原子力産業新聞

メディアへの直言

汚染土の行方にも影響する「あきたこまちR」問題 いまは関ヶ原の戦いなり!

二〇二三年十二月六日 

 今回も放射線育種米の「あきたこまちR」への反対運動にこだわる。この問題は福島第一原発事故後の除染で発生した汚染土の処理の行方にもからむ。「あきたこまちR」は科学的には全く問題がないのに、反対運動が起きている。ここでもし、このコメの普及が阻止されるような事態が起きれば、科学と政治の大敗北と言ってよいだろう。

記者経験から見て理解不能な反対

 単純なクイズを出そう。あなたは「発がん性物質のカドミウムがほとんど含まれていないコメ」と「カドミウムが多く含まれるコメ」のどちらを買いますか。

 なぜ、こんなバカげた質問を出すのかといぶかる人もいるだろう。だれだって、カドミウムの含有量がほぼゼロのコメを選ぶはずだからだ。ところが、驚くべきことにカドミウムの多いコメを「消費者の権利」として支持する反対運動が起きている。毎日新聞社で約45年間、記者稼業を続けていたが、この「あきたこまちR」に反対する運動は、これまでに経験したことがない理解不能、そして摩訶不思議な領域に属する。

 カドミウムは人の肝臓や腎臓などに蓄積する重金属である。国際がん研究機関(IARC)はヒトでの発がん性の証拠が十分にそろっているとするグループ1に分類している。体内への高い摂取量が長期間続けば、腎機能の低下など健康障害が生じるリスクもある。米国政府は、日本のコメはカドミウムとヒ素(発がん性物質)が多く含まれるため、乳幼児向けの摂取は制限するよう勧告しているほどだ。

 日本人はカドミウムの約四~五割をコメから摂取している。それだけに、土壌中のカドミウムをほとんど吸収しない新品種「あきたこまちR」は、日本人のカドミウム摂取量を減らす画期的な品種なのである。

カドミウムのリスクは意外に高い

 コメに含まれるカドミウムのリスクがどれくらいかを知れば、その画期的な点がさらにわかるはずだ。では、食品に含まれる残留農薬や食品添加物のリスクと比べてみよう。

 ある化学物質の摂取量が健康に影響するかどうかは、実際の摂取量が健康影響の指標となる一日摂取許容量(ADI)をどれだけ下回っているかどうかで判断する。厚生労働省や内閣府食品安全委員会のサイトを見ればわかるように、食品に含まれる残留農薬や食品添加物の平均的な摂取量は、一日摂取許容量の百分の一~千分の一以下というのが普通だ。摂取量が許容量の百分の一以下(車の速度制限で言えば、六〇キロ制限の道路を〇・六キロで走るようなもの)なら、だれだって安全だと分かる。

 では、カドミウムはどうか。カドミウムは意図して使う農薬や食品添加物と違い、許容量という言葉ではなく、耐容量という言葉を使うが、意味は同じだ。

 食品安全委員会によると、健康影響の目安となるカドミウムの週間摂取耐容量(耐容週間摂取量ともいう。一週間あたりの摂取量がこれ以下なら安全だとみなされる目安)は、体重一キロあたり七マイクログラム(マイクロは百万分の一の単位)である。これに対し、日本人が平均的に摂取している一週間あたりの摂取量は体重一キロあたり約二マイクログラムだ。摂取量(約二マイクログラム)が耐容量(七マイクログラム)を下回っているため、コメを食べても確かに安全だといえる(食品安全委員会のリスク評価サイト参照)。しかし、食品中の残留農薬の摂取量が許容量の百分の一~千分の一以下というリスクと比べると、カドミウムのリスクは耐容量の三分の一程度なので、相対的なリスクはかなり高いといえる。だからこそ欧米は基準値を低く設定している。

 このカドミウムのリスクを低くしてくれるのが「あきたこまちR」なのである。

EUの基準値を楽々クリア

 日本のコメのカドミウムの含有量が高いことは、カドミウムの基準値を決める国際会議でたびたび指摘されてきた。基準値の厳格化を求める欧米に対し、日本は肩身の狭い思いを味わってきたわけだ。現在、EU(欧州連合)のコメのカドミウムの基準値は〇・一五ppm(ppmは百万分の一の単位)だ。それに対し、日本は〇・四ppmと高い。日本がEU並みの〇・一五ppmを採用できないのは、それを受け入れると基準値を超えてしまうコメが出てくる可能性があるからだ。

 しかし、「あきたこまちR」なら、EUの基準値を確実にクリアできる。カドミウムの含有量が〇・〇一ppm以下だからだ。カドミウムがほぼゼロであれば、今後は海外に輸出する活路も見えてくる。ついでに言えば、水管理が楽になり、地球温暖化の原因のひとつにもなっているメタンの発生量も少なくなる。であれば、秋田県が二〇二五年度から「あきたこまちR」に切り替えるのは当然であり、日本国民にとっても大歓迎すべきことである。

アベプラでも俎上に

 このように、「あきたこまちR」を避ける理由は全く見当たらないが、今年九月、秋田県に約八〇〇〇筆の反対署名が届くなど反対運動が起きている。立憲民主党や社会民主党の一部国会議員も、東京の反対集会に顔を出し賛同している。日頃、食の安全を訴える国会議員がなぜ、カドミウムの高いコメを消費者に食べさせようとするのか理解に苦しむが、タイミングよく、この問題はインターネットテレビ局「ABEMA Prime」(アベプラ)で取り上げられ(十二月一日放送)、私はゲストとして出演した。

 コメンテーターとして、経済学者の竹中平蔵氏や福島原発問題で独自の情報を発信するお笑いタレントのカンニング竹山氏ら四人が議論に加わった。四人とも「あきたこまちR」の画期的な品種性に納得し、反対運動に疑問を呈した。竹中氏は「何に対しても反対する人たちはいるなあ」とあきれた様子だった。

 その番組で印象に残ったのは、カンニング竹山氏の「この問題は福島第一原発事故で発生した汚染土の再利用にも反対運動が起きて、行き場を失っているのと似ている」という内容の発言だった。確かにそうだと思う。

「NEWSポストセブン」は名指しで反対運動を批判

 いまのところ、メディアは「あきたこまちR」に批判的な姿勢を見せていない。小学館が運営するニュースサイトの「NEWSポストセブン」は日頃、食品添加物の危険性を煽る記事を載せているが、この「あきたこまちR」に関しては、極めて異例の記事を配信した。見出しは「カドミウム吸収を抑えた画期的なコメの新品種『あきたこまちR』 福島みずほ議員らの安全性への疑問は妥当なのか」(二〇二三年十一月二十七日・筆者はライターの清水典之氏)だった。国会議員を名指しして、反対運動に疑問を投げかける記事である。結びの内容はこうだった。

 「長年の技術の蓄積、研究の成果である画期的な新品種に、風評被害や差別につながるようなレッテル貼りをする行為は、慎みたいものである」。

 国家議員が風評被害に加担していると思わせる異例の記事である。やはりだれが見ても「あきたこまちR」は優等生なのである。

科学の名において一丸となれ!

 「NEWSポストセブン」にあるように、福島みずほ参議院議員は「消費者の権利を守りたい」とX(旧ツイッター)に投稿していた。確かに、「あきたこまちR」を食べたくない消費者もいるだろう。カドミウムの多い従来のコメを食べる権利も、権利には違いない。その選択は尊重したい。

 ならば、その権利を他の消費者や生産者にも認めるべきだろう。なぜ、「あきたこまちR」を食べたいと思う私のような消費者の権利を反対運動によって阻止しようとするのだろうか。左派リベラルの人たちは日頃、多様性が大事だと主張する。しかし、その多様な選択を壊そうとしているのはどちらなのか。

 気になるのは、秋田県内で「あきたこまちR」を栽培しようとする生産者に対しても、栽培をやめるよう抗議する運動があることだ。選択の権利は生産者の側にもあるはずだ。なぜ、外部の市民が生産者の栽培する権利を阻害するような圧力行為に出るのか。常軌を逸しているとしか思えない。ちなみに「あきたこまちR」の切り替えに反対する一部国会議員は福島の汚染土の再活用にも反対している。反対の根っこはいつも同じようだ。

 結論。仮に「あきたこまちR」の普及が反対運動で滞るような事態が起きれば、科学と政治の大敗北である。だれが見ても画期的な「あきたこまちR」が阻止されるようでは汚染土の受け入れに未来はない。いずれ他のコメの品種にもカドミウム吸収抑制の特性が広がっていくことを考えると、「あきたこまちR」は秋田県だけの問題ではない。全省庁、全自治体が科学の名にかけて、「あきたこまちR」を守りぬくことが必要だ。いまはまさに関ヶ原の戦い(天下分け目の戦い)である。

小島正美Masami Kojima
元毎日新聞社編集委員
1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道部で食や健康問題に取り組む。2018年6月末で退社し、2021年3月まで「食生活ジャーナリストの会」代表を務めた。近著「みんなで考えるトリチウム水問題~風評と誤解への解決策」(エネルギーフォーラム)。小島正美ブログ「FOOD NEWS ONLINE

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