原子力産業新聞
NECG Commentary
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依然として残る米国原子力発電を巡る問題

08 Jan 2018

ワシントンはじめ米国各地では、極寒の気候と「爆弾サイクロン」という耳新しい気象用語とともに2018年の新年を迎えることとなった。これまでのところ、米国各電力系統では大きな停電は起きていないが、電力需要が増加し発電用天然ガスの供給が限界となったため、石油が発電用燃料として大量に使われることとなっており懸念をよんでいる。これまでは原子力発電がこうした需要に応えるのに必須の基幹電源であった。しかし爆弾サイクロン・グレイソン襲来に際して重要な電力供給源となっていた複数の原子力発電所は逆に早期閉鎖の可能性に直面している。

電力システム改革の結果、長期的な電源開発計画はとって代わって電力市場の見えざる手に委ねられることとなった。しかしそこで決まる電力市場価格では新規ベースロード電源建設に対する財政的インセンティブを十分に与えることはできないばかりか、既設の運転中原子力発電所を維持することすらできなくなっている。中国、インド、フランス、ロシアをはじめ、世界の多くの国々ではそうした電力システム改革導入を控え、原子力発電を含めて長期的に電源計画を立案することとしている。

英国の電力市場改革のプロセスにおいては、電力市場では建設が進まないような新規原子力発電建設計画に対し、政府がインセンティブプログラムを提供することが認められている。その結果、ヒンクリー・ポイントCプロジェクトが計画され、またそれはホライゾン、ニュージェン、ブラッドウエルなど、その他の新規原子力プロジェクトの影の推進力ともなっている。

米国でも原子力発電が財政的理由で早期に閉鎖されるのを防ぐため、追加の収益を生むようないくつかの措置をとるべく努力が払われている。ニューヨーク州とイリノイ州ではゼロ・エミッション・クレジット(ZEC)プログラム実施が承認されており、選定された原子力発電所に対して追加の収益を確保することでそれらのプラントが早期閉鎖されることがないような措置が既に取られている。しかしニュージャージー州、オハイオ州、及びペンシルバニア州では原子力発電所の早期閉鎖の恐れがあるものの同様の措置が取られるには至っていない。

2018年1月8日、米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)は委員会に提出されていた米国DOE規則案「電力系統信頼度とレジリエンス確保のための価格付け」を却下し、新たな事案(AD-18-7-000)を起こした上で地域送電機関(RTO)と独立系統運用機関(ISO)に対し系統信頼度問題についてさらに情報提出することを要求する指令を出した。このFERC指令の中でチャタージーFERC委員が以下のように言及しているとおり、電力市場価格の見えざる手は米国電気事業に重大な変化をもたらすこととなっている。

「そうした変化の規模と速度には驚愕させられる。2014年から2015年の期間だけをとっても、米国全体で約1,580kWの天然ガス、1,300kWの風力、620kWの大規模太陽光、そして360kWの分散太陽光の発電容量が追加された。一方、2011年から2014年の間にほぼ4,200kWにもなる系統同期電源(すなわち石炭、原子力及び天然ガス)が廃止され、さらにこれに加えて2025年までには定格容量で1,050kWに相当する7基の原子力発電所の廃止が予定されている。」

こうした問題に対してFERCや各州による対策がこれから取られるとしても、それでは早期閉鎖の恐れに直面している原子力発電所を救うにはもう間に合わないかもしれない。

 

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