原子力産業新聞

風の音を聴く

2023年の世界は2024年で動く

19 Jan 2023

2024(令和6)年は1月の台湾総統選挙で幕を開ける。

ちょっと、ちょっと、2023年が明けたばかりでしょ、と言われそうだ。でも、やっぱり2024年から説き起こしたい誘惑にかられる。

台湾に続いて2月14日はインドネシア、翌3月はロシアとウクライナ、11月5日は米国。これほど大統領選挙が相次いで予定され、しかもホットスポットばかりというのも滅多にないことだ。

かくて2023年の国際情勢は2024年の影響の下で動いて行くし、行かざるを得ないと思うのである。

実際、どこも24年の選挙戦が事実上始まっている。

皮切りとなる台湾は昨年11月の統一地方選で与党・民進党が大敗し、党主席を辞任した蔡英文総統に替わって後任となった頼清徳副総統が同党総統候補にもなる公算だ。2期目の蔡英文氏は退場する。

地方選と総統選は争点が違うとはいえ、民進党は総統選楽勝のシナリオを狂わせた地方選のダメージを払拭し復活出来るか、正念場だ。

一方の国民党も本来なら地方選を勝利させた朱立倫主席が候補になるのが筋だが、不人気ゆえに地方市長らの名が上がっており、勝利の方程式には遠い。さらに毎度のことながら中国の出方も帰趨を握る。過去、親中派総統誕生へと台湾海峡に軍艦を派遣し脅したり、香港の一国二制度を踏みにじったり、結果は「敵」に塩を送ってしまった。独裁体制を固め3期目に入った習近平政権はまたもや愚行を犯すのか、まずは3月5日から開催の全国人民代表大会(全人代)が注目される。

ジョコ大統領の3選がないインドネシアでも、昨年8月にプラボウォ国防相が立候補一番乗り、3度目の挑戦だ。同国防相に、ガンジャル中部ジャワ州知事とアニス前ジャカルタ特別州知事を加えた3人が、目下各種世論調査で上位を争う。また大統領選のキーパーソンの1人、元大統領で闘争民主党党首のメガワティ氏が誰も推さないのは娘を立候補させたいからだとの憶測も流れるなど、同国は早くも「政治の季節」だ。

インドネシアは今年が東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国でもある。昨年は20か国・地域首脳会議(G20サミット)議長を成功裏に終え、国際的評価が上昇中のジョコ氏としてはASEANの足枷であるミャンマー問題を打開し、大統領最後の1年はレガシー作りに励みたい。

そのミャンマーは2月1日がクーデター2周年。軍事政権が約束した総選挙の実施期限は8月だが、実施にはASEAN内でも賛否が分かれる。ミャンマー軍政に理解を示すタイのプラユット軍事政権は自らも5月に総選挙を予定、対抗馬にはタクシン元首相の次女が名乗りを上げ、積年の軍 vs. タクシン対立が再燃しないとは言えない。

ASEANの分裂回避に議長ジョコ氏の手腕が問われる。この他、日ASEAN友好協力50周年と日イ国交樹立65周年もあり、2023年は日本とASEAN関係にも目が離せない。

以上にもまして風雲急を告げるのがロシアとウクライナである。ロシアが2020年に憲法を改正し、プーチン大統領の続投を可能にしたため、交戦中の仇敵が揃って大統領選に臨むことになった。

しかしそもそも大統領選は本当に行われるのか、その場合候補はプーチン、ゼレンスキー両氏か、言い換えると両氏は2023年中も健在か。これらの問いに現時点で100%のイエスはなさそうに思う。

だからこそ2023年の戦況がカギを握る。再選を勝ち取るには両氏とも戦場で勝たねばならない。それが無理なら、負けることだけは避けたい。戦争の出口はあるだろうか。ウクライナ戦争の長期化が懸念される所以である。

そして11月5日の米大統領選こそ、自国はもとより台湾、ウクライナ、ロシア、中国など世界の命運を左右する。共和党はトランプ前大統領が既に立候補を表明したが、かつての勢いはなく、フロリダ州知事らが俎上に乗る。民主党はバイデン大統領の去就待ちだ。

とは言えこの1年は次期大統領レースを背景に、議事堂乱入事件や保守強硬派の抵抗で15回の投票の末に下院議長がようやく決まった異常事態続きの議会が機能するのか、壊れかけたアメリカ民主主義の動向が焦点となりそうだ。

こうして2023年は陰の主役に2024年を置いて始まった。

千野境子Keiko Chino

Profile
産経新聞 客員論説委員
神奈川県横浜市出身。早稲田大学第一文学部卒業後、産経新聞社入社。マニラ特派員、ニューヨーク支局長、外信部長、シンガポール支局長、論説委員長などを歴任。最新刊は「江戸のジャーナリスト 葛飾北斎」。

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