原子力産業新聞

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スペイン 大停電時でも原子力の安全性を確保

13 May 2025

桜井久子

2024年次報告と大停電時の原子力発電所の対応を説明するアラルーセ理事長  Ⓒ Foro Nuclear

スペインの原子力産業団体であるForo Nuclearは56日、2024年次報告を発表。428日にイベリア半島全域で起きた大規模な停電時の原子力発電所の安全性についても言及した。

同年次報告によると、スペインで運転中の全7基の原子力発電所は、2024年に523.9kWhを発電し、総発電電力量に占める原子力シェアは19.98%だった。平均設備利用率は83.9%。原子力発電設備容量は711kWe(ネット)となり、原子力発電は再生可能エネルギーに次ぎ、2番目に大きな電源だった。総発電設備容量のわずか5.5%の原子力発電が、総消費電力の20%もの電力を13年間連続で生産し、その運転実績と安全性の両面で卓越した水準にあると説明している。

さらに、原子力発電は2024年にスペインで発電された脱炭素電力の26.01%を占めており、環境とエネルギーの課題に対応する上での原子力の重要性を再確認するものと指摘している。

一方、スペインの原子力発電所が技術的にも長期運転に向けた十分な準備が整っているが、20246月に適用された、発電所の閉鎖と廃棄物管理の費用を賄うために設計された、いわゆる「エンレサ税」(Enresa:スペイン放射性廃棄物管理公社)の30%増額が発電所にとって大きな負担となっており、原子力発電業界は、その軽減要求を続けているという。

また、428日にスペイン、ポルトガル、フランスの一部で発生した大規模停電についても言及。停電発生時には4基の原子炉(アルマラス-2、アスコ-1-2、バンデリョス-2)が運転中。トリリョは燃料交換のために停止中、アルマラス-1とコフレンテスは、技術的な制約により、スペイン全域の送電網を一元管理する系統運用者のレッド・エレクトリカ社から運転を止められていた。

停電発生時に外部電源が失われた結果、運転中の原子炉は自動的に停止し、安全な停止を維持するため安全システムが作動。独立したディーゼル発電機が自動起動し、プラントを安全な停止状態に保つために必要なシステムへの電力供給を実施、その後、正常な運転の回復に支障はなかったという。

停電の間、原子力安全委員会(CSN)は緊急時対応組織を立ち上げ、発電所の状況を監視しながら継続的に情報を提供。発電所は現在、対応するすべての安全チェックを完了し、系統運用者の指示に従い、送電網に再接続し、発電が再開された。

今回の大規模停電の原因は今なお究明中であるが、レッド・エレクトリカ社は、停電の原因としてサイバー攻撃を除外。電力供給は翌日にはほぼ全面復旧。フランスとモロッコとの相互接続と、水力とガスタービンコンバインドサイクル発電との連系により回復されたという。

Foro NuclearのI. アラルーセ理事長は、「2019年の原子力発電所の段階的廃止計画に固執することは、現在のエネルギー、環境、地政学的な状況に鑑みると論理的ではない」と主張。さらに停電の間、原子力発電所は「障害」ではなく、「電力システムに安定性を提供したが、それは十分ではなく、そのためシステムが機能しなくなった」と言及した。原子力発電所の大型タービンと発電機は、電力網において、電圧と周波数を安定化させる役割を果たすと説明している。

スペインで稼働中の原子炉7基は1980年代前半~後半にかけて運転を開始。現在、総発電電力量の約6割を再生可能エネルギー(主に水力、風力、太陽光)で賄う。なお、最新の国家エネルギー・気候計画(NECP)では、2030年には総発電電力量の約8割を再生可能エネルギーが占めることを想定している。

スペインは日本と同様、国内のエネルギー資源が乏しく、1950年代から原子力開発を開始。当初は米国やフランスから技術を導入し、1970年代のオイルショックを契機に開発を加速、これまでに閉鎖された3基を含み、10基を開発してきた原子力先進国の一つである。

スペイン政府の原子力の段階的廃止政策による産業競争力と社会に及ぼす影響についての懸念や、国際的な潮流に沿った原子力発電所の長期運転の必要性から、2024年2月中旬、中道右派の国民党(PP)が、スペイン国会に、スペインの原子力発電所の運転期間延長と安全性向上を政府に求める非立法提案を提出、可決された。同月下旬には、スペインで原子力事業を展開する企業が原子力発電所の長期運転を支持するマニフェストを発表している。

同国では2018年6月の中道左派の社会労働党(PSOE)への政権交代を機に、原子力発電所を段階的に閉鎖・廃止する方針に転換された。現状の政策では、2027~2035年までに運転期限を迎える原子力発電所は順次閉鎖される予定となっており、スペインの原子力発電は2030年末までに約320万kWeに縮小し(現在運転中の7基中、4基が閉鎖)、2035年にはゼロとなる予定である。

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