原子力産業新聞

メディアへの提言

  • 2024年11月18日

    リニア中央新幹線と原子力 同じ巨大プロジェクトでも何が違うのか?
    二〇二四年十一月十八日  東京と名古屋を四十分で結ぶリニア中央新幹線に関するニュースが最近になって増えてきた。ちょうど十月半ば、山梨のリニア実験線の体験試乗会に参加した。時速五〇〇kmを実感しながら、同じ巨大プロジェクトの原子力との「差」を考えてみた。 時速五〇〇kmを実感  私が体験乗車したのは十月十六日。JR東海がメディア関係者を招いて行った。現在、山梨県笛吹市から上野原市までの約43kmの路線が完成している。この実験線は東京~名古屋間の路線の一部であり、完成したあとはそのまま利用される。  ワクワク気分でさっそく乗ってみた。リニアは超電導磁石を用いた浮上走行だ。最初のうちはレール
  • 2024年10月10日

    EVの失速で浮上するエタノール ハイブリッド車の逆襲なるか
    二〇二四年十月十日  みなさんも日々のニュースでお気づきのように、電気自動車(EV)が失速し始めた。代わって人気なのが、エンジンと電気モーターで走るハイブリッド車だ。この流れを受けて、日本で大きな注目を集めそうなのが車の燃料としてのエタノール(アルコール)である。脱炭素の救世主とも呼ばれるエタノールは今後、日本のエネルギー事情をどう揺るがすのか?その未来像を描いてみた。 欧米でEVが失速  八月以降、EVの失速をうかがわせるニュースが後を絶たない。読売新聞は八月二十三日付で「米EV軌道修正」との見出しで米国の車大手フォードが「スポーツ用多目的車(SUV)タイプのEVの開発を中止した」と報
  • 2024年09月20日

    処理水放出から一年 新聞は「歴史の記録者」としての任に堪えられるか
    二〇二四年九月二十日  新聞の役割とは何だろうか。世の中で起きている数々の現象を伝えることが主な役割であることは間違いない。だが、もうひとつ重要な使命として、歴史的な記録資料を残すことが挙げられる。三十年前の日本がどんな状況だったかを知ろうとすると、やはり新聞が筆頭に上がるだろう。では、福島第一原発の処理水放出から一年経ったいまを記録する資料として、新聞はその任に堪えているだろうか。  処理水の放出から一年が経った八月下旬、どの新聞社も特集を組んだ。中国が日本産水産物の輸入を禁止したことによって、その後、日本の水産物がどうなったかは誰もが知りたい情報だろう。そして福島の漁業がどうなったかも
  • 2024年09月06日

    処理水放出から一年 奇しくも朝日と産経が 絶妙なコンビで中国批判
    二〇二四年九月六日  福島第一原発の処理水の海洋放出が始まって、一年がたった。大手新聞がどんな報道をしたかを読み比べしたところ、驚愕の事実を発見した。なんと朝日、毎日、産経の各新聞が足並みを揃えたかのように、中国の日本産禁輸を批判する内容を載せた。特に朝日と産経が似た論調を載せたのは極めて異例だ。いったいどんな論調なのか。 最大の武器は「自己矛盾」を突くこと  だれかを批判するときに最も効果的な武器は、相手の言い分の「自己矛盾」を鋭く突くことである。相手に「痛いところを突かれた。勘弁してくれ」と言わしめる急所を突く論法である。  では、処理水の自己矛盾とは何だろうか。  中国政府は処
  • 2024年08月21日

    読売新聞の〝一強時代〟は オールド左派リベラル層の衰退の兆しか!?
    二〇二四年八月二十一日 5紙は過去二十年で半減  ネットを見ていて、衝撃の数字に背筋が寒くなった。一般社団法人日本ABC協会によると、二〇二四年一月時点の全国紙の販売部数は多い順に以下のとおりだ(週刊現代「TV局の歴史」など参照)。 読売新聞=約六〇七万部(約一〇〇三万部) 朝日新聞=約三四九万部(約八三一万部)毎日新聞=約一五八万部(約三九八万部)日本経済新聞=約一三九万部(約三〇一万部)産経新聞=約八八万部(約二一一万部)5紙の合計=約一三四一万部(約二七四四万部)  カッコ内の数字は二〇〇三年当時の部数だ。どの新聞も危機的といってよいほどの減少ぶりである。どの新聞も、過去約20年
  • 2024年07月31日

    東京都のガソリン車新車販売禁止は、「ウケのよい正義」か「愚挙」か!?
    二〇二四年七月三十一日    東京都知事選挙は大した政策論争もなく、現職の小池百合子知事の勝利に終わった。残念ながら、新築住宅に太陽光パネルの設置を義務づける政策や、ガソリン車の新車販売禁止政策の是非はほとんど議論にならなかった。しかし、これらの政策は間違いなく近いうちに「負の側面」が露わになるはずだ。 築地市場の豊洲移転騒ぎは一体何だったのか?  小池知事は確かに人の心をつかむのがうまい。しかし、それが裏目に出ることもある。それを強く感じたのが二〇一七年に勃発した「築地市場の豊洲移転」だった。移転先の豊洲市場の地下水から基準を超える発がん性物質のベンゼンが検出された後、小池知事は「豊洲
  • 2024年06月10日

    脱炭素報道に見るCO2削減は、だれも抗えない「不可侵な目的」なのか
    二〇二四年六月十日   東京都が新築住宅に太陽光パネルの設置(二〇二五年四月から施行)を義務づける問題で五月二十八日、杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹ら四人が記者会見を行い、設置義務化の中止・撤回を求める請願書を知事に提出した。翌日のニュースでは夕刊フジを除き、記事にはなっていないが、この会見を聞いていて、メディアの盲点に気づいた。それは何か。 中国のジェノサイドに加担か?  この問題での会見は二〇二二年十二月に次いで二回目だ。今回は杉山氏のほか、経済安全保障アナリストの平井宏治氏、「全国再エネ問題連絡会」共同代表の山口雅之氏、上田令子・東京都議会議員の四人が会見に臨んだ。
  • 2024年05月17日

    石炭火力報道
    日本の産業を守ろうとしないメディア
    二〇二四年五月十七日   温室効果ガスの今後の削減対策などをめぐって、イタリア・トリノで開かれた先進7か国(G7)気候・エネルギー・環境相会合が四月三十日に閉幕した。その報道を各紙で比較したところ、やはり読売・産経と朝日・毎日・東京(もしくは共同通信)ではニュアンスがかなり異なり、気をつけて読まないとだまされてしまうことが分かった。 見出しからは「石炭火力廃止」?  G7で何が決まったかを報じた5月1日付新聞の見出しを見比べてほしい(写真1)。右から順に毎日、朝日、読売、産経、東京(共同通信)の見出しだ。石炭火力を廃止する年限に関して、「30年代前半廃止」と「35年までに廃止」と分かれた
  • 2024年04月22日

    原子力発電所の〝耐震安全性〟報道に 第三者的なファクトチェックを!
    二〇二四年四月二十二日   「原子力発電所の耐震性は民間住宅よりも劣る」。こんなまことしやかな言論がいまも聞こえてくる。このことを記事にする記者も後を絶たない。能登半島地震をきっかけに、ようやく電気事業連合会が「Enelog」(vol.63)で解説したが、やはり誤解に満ちたニュースに対しては、第三者的なファクトチェックの重要性を改めて痛感する。 樋口氏はいまもメディアで人気  今年一月、「小島さん、原子力発電所の耐震性は民間住宅よりも劣ることを知っていますか」。旧知の食品科学者が驚いた様子でこんなことを尋ねてきた。ニュースで見たという。情報源を聞くと、二〇一四年に関西電力大飯原発の運転差
  • 2024年03月25日

    福島の山菜は本当に危ないのか? 基準値の意味を正しく伝えたい
    二〇二四年三月二十五日   福島県内で採れる山菜を食べたら、本当に危ないのだろうか。毎日新聞が三月十二日付け朝刊で「『山菜の女王』復活へ試行錯誤 福島・飯舘村セシウム減らせ」と題した記事を載せた。基準値の意味を正確に伝えていないため、あたかも山菜を食べたら健康に影響があるかのような印象を与える、ミスリーディングな内容だ。では、記事のどこがおかしいのだろうか。 コシアブラは依然として一〇八五ベクレル  記事を見てまず引っかかったのは、小見出しの「依然基準値の10倍」(写真1)だった。記事の骨子はこうだ。飯舘村が測定した山菜(ワラビ、ウド、フキなど)の放射性セシウムの濃度(二〇一四年~二〇二
  • 2024年03月05日

    デジタル社会の進化に必要な「莫大な電力」をどう賄うか 大いなる議論を!
    二〇二四年三月五日   「デジタル化 電力爆食い」。こんな大見出しの一面トップ記事が二月二十二日付け毎日新聞に載った。確かに今後、デジタル化社会がさらに進化すると、想像を絶する莫大な電力が要る。いったいどうやって莫大な電力を賄うのか。これこそが原子力の議論を深める絶好の機会ではないだろうか。 荒涼とした野原がIT企業の集積ビル群へ  毎日新聞(写真1)は記事の冒頭で千葉県北部にある印西市の千葉ニュータウン中央駅(北総線)周辺で進む異様な建築ラッシュを紹介している。窓のない大きな箱型ビル(写真2)が次々に建ち、ここだけはまるで別世界だ。住友商事グループのIT系企業であるSCSK株式会社、グ
  • 2024年02月13日

    能登半島地震と志賀原発報道 ファクトチェックはいかにあるべきか
    二〇二四年二月十三日   大手電力会社で構成される電気事業連合会のサイトを時々見ているが、一月二十四日のプレスリリース・お知らせに目が止まった。 その中身は、同日付け日本経済新聞5面(朝刊)に載った「電力供給、進まぬ分散 大手寡占で災害時にリスク」との記事に対する見解だった。その見解は、以下のような内容だ。 「本記事では、大手事業者があたかも一般送配電事業を寡占化し、送配電事業への新規参入を阻害しているかのような印象を与える見出しとなっているほか、能登半島地震により発生した停電長期化の原因が電力の供給網のもろさにあるかのような印象を与える内容になっていると考えております。<中略> 一般送

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