原子力産業新聞

海外NEWS

【続報】英政府 ウィルヴァを英国初のSMR建設地に正式決定

14 Nov 2025

石井敬之

©Rolls-Royce SMR

英国で原子力発電所の新設計画を牽引する政府機関「Great British Energy – Nuclear(GBE-N)」は11月13日、北ウェールズのアングルシー島ウィルヴァを英国初の小型モジュール炉(SMR)の建設地として正式に選定したと発表した。本件は12日付の本紙既報(FT報道)を裏付けるもので、英国の次世代原子力政策が実行段階へ移行する大きな節目となる。

GBE-Nによれば、同プロジェクトは出力最大150万kWeの原子力発電所を送電網に接続し、ネットゼロ目標およびエネルギー安全保障の強化を狙う。建設ピーク時には約3,000人の雇用創出が見込まれ、政府はSMRプログラムに25億ポンド(約4,700億円)を投じて民間投資と国内サプライチェーンの強化を図るとしている。

GBE-NのS.ボウエン会長は声明で、「英国にとって歴史的な瞬間であり、原子力分野で世界をリードするという英国の潜在力を具現化する、もう一つの大きな一歩である」と述べ、ウィルヴァを中心とした“フリート(fleet)型”開発への移行が本格化すると強調した。

同日、ロールス・ロイスSMR社もウィルヴァに自社設計SMR(PWR、47万kWe)×3基を建設する計画を正式に発表した。同社のC.チョラトンCEOは、「英国初のSMRフリート計画として、ウィルヴァに3基を建設できることは光栄である。今回の決定は、ウィルヴァにおける100年規模のクリーンエネルギー、技術革新、地域連携の始まりだ」と述べ、長期的な地域投資への強い意欲を示した。

同氏は、SMRはモジュール化が進み工場生産方式が確立していることから、現地工事の負荷を最小化し、地域への影響を抑えた導入が可能になると説明した。ウィルヴァ・プロジェクトでは、関連産業を含め英国全体で年間平均約8,000人規模の高レベルの雇用を支える見込みとしている。このフリート構想は海外展開も見据えており、最初の輸出先としてチェコ(Czechia)が挙げられている。

エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のE. ミリバンド大臣は、「この歴史的投資は、英国がいまなお息の長い大規模プロジェクトを実行する力を持つことを証明した。北ウェールズの若者に新たな機会が生まれ、英国全体の家庭にクリーンな電力を供給することになる」と述べるとともに、SMRを英全土に展開する政府方針を改めて示した。

ウィルヴァはマグノックス炉を採用した旧原子力発電所の閉鎖(2015年)以降、日立製作所によるリプレース計画が2019年に中止され、以降長らく停滞していた。今回の正式決定により、同地域は再び英国の原子力拠点として再生する見通しが開けた。英国では大型炉建設プロジェクトとしてヒンクリーポイントC(EPR-1750、172万kWe×2基)の建設が進み、サイズウェルC(EPR-1750、172万kWe×2基)の資金手当てのメドがつきつつある中、SMRはフリート展開を前提にした次世代戦略の要として位置づけられている。

英国政府およびGBE-Nは今後、地域コミュニティとの対話を継続し、透明性の確保と社会的受容性の向上に努めるとしている。今回の正式決定は、英国がSMR導入を軸に“新たな原子力フリート時代”へ踏み出した象徴的な動きといえる。金融・政策面での評価については、本紙既報にてハントン・アンドリュース・カース法律事務所のG.ボロバス氏のコメントを紹介している。

Great British Energy – Nuclear(GBE-N)は、英国「エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)」のアームズ・レングス機関[1]政府方針の下で業務を行うが、専門的判断について一定の独立性を持つ公的実行機関のことであり、2023年に設立した「Great British Nuclear(GBN)」が前身。DESNZの後援を受け、英国の次世代原子力政策を実務面で支える中核組織となっている。

脚注

脚注
1 政府方針の下で業務を行うが、専門的判断について一定の独立性を持つ公的実行機関のこと

cooperation