原子力産業新聞

福島考

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毎日新聞が異例の「太陽光発電の公害」を告発! ただ莫大な国民負担には触れず!

15 Jul 2021

脱炭素社会に向かう手段として太陽光発電が期待されている中、毎日新聞が6月28日付けの一面トップで「太陽光発電が『公害』 自然破壊・景観の悪化 37府県でトラブル」との大見出しで特集記事を載せた。記事は3面にも載る特集だった。私の知る限り、主要新聞の中で太陽光発電の自然破壊ぶりをここまで大きく取り上げた例はない。「ようやく目覚めたか」と遅きに失した感もあるが、問題を提起した意義は高い。ただし、太陽光発電を支えるために莫大な国民負担が強いられていること、そして太陽光発電が真に自立したエネルギー源になりうるのかという大事な視点は抜けていた。

トラブルは「土砂崩れ」「景観悪化」「自然破壊」

毎日新聞が伝えたのは各地で起きている太陽光発電の設置をめぐるトラブルだ。岡山県赤磐(あかいわ)市の山では、面積82ヘクタールにパネル32万枚が設置されたが、その後、山の斜面で土砂崩れが起き、地元の水田が土砂で埋まる被害が起きた。奈良県平群町では今年3月、住民約1,000人が「土砂災害の危険がある」として、太陽光発電の事業者を相手取り、事業の差し止めを求める集団訴訟を奈良地裁に起こした。森林の伐採で山は丸裸になり、土砂崩れが心配だという。事業者が当初の契約事業者と代わり、発電事業者の実態が分からないのも問題だとの地元住民の声も伝えている。

土砂崩れと太陽光発電といえば、ちょうど7月上旬に起きた静岡県熱海市の土砂崩れ災害を連想する。土砂が崩れた急斜面の起点のすぐ近くの山頂に太陽光パネルがずらりと並ぶ光景がテレビで何度も放映されたのを覚えている人もいるだろう。太陽光パネルの設置が今度の土砂崩れと関係があるかどうかは不明だが、緑の多い山頂に忽然と現れる太陽光パネルの醜い光景に驚いた人も多いはずだ。光をはね返す人工的な太陽光パネルの絨毯はどう見ても自然の光景になじまない。

毎日新聞が47都道府県にアンケートしたところ、8割が太陽光発電でトラブルをかかえていた。トラブルの中身は「土砂災害」が29府県で最も多く、次いで「景観の悪化」(28府県)、「自然破壊」(23府県)だった。

■太陽光発電は地域に雇用を生み出さない

太陽光発電の中でもメガソーラーといわれる大規模発電は広大な場所を必要とするため、山肌を削ることが多く、トラブルが多発していることが分かる。ここまでの記事の内容は、「言われてみればそうか」という想定内のトラブルだ。だが、毎日新聞は記事の後半でさらに踏み込んで「太陽光発電が設置されても、固定資産税以外の税収は見込めない。原発や火力発電所のように雇用を生み出すこともほとんどない。通常、発電した電気の売却先は大手の電力会社。そのため、非常時に地域独自の電源として用いることもできない」と書いている。

要するに、太陽光発電を地域に設置しても地方の経済振興に貢献する度合いは乏しく、発電の利益は外部の事業者にもっていかれる植民地型ビジネスモデルだという批判を展開した。これまで太陽光発電に関する記事の多くでは、地域分散型電源で地域の経済に役立つという理想論ばかりを聞かされてきたが、ようやく、ここまで踏み込んだ記事が出てきたわけだ。それだけ太陽光発電の公害が露わになってきた現実があるのだろう。

個人的な注文をつければ、「10年~20年後に巨大な量の太陽光パネルがごみとしてたまり、山野に放置される可能性が高い。その撤去で再び住民の貴重な税金が無駄に使われる恐れが高い」という事実も加えてほしかった。

■固定価格買取制度で今後10年間で40兆円の負担

このように高く評価する記事ではあるが、その一方で限界も見えた。

太陽光発電の実力がそもそもどれだけのものなのかに関する踏み込んだ解説がなかったことだ。記事(新聞の3ページ目)には、2012年7月から、太陽光の電気を固定価格で買い取る制度(FIT)がスタートし、これまでに買い取られた累積導入量が一目で分かる棒グラフ(風力やバイオマスも含む)も載っていた。グラフを載せたのはよいが、長期間にわたり、固定価格で買い取られてきた国民の莫大な負担(毎年約2~3兆円)については、全く触れていない。

仮に太陽光発電のせいで自然が少々破壊されても、その発電コストが他の電力に比べて、はるかに安ければ、自然破壊も我慢できようが、事実は全く逆だ。

太陽光や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーの普及を支えるために、私たち国民は莫大な金額を電気料金の上乗せとして負担している。これがよく知られる「再エネ賦課金」だ。その金額は導入当初の2012年は1kWhあたり0.22円だったが、2021年は3.36円と15にもはね上がった。家庭用太陽光発電の買取期間は10年だが、10kW以上の産業用太陽光発電は20年もの間、固定価格での買い取りが保証されている。外資系企業が参入しても、確実にもうかる仕組みなのだ。

電力中央研究所社会経済研究所の試算によると、2021年度の国民全体の負担額は約3.84兆円にもなる。負担は今後も増えていくため、2030年度は約4.57兆円の予想だ。

つまり、今後10年間だけでも40兆円近くが主に太陽光発電を支えるために国民の負担が続くわけだ。その負担は国内の事業者も背負っているため、電気を大量に使う産業界の競争力を弱くする要因にもなる。

自然を破壊し、しかも地域の経済振興に対して貢献度の低い太陽光発電の普及に、なぜ、40兆円もの負担を国民に強いる価値があるのか。その核心部分に関する解説が毎日新聞には一切ない。

ただ、Q&Aの解説(3面)で「(太陽光は)夜間や悪天候の時は発電できない。太陽光発電の出力が変動しても問題ないように一定量のバックアップ電源を用意しておく必要があります。結果として余ってしまうこともあるため、コストがかかります」とのミニ解説はあった。 

バックアップ電源が必要だという点はまさに太陽光発電の最大の弱みだが、肝心な点については、さらっと触れて終わりだ。そこを詳しく突っ込んでいくと、石炭などの火力発電所や原子力発電所の再稼働問題に踏み込まざるを得なくなる。反原発路線で記事を書いてきた毎日新聞の限界が、ここで露呈する。原子力発電所の再稼働は貴重なバックアップ電源になるはずなのに、そこには触れたがらない。結局、毎日新聞は太陽光発電の開発と環境保護の両立が必要だという極めて凡庸な論調で締めくくった。

■脱炭素は中国依存を深めていくリスクが高い

産業的に見ても、太陽光発電をめぐる国内の状況は厳しい。パナソニックは今年21日、マレーシアと島根県にあった工場を閉鎖させ、2021年度中に太陽電池(太陽光発電パネル)の生産から撤退することを公表した。これに象徴されるように、太陽電池生産の分野ではいまや中国系企業が世界の上位を独占している。日本で設置されるパネルの多くは中国製である。パネルだけならまだしも、中国系資本が福島県などにメガソーラーをつくるなど、太陽光の発電分野でも支配の度を強めていく。

車に目を転じると、日本が世界をリードしてきたガソリン車やハイブリッド車が目の敵にされている。代って今後、電気自動車が増えていけば、ここでもいち早く車の電動化を進めてきた中国系資本が米国とともに世界の市場を牛耳ることになるだろう。

一方、日本では石炭火力までが敵視され、日本の金融機関が次々に石炭火力への融資を止めようとしている。このままでは日本にとって、もっとも安定した電源といえる石炭火力もいずれ消えゆく運命にある。残念なことに、その間隙を縫って、中国が石炭火力を一手に請け負い、途上国の石炭火力建設で覇権を握る。

こういう緊迫した世界状況を見るにつけ、太陽光発電を主力電源と位置付ける日本のカーボンニュートラル政策が、いかに日本の基幹産業を破壊していくかが分かるはずだ。そういう未来の革新的な部分を掘り下げる記事にはまだほとんど出会っていない。今回の毎日新聞の記事の限界もそこにある。

太陽光発電も含め、自然エネルギーは所詮、自然を犠牲にして初めて成り立つ密度の薄いエネルギーである。ここ数年の自然災害を見ていると、太陽光発電というものはいくら蓄電池とセットで稼働しても、地震や台風、水害などに弱く、バックアップ電源が常に必要なことが明白になった。

かつて江戸時代から明治にかけて、木材という自然資源を伐採し過ぎて、あちこちの山が丸裸になった。その自然破壊を救ったのは石油や石炭、原子力発電などだ。似たような過ちが再び繰り返されようとしている。聞こえのよい自然エネルギーが日本のふるさとを破壊していく光景をこれ以上許してよいのだろうか。いまこそ原子力発電所の再稼働に関する議論をもっと起こすべきだろう。

小島正美Masami Kojima

Profile
元毎日新聞社編集委員
1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道部で食や健康問題に取り組む。2018年6月末で退社し、2021年3月まで「食生活ジャーナリストの会」代表を務めた。近著「みんなで考えるトリチウム水問題~風評と誤解への解決策」(エネルギーフォーラム)。小島正美ブログ「FOODNEWS ONLINE

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