

ジャーナリストとして国際報道の最前線を、時に優しく、時に厳しく、歩み続ける筆者によるコラム。──凛と吹く風のように。
08 Jan 2026
2026年はトランプ旋風が吹き荒れた昨年にもまして、波乱のスタートとなった。1月3日(現地時間)、米国は戦闘機や無人機で南米ベネズエラを攻撃し、ニコラス・マドゥロ大統領夫妻を拘束連行した。筆者にはまるでデジャブだ。麻薬問題から対米対立を深めていた中米パナマの最高実力者マヌエル・ノリエガ将軍に単独会見した1か月あまり後の1989年12月、米軍はパナマに侵攻。逮捕連行されたノリエガ氏は、その後の人生の大半を米刑務所で送った後に病気と高齢を理由にパナマに戻され、亡くなった。会見の最後に「パナマと将軍の今後はどのように?」と尋ねると、「国家は永遠に不滅である。私については『神のみぞ知る』とさせて頂く」と運命を覚悟していたかのようだった。今、マドゥロ氏の脳裏を過るものは何だろう。独裁者連行の報に多くのベネズエラ市民が街頭に飛び出し、歓喜したのもパナマと同じだ。不正選挙で大統領の椅子に居座り続けたマドゥロ氏には、そもそも統治者の資格はなかった。しかしデュープロセスを無視したばかりか、ベネズエラの国家運営も石油権益も当面、米国が握ると公言するドナルド・トランプ大統領も、剥き出しの権力行使と米国益優先が過ぎて、大義がない。気に入らぬ相手は軍事力で排除し、自分の支配下に置くという点で、これではウクライナを侵略したロシアのウラジーミル・プーチン大統領と変わらぬことになる。トランプ大統領と電話会談し、「緊密な日米協力」で一致したばかりの高市早苗首相は、国際政治のリアルを実感したことだろう。ただここは持ち前の即決即行より熟慮断行の時。同志国と連携し、冷静に着々と政治日程を進めていく他ない。今月中旬、イタリアのジョルジャ・メローニ首相がVIPのトップを切って来日するのは、その意味でタイムリーだ。今年は日本とイタリアの外交関係樹立160周年の節目にあたる。大政奉還前年の1866(慶応2)年、日本は安政5か国条約の一環でイタリアとの修好通商条約を締結した。その160年後、いずれも初の女性宰相が両国を率いるとは、偶然以上の歴史の采配を感じるのは筆者だけだろうか。しかも2人には共通点が意外に多い。親の七光りとは無縁の叩き上げの政治家であること。政治信条も保守で共通すること。特にメローニ氏は若い頃にネオファシズムのイタリア社会運動や国民同盟に属し、「極右・国家主義者」のレッテルも貼られた。しかし2022年の首相就任後は移民排斥や反EUなど過激な主張を封印、経済問題などに手堅い手腕を発揮し、伊政界としては珍しい長期政権も視野に入っている。高市首相も自他共に認める保守派だが、今は思想信条より「強い経済」を政策の前面に押し出し、高い支持率を維持する。さらにフェミニズムやジェンダーに殊更肩入れしない点も似ている。また首相がコロコロ変わる政治的不安定さや、文化・芸術の伝統など、国柄に共通点の少なくないことも付け加えるべきだろう。首脳会談では二国間関係の強化はもちろん、日英伊3国で行う次期戦闘機の共同開発など安全保障問題が話し合われる予定だ。加えて筆者が望むのは、6月に仏エビアンで開かれるG7に向けて、高市・メローニ「同盟」への取り組みである。女性宰相が複数揃うのは半世紀を超えたG7史上でも初めてのことで、それ自体画期的だ。しかもG7は独裁・権威主義国の台頭で今、衰退か再興かの岐路にある。G7を牽引すべきトランプ氏が、中国の習近平国家主席やプーチン氏との二国間・個人外交に執心し、G7に無関心、時に否定的なことが大きい。トランプ氏は目下、4月の訪中成功に頭が一杯だ。歴代米大統領が注意深く排して来たのを知ってか知らずか、G2(米中)の用語を連発して習氏を喜ばせ、関税交渉もその術中に嵌った感がある。ウクライナ和平を巡ってもプーチン氏にあしらわれているように見える。そこで2人の出番である。トランプ氏との相性が良い点でも共通する2人には、トランプ氏を中ロへの傾斜から、G7へと引き戻す役割を期待したい。トランプ2.0が戦後国際秩序の破壊と再編を促していることは、ますます明らかになって来た。2人のG7「工作」が多少とも功を奏するようなら、高市氏の「世界の真ん中で咲き誇る」日本外交も、夢物語から現実へと一歩踏み出せるかもしれない。
20 Oct 2023
「中国の台頭」という国際社会では長らくの常套句に、赤信号が灯り始めたようだ。経済の減速、外資の逃避、消費意欲の減退、高齢化、そして突然の外相更迭など不可解な内政… 米中対立の緊張が続く中、中国が不確実性と不透明さを増している。いよいよ「インドの台頭」だとの声も聞こえる。果たしてインドは中国に取って代わるのだろうか。確かに今年、インドは人口で中国を追い抜き世界第1位となった。高齢化はまだまだ先の話だ。最近はインドおよびインド人、そしてインド系の活躍も目立つ。来年の米国大統領選挙の共和党候補者で今もっとも注目の人は、トランプ前大統領を除けば、インド系大富豪の実業家、候補者中最年少38歳のビベック・ラマスワミ氏だ。唯一の女性候補、トランプ前政権で国連大使を務めたニッキー・ヘイリー氏もインド系で、インド系の複数候補の出現は民主・共和党とも例がない。民主党もバイデン大統領とコンビの、カマラ・ハリス副大統領がインド系女性だ。また英国のリシ・スナク首相も同国宰相史上初のインド系である。実業界は政界の比ではない。IBM、グーグル、マイクロソフト、YouTube、スターバックス… のCEOは全員インド系が占める。そして彼、彼女らにもまして本家インドのナレンドラ・モディ首相の活躍を忘れるわけにゆかない。去る9月に行われた第18回20か国・地域首脳会合(G20ニューデリー・サミット)で議長を務めたモディ氏は、ウクライナ戦争とロシアの扱いをめぐって難航が予想された共同声明を会議初日にまとめ上げ各国を驚かせた。習近平・中国国家主席不在の中、グローバルサウスのリーダーはインドだと言わんばかり。ここで一転して、インドのドキュメンタリー映画「燃え上がる女性記者たち」の話に移りたい。元女性記者の筆者としては題名からして無視出来ない。9月半ばから公開上映中で、早速足を運んだところ、内容の重さや深刻さに比して、映画を一貫して貫く明るさ、前向きでパワフルなことに元気を貰い、図らずも映画界も「インドの台頭」ではないかと思った。もっとも「ボリウッド」(旧名がボンベイのムンバイ映画産業)の表現で知られるインドは、映画の製作本数や観客数では既に米国を凌駕し、世界一と言われる。私の理解が間違っていなければ娯楽性が強く、だから「燃え上がる女性記者たち」も深刻でありながら楽しめるのだろう。映画の舞台はネパールと国境を接し、世界文化遺産タージマハールのある北部ウッタル・プラデーシュ州。カースト制度の外側にある最下層、不可触民(ダリト)の女性たちが新聞「カバル・ラハリヤ(ニュースの波)」を立ち上げる。実話である。これだけでも新聞が衰退産業と化した日本ではオドロキだが、映画は同紙が紙媒体からSNSやYouTubeなどデジタルメディアへと新たな挑戦を始め、戸惑いながらも奮闘する女性記者たちの、無理解な夫や家庭をも巻き込んでの物語だ。描かれる差別や偏見、腐敗、暴力が半端ではない。しかし彼女らも半端ではない。へこたれない。住民からの訴えを無視する役所への取材で、何度たらい回しされても怒らず、粘る。愛嬌もあるし強靭、いい意味でしたたかだ。大手マスコミが黙殺する地元の小さな問題を掘り起こし、怯むことなく追及する。彼女たちの報道のお蔭で、電気が通った、トラブルが解決した等々、素直に喜ぶ人々。SNSやYouTubeに乗って新聞の評判も各地へと広がって行く。学識や記者教育は決して十分ではなさそうだが、大手マスコミが忘れがちなジャーナリズムの原点とジャーナリストの初心が、そこにはしっかりとある。差別や貧困はない方が良いに決まっている。しかしそれらが女性記者たちを燃え上がらせ、人間性を高めるという逆説もインドならではで、考えさせられる。冒頭に戻って、「中国の台頭」から「インドの台頭」に取って代わるかどうかは分からない。ただ、このような映画を作る自由な空間は、インドにあっても中国で葬られつつあるのは確かだろう。
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