原子力産業新聞

福島考

放射線の恐怖を煽り、遺伝子組み換え食品の恐怖を煽り、メディアはどこへいくのか?
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報道の現場を知り尽くした筆者が、強く訴える。

太陽光の発電コストをめぐる新聞各紙に
読者無視の「分断劇」を見た!

17 Aug 2021

太陽光と原子力の発電コストをめぐる7月と8月の新聞報道をご覧になっただろうか。新聞の世界が自然礼賛派と現実重視派に「分断」された模様が手に取るようにわかるドタバタ劇だったのではないか。記者たちは、国の思惑に沿った報道ではなく、もっと事実をしっかりと掘り下げてほしい。

写真1

「発電費最安は太陽光  2030年試算  原発優位崩れる」。7月13日の毎日新聞の1面トップの見出しだ(写真1)。そして2面では「政府  割高でも原発延命」の見出しで、これまでコストが安いと言われてきた原発神話が崩れたと解説した。

朝日新聞も一面で「発電コスト最安  原子力→太陽光  経産省試算」の見出しだった。原子力発電に理解のある読売新聞も経済面で「発電コスト『太陽光最安』  経産省試算  原子力を逆転」の見出しで経産省の試算を報じた。読売と同様に原子力発電に肯定的な産経新聞も1面で「発電コスト最安『太陽光』  原発は安全対策費増」と報じた。ただ産経は2面で「太陽光  安定供給に不安」との見出しで太陽光の問題点も指摘した。日本経済新聞も1面で「太陽光発電費  原発より安く」と報じたが、5面の記事では、太陽光発電を拡大するには送電網接続費などのコストがかかり、「主力電源へ壁厚く」との見出しで太陽光発電の課題も詳しく解説していた。

新聞を見るとき、読者はまず見出しで出来事の重要性を判断する。本文を批判的にじっくりと読み解く読者が少ないことを考えると、7月13日の新聞各紙の見出しは大半の読者に対して、「いよいよ原発優位の時代が終わり、太陽光発電が主役になる時代が来る」との印象を届けたと思う。

どの新聞も経産省の試算を素直に報じたといえば、それまでだが、雨の日や夜に発電できず、常にバックアップ電源を必要とする太陽光発電がそんなに安くなるはずはないと思っている私から見ると、実に不思議な報道ばかりだった。そこには、太陽光の発電コストが最も安いのだと、何が何でも言いたい経産省の思惑が透けて見えた。

案の定、4日後の7月17日、各紙は2030年の電源構成で「太陽光などの再生エネルギーが36~38%に拡大する」との政府のエネルギー基本計画の原案を報じた。これまでの計画では、太陽光などの再生可能エネルギーの比率は22~24%だった。これら一連の新聞報道の流れを追っていた読者は、太陽光発電のコストが最安なのであれば、再生可能エネルギーの比率を引き上げるのは当然だと思ったに違いない。

ここまでは、国の描いた筋書き通りの展開に見えた。

「太陽光コストは割高」の見出しに仰天

ところが、8月4日の新聞各紙を見て、目が回るほど仰天した(写真2)。

写真2

読売新聞の見出し(2面)は「太陽光コスト『割高』  30年時点 天候が左右  不安定」だった。太陽光のコストは1kWhあたり18.9円なのに対し、原子力は14.4円と明らかに原子力のほうが安いことを示す数字も載せた。7月13日の記事とは真逆の内容に面食らった読者もいただろう。

そして、産経新聞を見ると、読売新聞と同様に見出しは「太陽光、一転割高に  経産省  発電コスト再試算」だった。産経も統合的な発電コストとして、原子力14.4円、太陽光(事業用)18.9円という数字を載せていた。今回の数値は「バックアップ電源の費用も含めたより実態に近い統合的な発電コストを試算した」結果なのだという。統合的な発電コストとは、太陽光が休止しているときに応援に駆り出される他の電源コストなども含めたトータルのコストのことだ。

たった20日前の報道では「太陽光が最安」だったのに、一転、「太陽光は割高」という報道に対して、本当か!?と疑った読者もいたに違いない。そこへ、NHKも84日のニュース報道で「太陽光はコスト高に  経産省試算」と報じた。割高になる理由として、NHKは経産省の説明として「太陽光や風力は天候により発電量が大きく変動するため、出力を抑制したり、バックアップ用の火力発電を確保したりするコストが加わったためだ」と解説した。

3つの媒体が報じれば、どうやら本当らしいと分かる。読売新聞の記事をよく読むと、さらに驚くべきことが書かれていた。「今回の試算には、(太陽光の設置などで)山林などを造成する費用や再生可能エネルギーの増加に合わせた送電網の増強費などは含まれていない。実際には再生可能エネルギーのコストはさらに高くなる可能性もある(経産省幹部)という」。実際に運用が始まると太陽光が少しも安くないことがこれで分かる。

朝日、毎日は過去の記事との整合性を優先

一方、毎日新聞や朝日新聞はどう報じたのだろうか。これまたびっくり仰天だ。

毎日新聞は8月4日の記事でも依然として「太陽光8.2円最安  経産省2030年発電費用を試算」と報じた。記事では「この試算には送電網強化などの費用は含まれていない。実際の運用時のコストは試算よりも高くなる可能性がある」と書いているが、太陽光のコストとして、経産省が示した18.9円を隠したままだ。

朝日新聞も「発電コスト原発11.7円以上  国2030年試算  太陽光が下回る見通し」と報じ、原発よりも太陽光が優位だという論調を繰り返した。記事を読むと、「事業用太陽光は『18.9円』と原発より高くなるとの参考値も経産省は示した」との記述も出てくるが、あっさり触れて終わりだ。やはり「太陽光が最安」を伝えたいようだ。

過去に「太陽光が最安」と書いておいて、急に「太陽光が割高に」と書いては、過去との整合性が保てないのだろう。

東京新聞(共同通信の配信記事の可能性が強い)は「太陽光の発電費最安」との見出しを載せ、毎日新聞と同様の数字を示して、「太陽光が最も安い」との印象を与える記事を伝えた。

これらの論調を見て分かるように、もはや朝日、毎日、東京は何が何でも「原発のコストは優位性を失った」ということを主張したいことが分かる。それに対し、読売、産経は実際の運用では太陽光のコストはまだ高く、原発の優位は揺るがないという路線を肯定的に報じている。これがよく言われる新聞界の分断だ。朝日、毎日、東京新聞を読んでいる限り、太陽光は夢のような自然エネルギーであり続ける。

この例だけでも、1紙だけを読み続けるとバイアスに満ちた情報に洗脳されることがわかるだろう。朝日、毎日、東京に至っては「太陽光が地球を救う」という記者の思い込み社論が「正確な事実を読者に届ける」という目的を妨げていることも分かる。

最後に私の見方を伝えよう。太陽光発電が増えた先進国で、太陽光が増えるにつれてトータルの電気代が安くなったケースがはたしてあるだろうか。すでにNHKなどが伝えたように、太陽光の最大の欠点は天候に左右されるため、必要なときに必要な電気を生み出せないことだ。その足りない必要を満たすために、追加的に火力発電や原子力発電が応援に回らねばならない。

そうなると、太陽光が増えるほど、その不安定さに振り回されて、火力発電は稼働率を上げたり、下げたり、設備は消耗する。いったい何のための応援なのか。それなら最初から火力発電だけで済むはずだ。これが、太陽光と火力の二重投資によるコストアップの実態だ。太陽光や風力が増える国で電気代が高くなっていくのは理の当然である。記者たちは7月13日の時点で国の試算を素直に報じるだけでなく、太陽光がかかえる統合コストの問題について、もっと詳しく解説すべきだった。

小島正美Masami Kojima

Profile
元毎日新聞社編集委員
1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道部で食や健康問題に取り組む。2018年6月末で退社し、2021年3月まで「食生活ジャーナリストの会」代表を務めた。近著「みんなで考えるトリチウム水問題~風評と誤解への解決策」(エネルギーフォーラム)。小島正美ブログ「FOODNEWS ONLINE

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