原子力産業新聞

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フィンランド 地域暖房向けSMRの試験施設を建設へ

19 May 2025

桜井久子

LDR-50設置予想図  Ⓒ Steady Energy

フィンランドの小型モジュール炉(SMR)開発企業であるステディ・エナジー(Steady Energy社は56日、小型モジュール炉(SMR)パイロット施設を建設することを明らかにした。ヘルシンキ中心部にある旧サルミサーリ石炭火力発電所サイトを利用する。 

このパイロット施設は、ステディ社が開発するLDR-50モジュールの実物大モデルを採用。同炉の成熟度と安全性の実証を目的とする。ヘルシンキ市が保有するエネルギー企業ヘレン(Helen)社の、閉鎖されたサルミサーリB石炭発電所のタービンホール内に建設する。ステディ社とヘレン社は、2028年までのサイトのリース契約を締結しており、2025年後半に着工する予定。建設コストは1,500万~2,000万ユーロ(約24.4億円~32.5億円)で、ステディ社の自己資金で賄われる。 

LDR-50(5万kWt)は熱供給専用のSMRで、最大150の熱を発生させる。高さは約10m。 このパイロット施設は実際のLDR-50とは異なり炉心に原子燃料を含まない。電気抵抗器が炉心に配置され、出力規模は実際の約1/10の0.6万kWtとなる。タービンホール内に完全に格納され、建物の外観に影響を与えることはない。商業炉の場合でも地下に建設され、同様に都市景観への影響はほとんどない。 
 
フィンランドの放射線・原子力安全庁(STUK)は2024年2月、原子力発電所の緊急時計画区域や予防措置区域の規定を撤廃。発電所の認可申請者が、安全性の確保を条件に個別に説明する方法に切替えたため、住宅地近くへのSMRの設置が可能になった。ステディ社は、地域暖房プラントは都市部近くに配置する必要があるため、現在の市内中心部にある大規模な各種火力発電所を、コンテナサイズのSMRにリプレースすることで、都市中心部の住民にとって土地が解放される利点があると指摘している。 

ステディ社のT. ナイマンCEOは、「このパイロット施設の主な目的は、LDR-50の炉心の受動的安全システムがフルスケールで効果的に機能するかを実証すること。実際の原子炉の導入前に徹底的にテストし、コストと時間のリスクを最小限に抑える。こうした慎重なアプローチが民間投資家が当社を信頼する大きな理由。当社の目標は、補助金なしで建設可能な市場ベースの小型原子力発電の実現である」と語った。 

ヘレン社は2023年4月のハナサーリ発電所の閉鎖に続き、今年4月にサルミサーリ発電所を閉鎖して、エネルギー生産における石炭の使用をすべて終了した。同社の炭素排出量は2024年比で50%削減、ヘルシンキの炭素排出量の約30%削減に貢献する。同社は2030年までにカーボンニュートラルの達成、2040年までに完全な脱炭素を目指している。2022年には、同社の地域暖房生産の64%を石炭火力が占めていたが、石炭の代替には、廃棄物と環境熱を利用したヒートポンプ、電気ボイラー、エネルギー貯蔵、持続可能なバイオエネルギーを活用していく方針。フィンランドの法律では、2029年5月1日以降、エネルギー生産に石炭を使用することはできなくなる。 

ヘレン社は、電気・熱供給または地域暖房用のSMRの導入を目的とした原子力プログラムを開始しており、現在、ビジネスモデルの評価、ヘルシンキ大都市圏の潜在的なサイト候補地のマッピング、SMR供給者の選定準備が進められている。年内には、サイト候補地を公表する予定だという。 

 

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