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NEA「原子力エネルギー見通し」を発表 3倍達成は「変革シナリオ」のみ

07 Jul 2026

鈴木 杏奈

©OECD 2026

経済協力開発機構(OECD)の原子力機関(NEA)は6月3日、「原子力エネルギー見通し:2050年以降の世界の設備容量」(Nuclear Energy Outlook: Global Installed Capacity to 2050 and Beyond)を発表した。本報告書は、世界の原子力プロジェクトの動向を俯瞰したうえで、既設炉の長期運転(LTO)、大型炉の新設、小型モジュール炉 (SMR) の導入の現状と見通しを整理するとともに、2050年までの世界の原子力発電設備容量の拡大可能性を4つのシナリオで分析している。

報告書は、ロシアによるウクライナ侵攻以降のエネルギー安全保障への関心の高まりや各国の脱炭素政策、電化やデジタル化に伴う電力需要増を背景に、原子力が再び各国のエネルギー・産業政策の中心に位置づけられつつあると指摘。加えて、AIやクラウドサービスの普及を背景に拡大するデータセンターなどの新たな産業需要家が、安定的な低炭素電源・熱源として原子力に関心を強めていることも、今後の市場環境を左右する要因の一つとして挙げた。

報告書で示された主なポイントは、以下のとおり。

2050年の原子力発電設備容量を4シナリオで分析

世界の原子力発電設備容量は現在約4億kWeで、このうち約78%をOECD加盟国が占める。報告書は2050年までの設備容量について、低位シナリオ(Low Scenario)で3.47億kWe、現状推移シナリオ(Current Trends Scenario)で6.19億kWe、野心的シナリオ(Ambitious Scenario)で8.83億kWe、変革シナリオ(Transformative Scenario)で13.24億kWeに達すると試算した。COP28で表明された「原子力3倍化」目標1を上回るのは、4つのうち変革シナリオのみとしている。

変革シナリオでは、米国の「2050年までに原子力発電設備容量を現在の規模から4倍化する」目標や、インドの「2047年までに1億kWeを導入する」との目標を織り込んだうえで、既設炉のLTOや大型炉の建設加速、SMRの大規模展開を前提としている。一方で、このシナリオを実現するには、これまでの実績を大きく上回る導入ペースが必要になるとも指摘。特に、OECD諸国では、プロジェクト遂行能力や産業基盤、資金調達のいずれにおいても、大幅な能力向上が求められると強調した。

既設炉の長期運転が2040年見通しの鍵

報告書によると、OECD諸国では2040年までの運転期間延長認可を取得していない原子力プラントが5,000万kWeを超える。1970~80年代に建設された既設炉が多く、今後のLTOの判断が、世界の原子力発電設備容量の将来見通しを左右すると分析した。また、運転期間を60年、さらには80年まで延長できれば、安定した低炭素電源を維持しながらエネルギー安全保障の強化につながるほか、大規模な代替電源を短期間で確保する必要も回避できると指摘。さらに、多くの炉型では設備改修や保守により技術的な大きな支障なく長期運転が可能であり、LTOは利用可能なクリーン電源の中で最も低コストな電力供給手段だとしている。

新設の重心は非OECD諸国へ移行

2025年時点で、建設中・計画中・提案中の新規原子力プロジェクトは計3.13億kWeに達し、その55%を非OECD諸国が占める。このうち、建設中の約7,000万kWeでは約80%が非OECD諸国に集中しており、中国だけで3,300万kWe超を占めている。一方、提案段階や将来見込みの案件ではOECD諸国の比率が高く、欧州や北米では近年、政策転換を背景に新規計画が相次いでいる。ただし、こうした計画を実際の建設・運転開始へ着実に結びつけられるかが今後の焦点になるとした。

SMR導入拡大には量産体制などが課題

報告書ではまた、SMRも4つのシナリオすべてで検討対象としているが、低位シナリオでは実証案件による限定的な導入にとどまる一方、変革シナリオでは、2050年までに世界のSMR設備容量が1.5億kWe超に達する可能性があると試算した。ただし、その実現には大量生産の確立や規制の標準化、需要の集約などが前提となり、こうした条件が十分に整うのは2040年代以降となる公算が大きいことから、2050年までのSMR導入にはなお一定の制約があるとみている。

OECD諸国はサプライチェーンと人材基盤の早急な強化が急務

また報告書は、OECD諸国では過去25年間に新規建設が低迷したことで、サプライチェーンや人材基盤が弱体化し、今後の原子力導入拡大の制約になっていると分析。変革シナリオでは2030年代半ば以降、同時建設中の原子力発電設備容量が最大3億kWeと、OECD諸国の過去最高水準の約2倍に達すると見込んでいる。また、導入拡大には、志を同じくする国との協力や産業界の連携強化に加え、プロジェクトごとの建設から複数案件を計画的に進める「プログラム方式」への転換が必要と指摘。標準化や経験の蓄積による建設コスト低減につながるとしている。

資金面では、OECD諸国の新規原子力向け年間投資額が、過去10年間の平均約120億ドルから、野心的シナリオでは年平均680億ドル、変革シナリオでは年平均1,430億ドルへ拡大し、2030年代には年間2,000億ドルに達する可能性があると試算。世界的な導入目標の達成には、政策公約を実行可能なプロジェクトへ落とし込み、サプライチェーンの強化や資金確保、大規模かつ迅速な原子力導入を可能とする事業実施体制の構築が不可欠だと結論づけている。


  1. 2050年までに世界の原子力発電設備容量を現在の規模から3倍に拡大する目標 ↩︎

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