原子力産業新聞
NECG Commentary
3

ベースロードの原子力

03 Nov 2014

原子力発電所は、経済的な理由からベースロード電源として運転される。NECGコメンタリー第3回では、ベースロード電源、原子力発電所がベースロード電源として運転される経済的な理由、および原子力発電の負荷追従運転の可能性について説明する。

ベースロード

電力会社は、時々刻々変動する需要を満たすように発電所を稼働させる。上のグラフは、こうした需給調整の作業がどの程度のものとなるかを見るためにその変動の大きさを示したものだ。このグラフは、広域の自由化電力市場を運営する米国の地域送電機関(RTO)[1]Regional Transmission OrganizationであるPJM(ペンシルベニア州、ニュージャージー州、メリーランド州の頭文字をとったもの)の2013年における時間毎の需要変化と負荷持続曲線を示している。青色はPJM系統の一年間の時間毎の需要変化(横軸は時間)を示しており、オレンジ色はその毎時の需要を高い順に左から並べ替えたもので、年間を通して需要がその値より高い時間がどれだけあるか、その割合を横軸として示した負荷持続曲線(LDC)[2]Load Duration Curve と呼ばれるものである。2013年のPJM最大系統需要は1億5,750万kWであり、最低需要の5,770万kWより約1億kWも大きいことがわかる。どのような電力系統や電力市場においても、限界費用が最も低い発電所が可能な限り年間を通して運転される。通常、水力、原子力、および石炭火力がこうしたいわゆるベースロード電源の役割を担う。それらの発電所の中からその時点で利用可能な設備を選んで稼働させることになる。ベースロード発電所は、メリットオーダー[3]merit order: SRMC等に基づく電源別コスト順位 が低い(すなわち、短期限界費用(SRMC)が低い)順に可能な限り運転される。PJM域内の合計3,370万kWの原子力発電所は、利用可能な限り全出力で運転されている。次の図は、需要を満たすために各種発電所がどのように運転されるかを示している。SRMCは、最下位(水力発電および原子力)から最上位(CT:ガスタービン)に向かうにつれ増加している。


この図の最下位のベースロード電源は、SRMCが低いことから最大限に運転される。ガスタービン(CT)はこの図の最上位に位置する。CT発電所は、需要ピーク時に他の電源が利用できないときのみ運転される。CTは、迅速な起動と短時間での全出力までの出力上昇が可能である。その資本費用は低いが燃料費(つまりSRMC)は高い。ピークロード電源とベースロード電源の間を埋めるのが、負荷追従用電源である。負荷追従用電源の中には毎日、負荷追従を担うユニットもあれば、一年のうちの季節によって運転されるものもある。負荷追従電源は、最低運転出力が比較的低く、部分負荷運転しても熱効率がさほど下がらず、出力変化速度が速く(すなわち負荷追従能力が大きく)、ガバナフリー(AGC)で運転することで系統周波数を維持する機能も有する。常時変動する需要にきちんと対応する、という電力系統給電指令者や電力市場運営者が担う役割はそもそも困難さを伴うものだが、発電所の計画的停止はもとより、計画外の停止、送電線トリップ、あるいは気象変化による需要の異常な変動などがあるとその困難さはさらに大きなものとなる。このような状況においても電力系統をきちんと維持するために、電力系統では常に一定の予備力(必要なときに発電できる余剰な発電容量)を維持している。負荷追従電源やピークロード電源はこうした予備力としての役割も担う。それらには、瞬動予備力(系統に並列済みで、迅速に出力上昇が可能な部分出力運転中の電源)、運転予備力(迅速に[通常10分以内に]運転を開始できる電源)、および全停復旧可能予備力(送電網からの外部電力なしに起動・並列できる発電所)がある。

原子力はなぜベースロードなのか?

NECGコメンタリーの第2回では、原子力発電のSRMCがゼロになる理由を説明した。原子力発電所はSRMCが低く、他のベースロード電源とともにメリットオーダーの中では最低位のグループに含まれる。原子力発電所の固定費は、発電電力を売電して回収されている。原子力を所有する垂直統合された電力会社では、SRMCが高い他の発電所をできるだけ停止させ、原子力発電所を運転することになる。こうすることで原子力発電所の価値は最大限発揮させられることになる。一方、自由市場環境下にある原子力発電所は、電力市場への入札において運転レベルが最大となるように、値付けを行う。プラス(ゼロより上)の価格で売電できれば、それを原子力の固定的費用に充てることができ、原子力発電所としての利益を最大化することになるからである。原子力発電会社は過去数十年にわたり原子力発電所をベースロード電源として運転した経験をもとに、その発電量を最大化し、かつ固定費用をまかなうための運転・管理手法をつくりあげている。

原子力発電所の負荷追従運転

原子力発電所の大半がベースロード電源として運転されている(すなわち、柔軟な負荷追従電源としては運転されていない)ことから、原子力発電所は柔軟な負荷追従運転はできない、と結論付けるのは誤りである。原子力発電所は柔軟に負荷追従運転することが可能だ。改良型軽水炉の設計では、定格出力を大きく下回る部分出力で運転し、他の火力発電所などにも匹敵する出力変化率で出力上昇することも可能で、またAGCモードで運転しながら系統周波数制御に貢献することができる機能も有している。一部の稼働中原子力発電所はすでに柔軟な負荷追従モードで運転している。フランスの総発電電力量の約75%は原子力発電によるものである。系統の需要変動がある中、原子力発電容量が大きな割合を占めているということを見てわかるとおり、フランスでは一部の原子力発電所が負荷追従しながら周波数調整を行っている。原子力発電所の柔軟な負荷追従運転を行うに際して、EDFは特殊な「グレー制御棒」[4]「グレー制御棒」:中性子吸収量が大きい制御棒より小さな微調整用の制御棒を採用し、全原子力発電所を協調させながら柔軟な負荷追従運転を行うシステムを構築している。米国太平洋岸北西部に位置するコロンビア原子力発電所の系統には大量の水力発電所がある。この大規模な水力発電システムを適切に管理するよう、地域系統給電指令者はコロンビア原子力発電所を柔軟に負荷追従させながら運転している。2011年にOECD/NEAがまとめた報告書では、原子力発電所の柔軟な負荷追従運転について詳細な説明がなされている。原子力発電所の柔軟な負荷追従運転とは、原子力発電所を定格出力に満たない部分出力で運転することで、発電所をベースロードで運転した場合と比べれば収益と利益が減少することを意味する。当該原子力発電所の設計と柔軟度にもよるが、運転コストはベースロード運転時より高くなる。発電量が減少してもそれへの補償がないから、原子力発電所の所有者が進んで柔軟な負荷追従運転を行う可能性は低い。

しかし柔軟に負荷追従運転を行う原子力発電所に対して何らかの補償を行うことは十分正当性がある。垂直統合された電力会社にとっては、原子力発電所を負荷追従させることで不要となる火力発電所などへの投資やその運転費が削減できるから、全体として見ても総費用を削減できる可能性がある。だから自由化電力市場においても、柔軟な負荷追従運転を原子力発電所が行った場合、アンシラリーサービスや予備力に対する支払いとして原子力に対して補償をすることが可能と言える。そうした柔軟な負荷追従運転の価値が十分に高い場合、そうした補償額は出力レベル低下によって失われる利益を補って余りあるものになる可能性がある。新規原子力発電所について、完成した際に柔軟な負荷追従運転を行うとした場合、当然ベースロードで運転する場合より経済性は悪化する。柔軟に負荷追従運転を行う原子力発電所は、売電価格を上げることによって固定費を回収しなければならなくなる。

間欠的電源

一部の電力系統や電力市場では、風力や太陽光発電といった間欠的電源が増加している。間欠的電源とは、発電電力量が系統需要と無関係に経時変化してしまう電源のことを意味する。また系統給電指令者や市場運営者が時々刻々変動する需要を満たしたくても、この種の間欠的電源設備に対しては給電指令を発することはできないから、これらは給電指令不能電源と見なされている。風力発電と太陽光発電は、SRMCがゼロなどの点で原子力と共通の経済的特徴を有する。原子力発電所と同様に、これらの発電所の収益と利益は、できる限り多くの電力を発電することによって最大化される。これらの間欠的電源は、系統給電指令者や市場運営者に新たな問題をもたらしている。系統給電指令者や市場運営者は、出力増減が可能な発電所を用いて変動する需要を満たすことに加えて、今やこれらの間欠的電源の出力変動にも合わせて他の発電所出力を調整しなければならなくなっている。少量の(例えば約10%程度の)間欠的電源であれば、既存の給電指令対象となる発電所や予備力を活用して、系統全体の運転にほとんど影響を与えることなく、それらを系統に追加することができる。しかし、大量の間欠的電源が系統に並列されるとなると、そうした間欠的電源の急速な出力変化に対応するために火力発電所を追加で投入する必要が出てくる可能性がある。これは、これまでベースロードで運転していた発電所(原子力発電所を含む)が、柔軟に負荷追従運転を行いながら年間発電電力量を低下させて運転しなければならなくなることも意味している。

結論

通常、原子力発電所はその発電所自体と、その発電所が並列している電力系統の経済性を考えてベースロード電源として運転される。原子力発電所は柔軟に負荷追従運転を行うことが可能であるが、通常、そうした運転を行うことはその原子力発電所がもたらす経済的利益を減少させることを意味する。

 

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脚注

脚注
1 Regional Transmission Organization
2 Load Duration Curve
3 merit order: SRMC等に基づく電源別コスト順位
4 「グレー制御棒」:中性子吸収量が大きい制御棒より小さな微調整用の制御棒

お問い合わせ先
Edward Kee +1 202 370 7713
edk@nuclear-economics.com

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