原子力産業新聞

福島考

放射線の恐怖を煽り、遺伝子組み換え食品の恐怖を煽り、メディアはどこへいくのか?
単に市民の声、懸念を伝えるのではなく、科学的事実を読み込み、そうした懸念に応える建設的な提案も含めた情報、メッセージを発信すべきではないか?
報道の現場を知り尽くした筆者が、強く訴える。

「池上彰のニュースそうだったのか!!」はどこまで正しいの!?

16 Dec 2021

気候変動を防ぐ国際会議COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)の開催やガソリン代などの高騰で再生可能エネルギー問題を取り上げるテレビ番組が増えている。しかし、分かりやすさを強調するあまり、偏った内容が多い気がする。その最たる例が「池上彰のニュースそうだったのか!!」だ。たいていの視聴者は池上彰氏の解説なら、信じてしまうだろう。テレビ番組を検証するファクトチェックが必要だ。

その番組は11月13日に放映された。そのシナリオは「先進国の中でなぜ、日本の再生可能エネルギーは、世界に比べて遅れているか」という設定だ。ドイツの大地に広がる無数の風力プロペラ映像を見せながら、日本は温暖化対策に後ろ向きで、市民団体から不名誉な「化石賞」をもらったと解説し、化石賞がさも重要な意味をもつかのような内容も流した。蛇足ながら、化石賞は、メディア受けを狙った環境団体が恣意的な基準で決めた一種のプロパガンダであり、そこに科学的な意味合いはない。

同番組で池上彰氏は、太陽光発電などが日本で進まないのはなぜかと問い、その理由について、「日本では技術開発は進んでいたが、大量に導入しないから建設コストが下がらない」「農地につくろうとしても、農地法にひっかかる」「太陽光の導入で電気代が上がると国民の反発を招くので、先送りしてきた」「日本国民の環境意識は海外とちがう」といった事情を挙げた。

そういう説明で特に興味をそそったのは、「ドイツでは再生可能エネルギーを拡大してきた結果、電気代が2倍になった。しかし、ドイツの人たちは環境意識が高いので、温暖化対策になるならば、電気代が上がっても、払ってくれる人が多い」という解説だった。まるでドイツの人たちは地球を守るために犠牲的精神を発揮しているかのような解説には目を疑う。

日本は世界でトップクラスの太陽光発電大国

番組を見ていて、一番疑問(ミスリードと言い換えてもよい)を感じたのは、日本では太陽光発電が少しも進んでいないという誤ったメッセージを伝えたことだ。事実は全く逆である。日本はドイツよりも太陽光発電の導入容量は多い。

資源エネルギー庁によると、日本の太陽光発電導入容量は、中国、米国に次いで3位(2018年実績で5,600万kW)だ。ドイツは4位(同4,500万kW)、インドは5位と続く。この導入量は単純に導入容量を比較したものだ。いうまでもなく太陽光発電は広大な面積を必要とする。日本よりはるかに広い面積を誇る中国や米国で太陽光発電が多いのはある意味であたり前である。

そこで、国土面積あたりの太陽光設備容量を比べると、なんと日本は1位に躍り出る。2位はドイツで、英国、フランス、中国、インド、米国と続く。さらに平地面積(1平方km)あたりの設備容量で比べると、日本は426kWでダントツの1位(参照)。2位のドイツ(184kW)よりもはるかに多い。中国(24kW)や米国(10kW)よりも20~40倍も多いのだ。つまり、日本の平地は、他国に比べるとすでに太陽光発電パネルがひしめき合っている状態なのだ。これ以上増やせば、農地や宅地が狭くなり、国内の食料生産自給率を悪化させる要因にもなりうる。

国民に巨額の負担を強いる「固定価格買取制度」には触れず

こういう厳然たる事実があるにもかかわらず、番組の構成が「なぜ、日本の太陽光発電は増えないのか」というシナリオになるのか不思議である。全く視聴者を小バカにしたミスリードである。

すでによく知られているように、日本の太陽光発電がここまで急激に増えたのは、太陽光など再生可能エネルギーが生み出した電気を電力会社が20年間(産業用)にわたり、一定の固定価格で買い取る「固定価格買取制度」(FIT、2012年開始)のせいだ。事業者にとって確実に利益が出る価格で国民が太陽光電力を買い支えるわけだから、増えていくのは当然である。この買い支え額が「再エネ賦課金」だ。この再エネ賦課金は年々高くなり、2021年5月からは、1kWhあたり3.36円となり、2012年当初の15倍近くにもはね上がった。

電気料金の上昇は電気を大量に使う日本の産業競争力を低下させる。電気料金が跳ね上がったドイツでは産業向けの料金を下げる優遇措置を講じている。こういう事実こそ放映してほしいが、全く触れていない。

また、再エネ賦課金は、所得の低い人でも負担を強いられる。太陽光を導入する所得層はどちらかと言えば、高所得層なので、この固定価格買取制度は、低所得層から高所得層への所得移転ともいえる。国民全体で見ると、年間約2~4兆円ものお金が太陽光発電の買い支えに費やされているのだ。この太陽光発電の負の部分こそが、視聴者に知らせるべきポイントのはずだ。

太陽光の買い支え額はクーポンの比ではない

2兆円といえば、10万円を2000万人に配ることができる巨額だ。コロナ対策で5万円のクーポン券を配るのに約1000億円(10万円を100万人に配れる額)の事務的経費がかかると批判されているが、太陽光の買い支えはその20倍の2兆円である。2兆円あれば、コロナ禍で経済的に困った人たちをたちどころに解消できる額だ。

おそらく池上氏ほどの勉強家であれば、こういう制度の仕組みと問題点を熟知していたはずだ。なのに肝心な解説がなかったのは本当に残念である。

結局、あの番組を見て、多くの視聴者の心に残った印象は「環境意識の高いドイツ人は地球温暖化を防ぐために高い電気代を払ってまで太陽光発電などを進めている。これに対し、日本は遅れている」という、相変わらずのワンパターン思考だ。

つい最近、テレビ朝日の羽鳥慎一モーニングショーでも、ゲストコメンテーターが「デンマークの人々は風力発電などで電気代が高くなっても、それを受け入れている。私は電気代の負担が高いという実感はない」と話していた。ここでも西欧は進んでいて、日本は遅れているという図式が見られた。

日本の知識人の頭脳はいまも西欧の植民地支配状態

どうやら、新聞やテレビのメディアの頭の中には、いまなお「西欧が進んでいて、日本が遅れている」という明治以来の西欧信仰が脈々と生きているようだ。良き規範となるお手本は常に欧米諸国である。このことは、脱炭素や脱石炭、車の電動化(EV化)にもあてはまる。悲しいことに日本政府の頭脳までもが西欧の植民地と化している。北京五輪の外交的ボイコット問題を見ていても、欧米に従うかどうかが議論になっている。同じ西欧でも、さすが原子力大国のフランスだけは「スポーツを政治問題化してはいけない」とカッコよく一線を画している。全く同感である。

話はテレビ番組にもどる。SNSが普及したとはいえ、テレビ番組は世論に大きな影響を与える。テレビ番組の内容を科学と事実の観点から検証するサイトがぜひとも必要だ。「池上彰のニュースそうだったのか!!」の中身を検証するサイト「池上彰のニュースは、そうだったのか!!」を開設したい気持ちだ。

小島正美Masami Kojima

Profile
元毎日新聞社編集委員
1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道部で食や健康問題に取り組む。2018年6月末で退社し、2021年3月まで「食生活ジャーナリストの会」代表を務めた。近著「みんなで考えるトリチウム水問題~風評と誤解への解決策」(エネルギーフォーラム)。小島正美ブログ「FOODNEWS ONLINE

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