-
2020年09月25日
- 「脱石炭」は日本経済の破滅への入り口だ(下)
-
「みんなちがってみんないい」童謡詩人、金子みすゞ(1903-1930年)が作った「私と小鳥と鈴と」に出てくる有名な一節。いま脱石炭火力問題を考えるうえで大事なのは、この一節である。子育てや人材育成にかかわる人なら、だれしも「そうだ」「そうだ」とうなづくはずだ。国のエネルギー政策にも同じことが言えるはずだ。それぞれの国がそれぞれの地政学的な特徴や条件に応じて、それぞれ自国の利益にかなうエネルギーの組み合わせ(ベストミックス)を選択すればよいという考えに対して、おそらく大半の人は同意するだろう。フランス、ドイツ、英国、米国、中国、ロシアの6国のエネルギー政策を見みてみよう。どの国も自国の利益に従い
-
2020年09月02日
- 「脱石炭」は日本経済の破滅への入り口だ(上)
-
日本の石炭火力発電を取り巻く状況が厳しくなっている。その象徴的な出来事が昨年12月に日本が受賞した「化石賞」。新聞やテレビの報道では不名誉な賞とされたが、私は「名誉ある賞」だと強く言いたい。これは私の偏見だろうが、環境市民団体から賞賛されたら、むしろそのほうが危うい状況だと思っている。「エネルギー自給率が極めて低く、資源もない日本にとって、石炭火力は絶対に必要だ」との独自の戦略、姿勢を日本国民だけでなく、海外にも向けて訴えていくべきだろう。なぜ中国を批判しないのか不思議なぜ、こんな世論を逆なでするようなことを言うかといえば、長く毎日新聞の記者として取材してきた経験からの直感(皮膚感覚)だ。遺伝
-
2020年05月18日
- コロナ報道に見る「見える死」と「見えない死」
-
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大の勢いがようやく収まってきたようにみえる。これまでの報道(以下、略してコロナ報道)を見ていて、死が「平等」に報道されていないことに気づく。ある特定の死だけに過大な関心を向け過ぎると、知らぬ間に他の死亡リスクが増えていることもありうる。新型コロナウイルスによる死亡数は他の死亡リスクと比べて、どれくらい多いのだろうか。「子宮頸がん」の死亡者は新型コロナウイルスより多い若い女性で増加傾向にある「子宮頸がん」はウイルス(ヒトパピローマウイルス)感染で起きる。新型コロナウイルスとは異なるウイルスとはいえ、ウイルスによる感染という点では同じだ。その子宮頸が
-
2020年04月06日
- 日本の新聞は科学的な分析よりも政権批判が優先か!
-
新型コロナウイルスによる感染が国内外で深刻を極めている。この感染問題に対する日本の新聞報道をどう評価したらよいか、あれこれ考えているうちに、ひとつの重大な特徴に気付いた。科学的なリスクを的確に伝えることよりも、安倍政権への批判が優先している点だ。いわば科学と政治の混同だ。いったいどういうことか。安倍首相を「科学軽視」と批判ここでの考察は日頃、安倍政権に批判的なスタンスを貫く毎日新聞と朝日新聞を対象とする。私がまず驚いたのは、安倍首相が2月27日、全国の小中高校の一斉休校を要請したことに対する毎日新聞社の論調だ。毎日新聞社は3月10日付けの社説で「首相は科学的分析尊重を」の見出しで科学的分析とい
-
2019年12月26日
- 危うい「市民ジャーナリズム」 ─ 根拠なき情報に対抗する第三の「プロフェショナル・ジャーナリズム」が必要
-
ネットの発達で市民が自由にいろいろな意見やニュースを発信する「市民ジャーナリズム」が活発になってきた。しかし、そこには第三者の査読や校閲の機能はほとんど見られない。そういう危うい市民ジャーナリズムに対抗する第三の「プロフェショナル・ジャーナリズム」が必要なときに来ているのではないだろうか。2019年8月、山田正彦・元農水大臣や国会議員の福島瑞穂さんらが集まって、衆議院会館で記者会見が行われた。国会議員を含む29人のうち19人の髪の毛から除草剤のグリホサート(もしくはその代謝物)が検出されたという内容だった。検出された量は0.1 ppm(ppmは100万分の1の単位なので、1グラムの中に1000
-
2019年09月19日
- 農薬をめぐるバイアス記事の好例
-
除草剤グリホサートをめぐる恐るべき事態が勃発 ─ 科学者へ、決して他人事ではありません ─悪意に満ちたバイアス(偏った)記事がいまなお健在だという好例の記事を見つけた。知識層が最も好むとされる大手新聞(8月24日付)の朝刊記事だ。グリホサートという除草剤が発がん性や胎児への影響をもたらすと指摘する記事だが、先進国の公的機関は明確に否定している。こういう記事が続く限り、活字メディアはいよいよ専門家から見放されるだろうとの思いを強くする。記事の冒頭の前文は、記事全体の顔だ。まずは、記事の冒頭を以下に記す。──発がん性や胎児の脳への影響などが指摘され、国際的に問題になっている農薬が、日本では駐車場や
-
2019年07月19日
- メディア・ハラスメントの誕生 ─ 今後、メディアの信頼回復策はあるのか
-
いったいメディアはいま、どんな情報を市民に届ければ、信頼される存在になるのだろうか。新聞やテレビ、週刊誌などのメディアへの信頼性がますます低下する中でメディアの生き残り策はあるのだろうか。私は、読み手に「反論権」をあらかじめ与えるのが生き残り策のひとつだと考える。どういうことかを述べてみよう。一部週刊誌の非科学的言説最近の一部週刊誌の食品のリスクに関する記事を見ていると、もはや言論というよりも、非科学的な言説の一方的な垂れ流しであり、言論の自由の範疇に収まり切れない要素をもっているのではないかと感じることがある。「食べてはいけない国産食品の実名リスト」との派手な見出しで事業者と製品名を挙げて、
-
2019年04月25日
- SNS時代にふさわしいメディアチェックとは ― おかしな記事を評価して、世間に知らせる活動をもっとやろう
-
おかしな新聞記事やテレビニュースを見つけたときに、まずだれもが思いつくのが「訂正の要求」か「抗議文の送付」だろう。しかし、相手が完全に無視したら、どうすればよいのか。そのひとつが相手の評判を落とすアクションだ。どのメディアも世間の評判には弱い。そのやり方を私なりに考えてみる。私が共同代表を務めるメディアチェック団体「食品安全情報ネットワーク」(もう一人の代表は唐木英明・東大名誉教授)は、科学的な根拠がないか、あるいは乏しい記事を見つけたら、その媒体に訂正を求めたり、意見書を出したりする活動を続けている。学者や記者、企業の品質保証担当者、公的機関の研究者など約50人が集まったボランティア団体であ
-
2019年02月28日
- メディアへの訂正要求は多角度から試してみよう
-
おかしな記事やニュースを見たとき、だれに、どうやって訂正を求めればよいのか。また、どんな方法で抗議をしたらよいのか。日本のメディア(新聞やテレビなど)には残念ながら、欧米のメディアと異なり、反論を載せてくれるコーナーや番組が存在しない。では、どうすればよいか。狙ったメディア内で、できるだけ多くの人(記者も含め)に周知してもらう作戦がよい。その具体的なやり方を紹介しよう。七つのルート新聞社やテレビ局などに訂正を求める場合、限られたルートしかないようなイメージがあるが、実は案外と多い。思いつくだけでも、以下の七つの方法がある。記事を書いた記者本人に抗議し、訂正を求める。記者の直属の上司(多くは部長
-
2018年12月06日
- メディアの間違いにどう対処すればよいか ― 記事の弱点を突き、照準をしぼることが肝要
-
新聞やテレビをはじめメディアの“誤報”にたびたび苦杯をなめてきた体験をお持ちの方は多いはずだ。しかし、誤報と分かっても、たいていは文句も言えず、泣き寝入りで終わるケースがほとんどだろうと察する。では、どうすればよいか。果敢に訂正を求めるアクションを起こすしかない。ただアクションを起こすからには賢い方法を身に着けておくことが必要だ。どんな方法か?賢い方法のヒントは、日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が逮捕された事件にある。東京地検は金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕し、立件を進めている。犯罪を立件するなら、背任や横領のほうがニュース価値は高いが、なぜ、有価証券報告書の虚偽
-
2018年10月10日
- 科学者は市民意識でアクションを
-
なぜ、科学者は市民に負けるのか。これが前回コラムのテーマだった。今回は、では、どういう場合に科学者が市民に勝つ(科学者の意見が世間やメディアに伝わることを勝つと定義)のかを考えてみたい。具体的な例を示すのが一番よいだろう。東京の築地市場が豊洲に移転するかどうかをめぐって、当時の小池知事は「(豊洲に移転することは、科学的にみれば安全かもしれないが、安心が達成されていない」といったニュアンスの発言を繰り返していた。豊洲の地下水から発がん性物質のベンゼンが環境基準値を超えて検出されたため、新聞やテレビなどのメディアも、さも健康被害が生じるかのような論調を展開していた。しかし、その地下水は飲み水ではな
-
2018年07月30日
- なぜ、科学者は”市民”に負けるのか ― メディアと市民と科学者の力学について ―
-
なぜ、多数派の科学者の考えが市民にしっかりと伝わらないのか。これが、長く記者生活を送ってきた私の現在の疑問である。たとえば、牛の放射性セシウムの検査。農水省の調査によると、2013年以降、牛肉からは基準値の1キログラムあたり100ベクレルを超える例はない。もはや牛のセシウム問題は収束したといってよい。ところが、福島だけでなく、東日本の他県の牛まで延々と全頭検査が続いている。おそらく食品科学に詳しい専門家100人に聞けば、99人が「検査する根拠はない」と答えるはずだ。ところが、それを言い出す科学者はいないし、メディアもあまり伝えない。もし10人の科学者が農水省の記者クラブに飛び込み、「いつまで、