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米DOE 試験炉プロジェクトを急ピッチで推進

20 Aug 2025

桜井久子

Ⓒ US DOE

米エネルギー省(DOE)は812日、先進炉の実用化に向けた「原子炉パイロットプログラム」の開始にあたり、11件の先進炉プロジェクトを有する10企業を選定した。DOE202674日までに少なくとも3基の試験炉を建設し、臨界達成を目指したい考えだ。

トランプ政権は、米国を再び原子力分野のリーダーとし、信頼性が高く、多様で、手頃な価格のエネルギー供給を確保して、米国の繁栄と技術革新を推進することに取り組んでいる。DOEは、今回の初期の企業選定が原子炉試験の合理化に向けた重要な一歩であり、商業ライセンス活動を迅速化する新たな道を切り開くものと位置付けている。

DOEのJ. ダンリー次官は、「選定されたプロジェクトはすべて、来年の独立記念日(202674日)までに安全に臨界を達成することを目指しており、DOEはその努力を全面的に支援していく」と語った。

DOEは20256月、大統領令「エネルギー省における原子炉試験の改革」を受けて、先進炉パイロットプログラムを発表DOE傘下の国立研究所以外でDOEの管理権限の下、先進炉設計の試験の加速と研究開発の促進を目的としており、商業的適合性のための原子炉の実証ではないと強調している。これまで原子炉試験への道筋は、米原子力規制委員会(NRC)の認可下、またはDOEを経由した、DOE所有サイトでの試験または実証であった。

今回選定された企業は、原子力法の下でDOEから認可を受けることで、民間資金を確保し、将来的なNRCからの商用ライセンス取得に向けた迅速なアプローチが可能になると予測されている

選定された企業・プロジェクトは以下のとおり(アルファベット順)。

Aalo Atomics: 1kWeのナトリウム冷却Aalo-1を開発。202412月、AaloDOEはアイダホ国立研究所(INL)に実験用原子炉の建設を発表

・Antares Nuclear: 500kWeのナトリウムヒートパイプ冷却R1マイクロ炉を開発。国防イノベーション・ユニットにより、国防総省 (DOD) の軍事施設向け先進原子力(ANPI)プログラムに選定。

Atomic Alchemy: 1.5kWtの軽水多用途同位体製造炉(VIPR)の開発を進めている放射性同位元素製造会社。2024年にOkloに買収され、子会社に。

Deep Fission: 1.5kWeDFBR-1PWR)を開発。地下1マイルに30インチのボーリング孔を通って建設予定。

Last Energy: 2kWePWR-20 を開発。テキサス州北西部のハスケル郡に30基のマイクロ炉を建設し、同州内のデータセンター顧客向けに電力供給する計画。

Natura Resources: 商業用および研究用熔融塩炉の両方の設計を開発。NRCから初の建設許可を受けた熔融塩炉Natura MSR-1(0.1万kWt)をアビリーン・クリスチャン大学に建設する計画。

Oklo: 7.5kWeの液体金属冷却、金属燃料高速炉であるオーロラ発電所を含む2つのプロジェクトが選定。初の発電所をINLで建設し、2027年後半から2028年初めの運開を見込む。

・Radiant Industries: 0.1万kWeのヘリウム冷却炉Kaleidos を開発。INLのマイクロ炉実験機の実証(DOME)テストベッドで原子炉試験を行う最初の企業1つ。

Terrestrial Energy: 19.5kWeの一体型溶融塩炉を開発。EnergySolutionsの閉鎖サイトへの建設で協力覚書を締結。

Valar Atomics: ヘリウム冷却、TRISO(3重被覆層・燃料粒子)燃料利用の高温ガス炉を開発。

各企業は、自らの試験炉の設計、製造、建設、運転、廃止措置に関わるすべての費用を負担する責任を負う。なお今回は初期選考であり、今後さらに多くの申請が審査、選定される可能性がある。

さらにDOEは7月、先進試験炉向けの燃料製造を加速するため、燃料製造ラインのパイロットプログラムを発表したが、8月4日、同プログラムの初対象となる企業として、スタンダード・ニュークリア社を選定した。

試験炉と同様、DOEが認可を予定している試験炉向けに、米企業が開発した燃料製造ラインをDOE傘下の国立研究所以外に建設、DOEが迅速な承認手続きによって認可する。原子力法の下でDOEが認可した燃料製造ライン設計は、将来のNRCによる商用ライセンス取得において迅速に処理される。申請者にとっては、DOEから認可を受けることで、民間資金の活用を促進し、将来的なNRCからのライセンス取得に向けた迅速なルートを確保、燃料製造ラインの商用化が可能になるというメリットがある。

テネシー州オークリッジに拠点のあるスタンダード・ニュークリア社は独自の原子炉開発事業を持たない国内唯一の独立系TRISO燃料製造事業者。TRISO燃料の需要は高まっており、DOEの認可プロセスを活用して、テネシー州とアイダホ州の両方で燃料供給を確保したい考えだ。同社は今回のプログラムへの選定を受け、実証済みのインフラを活用して、2026年半ばまでに複数のサイトで年間TRISOを年間2トン以上生産していく方針を示している。なお、施設の建設、運営、廃止措置に関連するすべての費用を同社が負担。先進炉開発者は、DOEのHALEU(高アッセイ低濃縮ウラン)割り当てプログラムを通じて燃料製造用の原料の調達を行うという。

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