新聞社の世論調査記事 どこまで信頼できるのか?
二〇二五年九月五日
「石破茂首相は辞める必要はない」。八月下旬、こんな見出しの記事が大手新聞を中心に目立ったが、これは本当に世論の反映なのだろうか?大手新聞社は定期的に政党の支持率調査結果を記事にしているが、媒体によって大きな差が出ることが多い。なぜ、媒体ごとに差が出るのか。新聞社の世論調査には「ゆがみ」(バイアス)があることを知っておきたい。
朝日新聞が一面トップで
石破首相推し!
ご存じのように自由民主党は、衆議院選挙(二四年秋)、東京都議選(二五年六月)、参議院選挙(二五年七月)の三つの選挙で大敗した。企業が三期連続で赤字を出せば、トップが経営責任を問われるように、自民党のトップである石破首相が責任を問われて当然だという空気がみなぎる中、八月十八日、朝日新聞が一面トップで「首相辞任『必要ない』54%に増」、「本社世論調査 内閣支持上昇36%」という大見出しの記事(写真参照)を報じた。
この見出しを見て、朝日新聞社はこの世論調査結果に小躍りし、痛くご満悦の様子だと直感した。その小躍りぶりは記事の文章の書き方に現れている。冒頭でいきなり「自民党内では参院選の大敗以降、石破首相に退陣を求める『石破おろし』の動きが続いている。こうした自民内の動きに『納得できない』との意見が49%と半数近くを占め、『納得できる』37%を上回った」と書いた。
この書き出しぶりを見ると、国民の半数を超える54%が「石破首相は辞める必要がない」と考えていることに対して、朝日新聞社は国民の気持ち以上に感激し、さらに「石破首相がんばれ」と朝日新聞の購読者にエールを送り返しているように思えた。その裏には、高市早苗氏(衆議院議員・元経済安全保障担当大臣)が次期首相になり、参政党などと手を結んだら大変なことになる、という思惑が透けてみえる。
有効回答がどれくらいあったかを見ることが大事
新聞社が実施する世論調査記事を読むときには、その世論調査が本当に国民の平均的な声を反映しているかどうかを疑う必要がある。つまり、調査対象となった人たちのうち、何人が答えたかを知る必要がある。残念ながら一面トップ記事には、この大事な点が書かれていない。三面を見たら、目立たない隅っこに調査方法が書かれていた。
「コンピューターで無作為に電話番号を作成し、八月十六、十七の両日に固定電話と携帯電話に調査員が電話をかけるRDD方式で行った。固定電話では有権者がいると判明した九百十七世帯のうち四百五十二人(回答率49%)、携帯は有権者につながった千八百七十二件のうち、七百五十九件(回答率41%)、合計で千二百十一人の有効回答を得た」という。
ランダム(無作為)に選んだのはよいが、回答率が50%以下なのがまず気にかかる。いったい、どんな人が回答を拒否し、どんな人が回答を進んで引き受けたのだろうか。これは想像するしかないが、もしあなたが調査対象に当たり、朝日新聞社から電話があった場合、どうするか。あなたが朝日新聞を好きなら進んで答え、大嫌いな場合は拒否する可能性があるのではないだろうか。朝日新聞が行う世論調査では多くの場合、自民党の支持率が低くなるケースが多い。これに対し、読売新聞や産経新聞が世論調査を行うと自民党の支持率が高くなるケースが多い。
つまり、新聞社の世論調査には「ゆがみ」が伴うことを常に警戒する必要がある。
読売新聞の
携帯電話の回答率は33%
朝日新聞の報道から一週間後、読売新聞は八月二十五日、一面二番手で「内閣支持急上昇39% 首相辞任を42% 思わぬ50%」と報じた。朝日新聞と同様の結果となったが、四面を見たら、「次の総裁 高市氏1位」「総裁前倒し『賛成』52%」の見出しが躍り、石破首相は早く辞めるべきだというニュアンスが伝わってきた。「石破首相辞任へ」という号外まで出した読売新聞としては、石破首相に早く退場してもらいたいのだろう。その意図が記事ににじみ出ている。
読売新聞も、調査方法に関する扱いは九面に小さく載っていた。固定電話では七百七十三世帯から四百六人(回答率55%)、携帯電話では千七百七十四人のうち五百八十五人(回答率33%)が回答したというが、携帯電話での回答率の33%は低すぎる。無作為に選んで三割しか回答がなければ、どこまで日本の有権者(母集団)の真の姿を反映しているのか疑問がわく。
毎日新聞は「辞任すべき」が上回る
一方、毎日新聞社は七月二十八日付け一面二番手で「内閣支持上昇29% 首相『辞任すべきだ』42%」と報じた。この記事では「首相は辞任すべきだ」(42%)が「辞任する必要はない」(33%)を上回った。七月下旬の時点ではまだ辞任すべきだという声のほうが強かった様子がうかがえる。
問題は調査方法である。毎日新聞の場合も、二面に小さく調査方法の解説が載っていた。それによると、全国約七千四百万人(18歳以上)の母集団から対象者を無作為に選び、調査への協力を依頼するメールを配信し、二千四十五人から有効回答を得たという。NTTドコモの協力を得たインターネット調査だが、無作為に選んだ人が何人で、そのうち何人が回答したかの数字は記されていない。これでは調査の信頼度は低い。
世論調査は
調査方法こそが肝
新聞社の世論調査で警戒すべきことは、その世論調査に応じた人たちはそもそも、母集団(日本国民)の代表的なサンプルといえるかどうかを見極めることである。世論調査は調査方法こそが肝なのだ。その調査方法をもっと大きく分かりやすく解説すべきなのに、その解説はいつも小さな扱いで目立たない。一面で世論調査を報じるなら、有効回答率を本文の中で解説するなど、統計的な検証に堪える科学的な記事にしてほしいものだ。
読売新聞はあくまで
「辞意」を強調
こういう「ゆがみ」は石破首相の動向をめぐる記事にも反映する。
七月下旬から八月上旬、首相官邸前に約二百~千二百人が集まり、「石破首相辞めるな」と石破首相を推すデモがたびたびあった。このデモはリベラル系の大手新聞(特に朝日、毎日、東京)やテレビを中心に幾度も報じられた。記事を読むと「(石破首相は)近年の自民党にはまれな言葉が通じる政治家だ」と石破首相を持ち上げる声もあり、「高市早苗氏と参政党が組んだら最悪の政治になる」といったデモ参加者の本音が読み取れる記事もあった。
興味深いのは、八月末になり、「石破首相は辞めろ」という逆のデモが起きたときだ。産経新聞(九月一日オンライン記事)によると、石破首相の退陣を求める「石破辞めろデモ」が八月三十一日、首相官邸前で行われ、四千人(主催者発表)が駆けつけたという。七月下旬に「石破辞めるな」デモが官邸前で行われたときは、最大でも約千二百人(主催者発表)だった。エッと思ったのは、四千人ものデモ隊が「石破首相は辞めろ」と糾弾しているのに、こちらはほとんどニュースになっていない。デモの規模で比べれば、「辞めろ」デモのほうが大規模なのに、報道は少ない。
自民党が九月二日に開いた両院議員総会で石破首相は、「地位に恋々とするものではない」などと述べたが、それに対し、朝日新聞は一面で「首相は続投姿勢」と報じ、読売新聞も「続投を表明」と報じたものの、同じ一面で「首相『辞める』明言」と書き、七月二十二日に石破首相が「日米交渉が合意に達した場合には記者会見を開いて辞意を表明する」と明言していたことを明かした。やはり朝日と読売の論調はかなり異なる。
どんなニュースも、そして世論調査も、媒体(新聞社やテレビ)のフィルター(社論、スタンス、好み)によって選別され、届くのは歪んだ情報だということを今一度知っておきたい。