

SMR分野にも積極的である。米ニュースケール・パワー、X-energyなど複数の先進炉開発企業と協力関係を構築し、原子力機器製造のパートナーとして選ばれている。

これは単に価格競争力によるものではない。大型鍛造品や原子炉主要機器の製造には長年の経験と品質保証体制が必要であり、新規参入が容易ではないためだ。ロールス・ロイスSMRが斗山を選んだ背景にも、こうした製造実績と供給能力がある。

ロールス・ロイスSMRの外観イメージ図 © Rolls-Royce SMR

原子力回帰が生む新たな競争

米国を拠点に原子力プロジェクト開発や資金調達に携わるポール・マーフィー(Paul Murphy)氏は、原子力産業新聞の取材に対し、今後10年間で原子力サプライチェーンをめぐる競争は一層激しくなるとの見方を示した。マーフィー氏によれば、最大のボトルネックの一つは大型鍛造品である。

原子炉圧力容器や蒸気発生器などに用いられる大型鍛造品は製造可能な企業が世界的に限られており、発注が集中すれば供給能力が逼迫する可能性がある。さらに問題なのは、こうした機器の多くが長納期品(Long Lead Items: LLI)であることだ。

原子力発電所建設では、建設許可取得や最終投資判断(FID)を待たずに製造枠を確保しなければならないケースも少なくない。マーフィー氏は、事業者が建設許可取得前の段階から巨額の資金を投じ、機器製造枠を確保する必要があると指摘する。これは単なる製造能力の問題ではなく、資金調達や事業リスクとも密接に結び付いている。

またマーフィー氏は、多くの先進炉やSMRで利用が期待されるHALEU燃料についても、米国を中心に供給能力拡大が進められているものの、将来的な需要増加を考えると十分ではないと指摘する。加えて、タービンや変圧器といった非原子力設備についても世界的な需給逼迫が進んでいるという。

原子炉だけではない

マーフィー氏の指摘で重要なのは、ボトルネックが原子炉機器だけに限られないという点である。

原子力発電所建設におけるサプライチェーン問題というと、多くの人は原子炉圧力容器や蒸気発生器などの原子力機器を思い浮かべるだろう。しかし、マーフィー氏は現在の課題はそれだけではないと指摘する。同氏によれば、原子力発電所建設に必要なタービンや変圧器についても世界的な供給制約が強まっているという。

背景には、世界的な電力インフラ投資の拡大がある。再生可能エネルギーの大量導入に伴う送電網整備に加え、AIやデータセンター向けの電力需要増加を見込んだ設備投資が各国で進んでいる。こうした動きにより、電力設備メーカーの生産能力は逼迫しつつある。

原子力発電所も例外ではない。発電所建設では原子炉だけでなく、タービン、発電機、変圧器、制御システムなど数多くの機器が必要となる。原子炉本体の準備が整っていても、こうした周辺設備の供給が滞ればプロジェクト全体が遅延する可能性がある。

つまり、原子力発電所建設を支えるサプライチェーンは原子力業界だけで完結しているわけではない。重工業、素材産業、電力機器産業など、多様な産業基盤の上に成り立っている。世界的な原子力回帰が進む中で、各国は原子炉を建設するだけでなく、それを支える広範な産業基盤をどのように維持・確保するかという課題にも直面しているのである。

サプライチェーン投資のジレンマ

一方で、供給能力を増強すれば問題が解決するわけではない。マーフィー氏は、原子力サプライチェーンが直面する課題として、「需要が見込まれるからといって企業が容易に投資できるわけではない」と指摘する。

2000年代半ば、世界では「原子力ルネサンス」が語られ、多数の原子力発電所建設計画が発表された。これを受けて、日本製鋼所(JSW)や英国のシェフィールド・フォージマスターズなど、原子力発電所向けの大型鍛造品を製造する企業は、需要拡大を見込み生産能力の増強を進めた。

しかし、その後の市場環境の変化や福島第一原子力発電所事故などの影響により、多くの建設計画は実現せず、期待されたほどの需要増加には結び付かなかった。

マーフィー氏は、この経験が現在のサプライチェーン問題を考える上でも重要な教訓になっているとみる。大型鍛造設備や専門人材の育成には、巨額の投資と長い時間が必要である一方、その投資を回収できるだけの市場が将来にわたって維持される保証はないからだ。

現在、世界的な原子力回帰が進む中でも、企業が能力増強に慎重な姿勢を示す背景には、こうした過去の経験がある。原子力サプライチェーンは必要になった時に短期間で再構築できるものではなく、継続的な需要と長期的な政策の予見性によって初めて維持されるのである。

英国が期待するSMRの経済効果

英国政府がSMR開発を重視する理由は、脱炭素電源の確保だけではない。製造業の再生や地域経済活性化といった産業政策としての側面も大きい。そのため、一部で「英国のSMRなのに韓国企業が主要機器を供給するのか」という議論が生じるのも理解できる。

しかし、国内産業育成と海外企業との協力は必ずしも矛盾しない。問われているのは「英国製か海外製か」という二者択一ではなく、どの分野を国内に残し、どの分野を国際的なパートナーシップで補うかという戦略的判断なのである。

© Rolls-Royce SMR

国内建設なくして産業基盤は維持できるのか

こうした議論は日本にとっても決して他人事ではない。

2000年代の「原子力ルネサンス」では、JSWをはじめとする国内企業が将来の需要拡大を見込んで能力増強を進めた。しかし、その後の市場環境変化によって期待された建設需要は実現せず、多くの企業が難しい判断を迫られた。

その経験は、原子力サプライチェーン維持の難しさを示している。同時に、能力を一度失えば再構築が容易ではないことも示している。

ボロバス氏は原子力先進国が維持すべき能力として、

  • 原子炉設計
  • 許認可/規制対応
  • プロジェクト開発(事業形成/資金調達等)
  • 燃料サイクル
  • 原子力施設の運転

を挙げた。

その上で、国際サプライチェーンの活用は不可欠であるとしながらも、「強固な国内基盤と信頼できる国際パートナーシップを組み合わせた国こそが、将来の原子力分野で成功する」と指摘する。

一方、マーフィー氏は、「どの製造能力を国内に維持すべきかについて、一律の答えはない」との見方を示した。

その上で、

  • 大型鍛造品や精密製造といった高付加価値分野に特化する戦略
  • 他産業にも展開可能な機器/部品製造能力を維持する戦略
  • 積層造形(Additive Manufacturing)や3Dプリンティングなど将来技術に注力する戦略

など、複数の選択肢があり得ると指摘。さらに、こうした戦略は将来どの炉型やベンダーと協力関係を構築するかとも密接に関係しているとの認識を示した。

さらに同氏は、原子力発電所建設を長期間停止した国は、やがて世界の原子力サプライチェーンへの参加能力を失うリスクがあると警鐘を鳴らす。その例として米国と英国を挙げ、国内建設の停滞によって製造能力が長年にわたり徐々に縮小・弱体化してきたと指摘した。

実際、日本原子力産業協会の増井秀企理事長は、海外SMRプロジェクトへの日本企業の参画を評価する一方で、「技術や人材、サプライチェーンを将来にわたり維持・発展させるためには国内での原子力発電所建設も重要である」と繰り返し指摘している。

設計、製造、建設、運転といった技術や技能は、実際のプロジェクトを通じて継承される。国内で原子力発電所建設が長期間行われなければ、人材や技術、サプライチェーンの維持は次第に困難になる。

英国のSMR計画をめぐる議論は、「誰が原子炉を作るのか」という問いから始まった。しかし最終的に浮かび上がるのは、「自国は何を作り続けるべきなのか、そして何を信頼できるパートナーに委ねるべきなのか」という、より本質的な問いである。

原子力発電所はもはや一国だけで完結して建設できる時代ではない。だが同時に、設計、許認可、プロジェクト開発、燃料サイクル、運転といった中核的能力まで失えば、その国は原子力産業の主役ではなく、単なる部品供給者へと後退してしまう。

英国のSMR計画が示しているのは、国際分業の重要性ではなく、その中で自国の役割をいかに維持するかという課題である。そしてその問いは、英国だけでなく、日本にも向けられている。

(原子力産業新聞 編集長)

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