COP30、定着した原子力の役割
一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 増井 秀企
2025年11月10日~22日、ブラジル・ベレンにおいてCOP30*1が開催された。会議では、森林火災や生態系破壊、豪雨・洪水など深刻化する気候影響には、国際社会が団結して取り組むことの必要性が強調された。
大量のゼロカーボン電力を安定供給する原子力については、2023年12月にドバイで開催されたCOP28以来、現実的かつ不可欠であるとその支持は定着している。COP28で有志国によって採択された「原子力三倍化宣言」*2 には、COP30に際して、新たにルワンダ、セネガルが参加し、支持国は33か国に拡大した。
COP30期間中の11月17日に開催された世界原子力協会主催、当協会、カナダ原子力協会、欧州原子力産業協会の共催による公式サイドイベント*3では、アジア太平洋地域におけるエネルギー転換に果たす原子力の役割に強い期待が寄せられた。
また、期間中を通して、国際原子力機関(IAEA)や国際原子力イニシアティブであるネットゼロ原子力(NZN)、Nuclear for Climate(N4C)がブース展示を行い、原子力の脱炭素に果たす役割をアピールした。
N4Cはポジション・ペーパーを発表し、高い供給信頼性を持つ原子力の重要性への理解を広く求めた。また、当協会を含む17の原子力産業団体は共同声明の中で、原子力が過去50年間で約70GtのCO₂排出削減に貢献してきた実績を主張し、今後の原子力利用の拡大のため、革新炉を含む新技術の展開、燃料サイクルの確立、政府による政策支援や金融機関による支援拡充の必要性などを訴えた。
COP30に先立って、国際機関は各種の見通しの修正を行った。IAEAは、高予測ケースにおいて、世界の原子力発電設備容量が2024年末の3億7,700万kWeから2050年までには9億9,200万kWeへと2.6倍に拡大するとの見通しを示し、5年連続で将来予測を上方修正した。国際エネルギー機関(IEA)は、「世界エネルギー見通し(WEO2025)」で従来型の大型炉に加え、小型モジュール炉(SMR)など新技術への投資が拡大し、2025年の原子力発電電力量は過去最高を記録する見通しを示し、「原子力発電の復活」を強調した。
一方で、民間レベルでの原子力の事業環境も大きく前進した。2024年9月以降、世界有数の金融機関16社による原子力支援の表明をはじめとして、米国ヒューストンで開催されたCERAWeek(2025年3月)では、大手テック企業など世界的に事業を展開する14社が「2050年までに原子力設備容量を少なくとも3倍に増やす」ことを確認した。さらに、本年6月には、長らく原子力事業に対する支援を控えていた世界銀行がIAEAとのパートナーシップを締結、原子力への融資再開を決定した。また、アジア開発銀行(ADB)もそれに続き、新規建設に向けた投資面での国際的な事業環境整備も新たな段階に入った。
今回のCOP30を機に、脱炭素電源としての原子力への変わらぬ強い期待と新たな建設の実現への具体的な動きとともに、わが国の原子力産業が有する知見と世界有数の原子力産業基盤が果たし得る脱炭素への役割の大きさを改めて実感することになった。当協会は国際的な連携を一層強化し、日本の原子力産業の価値と存在感を高めていく所存である。
*1 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第 30回締約国会議
*2 1.5℃目標の達成に向け、世界の原子力発電設備容量を 2050 年までに 3 倍に増加させるという野心的な目標を掲げたCOP28における閣僚宣言。当初22か国が参加、その後参加国は増加していた。
*3 国連気候変動枠組条約の事務局から公式に認められたサイドイベントで、世界の原子力産業界団体代表者らが3倍化宣言を実行に移すために必要な要素等について議論。現地では膨大な数のイベントが並行開催されるがそのほとんどが非公式イベント
<参考>
〇WNE2025(世界原子力展示会)出展の原子力産業17団体による共同声明の発表について
〇Nuclear for Climate が COP30ポジション・ペーパーを発表
〇COP30公式サイドイベント 原子力3倍化へ 増井理事長「日本の政策転換に追い風」
〇IAEAが2050年の原子力予測発表 ―― 5年連続で予測を上方修正
〇2050年までに原子力発電設備容量を3倍に 大手IT企業らが誓約
以上
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