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IEAがスペインのエネ政策レビュー:「全廃予定の原子力がCO2排出目標達成に有効」と勧告

01 Jun 2021

©IEA

国際エネルギー機関(IEA)は5月26日、スペインのエネルギー政策についてレビューした最新報告書を公表した。

同国は2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指して取り組みを進めているが、再生可能エネルギーとエネルギーの効率化によって低炭素なエネルギーへの移行を成功させるには、確固たる国家政策や適切な公的融資、および民間投資を促す奨励策などが必要だとIEAは指摘。2035年までに全廃を予定している原子力発電所に関しても、IEAはCO2ゼロ化の達成における有用性を認めるべきだとスペイン政府に提言している。

IEAは加盟国のエネルギー政策を定期的にレビューしており、スペインの政策について詳細レビューを行ったのは2015年以来のこと。それ以降同国では、電気料金やガス代に対するタリフ負債(再エネの発電電力を市場価格以上の値段で買い取ることで生じた赤字)という長期的な課題を克服、すべての石炭鉱山を閉鎖して地球温暖化の防止を優先事項とするなど、欧州連合(EU)が目指す目標との協調政策を進めている。

IEAの報告書によると、スペインはCO2排出量の実質ゼロ化に向けて総発電量の100%、およびエネルギー全体の97%までを再エネで賄う方針。このため同国のエネルギー政策は、再エネ源の大規模開発やエネルギーの効率化、消費エネルギーの電力化、再エネによる水素製造などが中心となっている。

その結果、電力部門における再エネのシェアは大きく上昇した。ただし、エネルギー全体では、未だに化石燃料に大きく依存しており、輸送部門や建築部門等では特に、脱炭素化に向けた政府目標の達成や再エネのシェア拡大という点で解決すべき課題が残っているとIEAは指摘している。

一方、スペインの原子力政策に関してIEAは、1980年代に同国で7基の商業炉が営業運転を開始したものの、建設中の5基の作業が1983年に中断あるいは凍結され、1994年にはすべて建設中止となった事実に言及した。これに関してスペイン政府は2020年、欧州委員会に対して「エネルギーと地球温暖化に関する国家計画(NECP)」を提出しており、その中でこれらの商業炉を2027年から2035年にかけて、順序正しく閉鎖していくと表明。現行の原子力発電設備710万kWを2030年までに300万kWに、2035年には0とする計画を明らかにした。

IEAの見解では、スペインは発電ミックスにおける再エネのシェアを称賛すべきレベルに拡大させたが、今後、低炭素な発電ミックスにスムーズに移行していくには注意深い配慮が必要である。段階的廃止を予定している石炭火力と原子力のうち、石炭火力の発電シェアは2019年には5%程度で2020年はさらに低くなったが、重要な低炭素電源である原子力の発電シェアは2019年に22%だった。これらが一旦、市場から姿を消すことになれば、これまで電力の約3分の1を供給してきた天然ガス発電で補完することになり、IEAでは様々な再エネに大きく依存する発電システムの中で、天然ガスも同時に消え去ることがないようスペイン政府が特別に注意を払わねばならないと指摘している。石炭火力と原子力の段階的廃止にともなう消費者のコスト負担についても、政府が慎重に評価を行うべきだとしている。

これらを踏まえた上で、IEAはスペイン政府の原子力政策に対する勧告として以下の事項を表明した。

  • 原子力発電所の財政状況を注意深く監視して、電力の供給保証を著しく損なうような、突然の永久閉鎖とならないように十分配慮する
  • 放射性廃棄物の集中貯蔵や深地層処分などのバックエンド戦略をタイムリーに進め、原子力発電所の廃止措置や放射性廃棄物の管理にかかるコストの上昇抑制には十分配慮する。
  • 原子力に関する専門的知見を効果的に維持・継承するためのプロジェクトを、既存の技術インフラや熟練作業員、放射性廃棄物管理公社(ENRESA)等を活用して立ち上げる。
  • 2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するという長期目標の達成に向け、技術オプションの多様化や非発電分野への適用という観点から原子力の有用性の有無を適切に確認する。

(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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