原子力導入 経済成長と雇用創出に寄与 欧原子力産業協会が試算
17 Jun 2025
欧州の原子力産業団体である欧州原子力産業協会(nucleareurope)は6月5日、「経済的および社会的影響に関する報告書」を発表。2050年までにEU域内の原子力発電設備容量を1.5億kWまで拡大した場合、EU全体で年間3,300億ユーロ(約55兆円)超の経済規模を創出し、約150万人の雇用を支えるとの見通しを示した。報告書はコンサルティング企業のデロイトがnucleareuropeの委託で作成したもので、原子力分野への投資の経済的・社会的波及効果を明らかにし、原子力導入の経済的意義を定量的に示すことで、政策立案者や投資家の判断材料とすることが狙い。
報告書では、原子力の導入規模ごとに1億kW、1.5億kW、2億kWの3シナリオを設定し、それぞれの経済効果、公的収入、可処分家計所得、雇用創出への影響を分析した。最も高い2億kWシナリオでは、年間3,830億ユーロ(約64兆円)の経済効果、719億ユーロ(約12兆円)の税収、593億ユーロ(約9.9兆円)の可処分家計所得がもたらされ、約166万7,000人の雇用が創出されると推定している。
現状(2023年)では、EU域内の原子力発電設備容量は1億600万kWで、原子力産業は年間2,512億ユーロ(約42兆円)の経済効果、476億ユーロ(約8兆円)の税収、380億ユーロ(約6.3兆円)の家計所得を支え、88万3,000人以上の雇用を生み出している。報告書は、将来的な原子力拡大が、これらの経済指標を大幅に押し上げる可能性を示している。
nucleareuropeのE. ブルティン事務局長は、「原子力は、欧州に根ざした数少ないネットゼロバリューチェーンの一つだ。投資によって経済成長と雇用創出を実現できるだけでなく、エネルギーセキュリティや脱炭素の目標達成にも貢献する」と述べ、欧州委員会(EC)に対して、原子力の長期的な政策的支援を求めた。
報告書は、原子力事業がもたらす直接的な影響に加え、関連産業への間接的な影響や、家計支出による誘発的な影響も含めて、全体的な経済効果を算出している。
欧州では、2050年までに脱炭素経済を実現するという政策目標が掲げられており、原子力はその達成手段の一つとして再評価されている。昨年、M. ドラギ氏(元イタリア首相)がECの要請を受けて作成した報告書「欧州の競争力戦略(A competitiveness strategy for Europe)」でも、エネルギーの競争力・安定供給・脱炭素の観点から原子力の役割が重視されている。