欧原子力産業協会 次期PINC策定に向け提言
16 Jun 2025
欧州の原子力産業協会であるnucleareuropeは5月29日、ポジションペーパー「#原子力2050 1億5,000万kW―目的に適った原子力実証プログラム(Nuclaer Illustrative Programme: PINC)をデザインする―」を公表した。欧州委員会(EC)が年末までに改定を予定する次期PINCに対し、nucleareuropeは、現在および将来の原子力プロジェクトを支援する財政、規制、政策面の枠組みを盛り込むよう要請。原子力が欧州におけるクリーンで持続可能、かつカーボンニュートラルな未来への移行に果たす、役割の重要性を改めて確認すべき、と勧告した。
PINCの改定は8年ぶりで、原子力分野における投資ニーズに関する評価が主な目的。脱炭素化の加速や「REPowerEU」、「クリーン産業ディール(CID)」といった政策目標に即し、EU全体の原子力開発動向と投資ニーズについて、事実に基づく最新かつ包括的な概要を示すもの。
nucleareuropeはまず、EUがロシア依存の低減や脱炭素化、産業競争力の強化といった課題に直面するなか、多くの加盟国が原子力分野への投資を検討している現状に言及。既存原子力発電所の運転期間延長や出力増強に加え、大型原子炉、小型モジュール炉(SMR)、原子燃料施設などの新たなプロジェクトが進行しているとした。また、原子力が大きな経済的利益を生み出すとともに、EU域内で90万人以上の直接・間接の雇用を創出。欧州の技術的優位性を象徴し、サプライチェーン全体にも恩恵をもたらしていると強調している。
加盟国が提出した国家エネルギー・気候計画(NECP)と各国政府の最近の発表によれば、EUの原子力発電設備容量は、現在の約1億kWから2050年までに1億4,300万kWに達する可能性がある。nucleareuropeは、次期PINCがこうした野心的な計画を反映すべきとし、特に、①原子力を検討する加盟国の増加、②運転期間延長の重要性、③新たな大規模プロジェクトや燃料サイクル施設、SMRの動向など、前回のPINC策定時とは大きく様変わりした、現況を十分にふまえた内容とする必要があると指摘した。
そのうえで、次期PINCでは、原子力開発の目標達成に向けて、原子力投資の支援・促進を図るため、以下のような具体的な政策措置を盛り込むよう勧告している。
- 原子力拡大に向けた安定した政策枠組み
- すべてのネットゼロ技術に対する公平な競争の場を提供
- 野心的なEU2040の枠組み
- 公的および民間ファイナンスへのアクセス
- 国家援助プロセスの合理化
- 公正な税制措置
- 強固な欧州の原子力サプライチェーンへの支援
- 供給多様化に向けた明確な枠組み
- 研究・人材育成・バリューチェーン・SMRに関する支援
さらに、2050年にEUの総電力需要が3.6兆kWh~6.8兆kWhに拡大すると予想されるなか、EUのエネルギーミックスにおける原子力の将来像を明確にするためにも、原子力による発電目標の数字もPINCに盛り込むべきとした。
nucleareuropeによると、2024年、原子力はEUの総発電電力量のほぼ4分の1を占め、低炭素電力の中で最大の供給源となった。現在、12の加盟国で計100基が運転中である。
こうしたなか、ECは6月13日、第8次PINCを公表。そのなかで、加盟国の原子力計画を実現するためには、既存の原子炉の運転期間延長と新たな大型原子炉の建設の両方に、2050年まで約2,410億ユーロ(約40兆円)の投資が必要と試算。さらに、SMR、先進型モジュール炉(AMR)、マイクロ原子炉、そして核融合にも追加投資が必要と評価した。
なお、PINCの「基本シナリオ」では、2050年時点でEUにおける大型原子炉の原子力発電設備容量は1億900万kWになると予測する一方、既存原子炉の運転期間が70~80年に延長され、計画中の新規炉が予定どおり完成した場合には、原子力設備容量は2050年に1億4,400万kWに達する可能性があるとしている。さらに、SMRの導入ついては、追加で1,700万kW~5,300万kWの範囲になると予測している。