原子力は「賛成か反対か」ではなく「必要かどうか」
二〇二五年六月二十七日
スマートフォンやパソコンの利用がますます深化していくAI(人工知能)社会は、裏からみれば、ものすごい量の電力を必要とする社会だ。では、その大量の電力をどうやってまかなうか。それを考えるうえでとても分かりやすい特集解説記事を見つけた。それを読むと「原子力に反対か賛成か」ではなく、「必要かどうか」を問うことの重要性がよく分かる。
須藤氏は「現実的な対応から原発は必要」
前回のコラムで、今夏の参議院議員選挙で国民民主党から立候補することになった須藤元気氏の転向(転身)を取りあげた。そこで書いたように、須藤氏は反ワクチンや反原子力を掲げていたが、今回の立候補にあたり、「自ら多くの声に耳を傾け、政策を見直し、再構築した結果、原発について、かつては否定的な立場でしたが、現在はエネルギー安全保障と現実的対応の観点から『安全性を確保した上での活用』は必要と考えています」と述べた。
この須藤氏の転向は、原子力を考えるうえで大きな意味をもつ。須藤氏はエネルギーの安全保障と現実的な対応から、原子力は必要だと考えるに至ったわけだ。世界の現実を熟慮した結果、原発は必要だと思うに至ったという態度は、賛成か反対かという二者択一的な思考とはやや異なる。
どこが異なるかと言えば、次のような考え方があるからだ。「理想を言えば、原発の新増設に反対だが、今の日本の地政学的な現状を考えると、しばらくは必要だと思う」。また「他の先進国で続々と原発が新たに増設される様子を見ていると、いずれ日本も原発をもっと必要とする時代がくるかもしれない。そういう意味で原発は現実的に必要だと思う」。
つまり、「心情的、理想論としては原発に反対だが、現実的に考えると必要性は認める」という立場がありうるのだ。
原発に関するアンケート調査では、いつも「賛成か反対か」を聞いているが、どういう状況で必要かどうかを聞くことのほうが、はるかに真意を聞き出すことができる。
原発反対が賛成を上回る
その好例が南日本新聞社の記事(二〇二五年五月五日デジタル)だ。同新聞社は鹿児島県民を対象に、九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)に新たに原発を建設することに関してアンケート調査をした。その結果、「反対」が二七・四%、「どちらかといえば反対」が二三・六%で、計五一・〇%が反対。逆に「賛成」は二四・九%、「どちらかといえば賛成」が一七・七%で、計四二・六%が賛成で、反対が賛成を上回ったと報じた。
すでに説明したように、反対でも必要性を認める場合はありうるし、「理想を言えば賛成だが、いまは必要性を感じない」という逆のケースもありうる。鹿児島県民の真の気持ちを聞き出すには、賛成か反対かという単純な聞き方ではなく、鹿児島県の置かれた状況の中で新たに原発を建設することの必要性を認めるかどうか、を問う必要がある。
九州電力が次世代革新炉
そうした中、九州電力が五月十九日、既存の原発よりも燃焼効率や安全性が高い次世代革新炉の開発や設置を検討すると発表した。建設地は示していないが、鹿児島県の川内原発の敷地内が有力とみられている。西山勝取締役は会見で「原子力は環境問題や料金面でも大事な電源だ。(原発建設を)検討していくのはエネルギー事業者として必要だ」と説明した(五月十九日読売新聞オンライン記事参照)。
この記事が出たあと、さっそく市民団体が鹿児島市の九州電力支店を訪れ、「福島第一原発事故の教訓を謙虚に受け止めれば、新たな原発の開発・設置の検討はありえない」と反対を申し入れた(五月二十三日南日本新聞デジタル)。この記事で南日本新聞社はご丁寧にも、関連記事として「川内原発増設に反対が五一%。理由は安全性に疑問が最多」へのリンクを貼った。
反対か賛成かという単純なアンケート結果だと、いつもこのような調子のワンパターン記事しか出てこないだろう。
ChatGPTはグーグル検索の約一〇倍の電力が必要
では、原子力が必要だと感じる状況は、どんなケースだろうか。それを考える上で丁度良い記事が電気事業連合会が発行している「Enelog」(エネログ)七〇号(二五年五月)に載った。特集のタイトルは「AI、データセンターと電力需要」。原発が必要だと感じる内容は主に二つある。
ひとつは、今後、AI利用にともなってますます増えていくデータセンターの電力を、どう確保するかという問題だ。同記事によると、いま大流行りのChatGPT(OpenAI社が開発した、大規模言語モデルを活用した対話型AI)に一回質問すると、グーグル検索の約一〇倍の電力が要るという。現在(二〇二四年時点)、日本には東京ドーム約三十個分のデータセンター(サーバー面積ベースで約一五〇万㎡)が存在するが、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の予測によると、二〇三四年度の電力需要は二四年度に比べ、最大で六一六万kW増加すると見込まれている。
データセンターの稼働には安定した大電力が必要
データセンターが安定して稼働するためには、いうまでもなく昼夜を問わず年間三百六十五日、安定した大量の電力がいる。その大事な役割を自然まかせの太陽光や風力が果たせるはずはない。
私の周囲には「太陽光発電をどんどん増やしていけば、原子力は必要ない」と思っている人が多いが、天候に左右される太陽光をいくら増やしたところで、データセンターに一年中、安定した大電力を供給することはできない。
では、どんな電力なら、救世主になれるのか。同記事によると、米国の金融サービス会社のS&Pグローバルが主催した二五年三月のエネルギー会議で「世界の原子力発電の設備容量を現状の三倍に増やす必要がある」との宣言が採択された。この会議にはアマゾン、メタ(旧フェイスブック)、グーグルなど巨大なIT会社が参加している。巨大IT企業から見ると、安定した大電力を供給できる原子力こそが頼りがいのある存在なのだ。
他の先進国は原子力を重視
こうしたAI社会の到来に備え、英国やイタリア、ベルギーなどの先進国は軒並み、原子力の活用に舵を切っている。スイスは二〇一八年に原子力の新設を禁止していたが、二四年八月、その禁止を撤廃する方針を示した。やはりAI社会が突きつける電力需要のインパクトは大きいと言わざるを得ない。
この「Enelog」の記事はネットで無料で読める[1]編集部注 同様の内容の記事は、「原子力産業新聞」にも豊富である。こうした解説記事を大手新聞やテレビが報じてくれるとよいが、原発推進と見られてしまうため、現状では期待できないだろう。
このような状況を知ると、どういうアンケートの設問がよいかのヒントが分かる。たとえば、「今後、日本ではデータセンターが増えていき、大量の電力が必要になります。こうした状況の中で、あなたは原子力の再稼働、新増設は必要だと思いますか」という設問なら、国民の現実的な気持ちが引き出せる。
これはあくまで私の推測だが、須藤元気氏はいまも心情的には反原発の気持ちを持っていることだろう。だが、今の日本の現実や世界の情勢を考えると「必要だ」と悟ったに違いない。
九州電力は次世代革新炉の開発、検討を発表したが、その際、次世代革新炉がなぜ、どういう目的で必要かをもっと具体的に言うべきだった。データセンターのように具体的な目的を挙げれば、新聞の見出しにもなるだろうし、読み手にもその必要性がしっかりと伝わるはずだ。今後の広報は、「なぜ必要か」を熱く語ることが必須である。
脚注
↑1 | 編集部注 同様の内容の記事は、「原子力産業新聞」にも豊富である |
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