いよいよ「原子燃料サイクル」が動き出す メリットと課題は何か?
二〇二六年二月二十七日
原子力発電所で使い終えた使用済み燃料を再処理して有効利用する「原子燃料サイクル」が26年度中にいよいよ動き出しそうだ。青森県の下北半島にある再処理工場など燃料サイクル施設はいまどうなっているのか。燃料サイクル施設を訪れる機会があり、そのメリットや課題を考えてみた。
約六千人が働く
巨大な産業基地
昨年12月上旬、下北半島の六ヶ所村(人口約九千六百人)にある原子燃料サイクル施設を訪れた。JR八戸駅から北へ走り、車で一時間余りで到着。東側に太平洋が展望できる広大な敷地にブルーの縦じまのある白い建物がいくつか見えてくる。これらの燃料サイクル施設を運営するのは「日本原燃株式会社」(増田尚宏社長・従業員約三千百人)。同社地域・広報本部の岡村泰治部長(安全・品質本部部長も兼ねる)の案内で施設を回った。
まずは、模型やパネル、映像を使って、実際の施設の仕組みなどを紹介している一般見学者向けの「六ケ所原燃PRセンター」へ向かい、担当女性から基本的な解説を受けた。すらすらと歯切れがよく、わかりやすい解説だ。ここはいわば施設の疑似体験ゾーンだ。
燃料サイクル施設のある敷地の総面積は約七・五平方キロメートルと広大だ。施設間は車で移動した。主な施設としては、燃料サイクルの心臓部ともいえる「再処理工場」、「MOX燃料工場」、「ウラン濃縮工場」、「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」などがある。どの施設へ入るにも厳重なチェックを受けた。残念ながら事前に申請しなかったため、カメラやスマホは持ち込めなかった。
どの施設でもたくさんの従業員がセキュリティチェックを受けていて、数多くの従業員があちこちで働いている様子が見えた。これらの施設で働く就労者は全部で約六千人。六ヶ所村の人口の約六割にも匹敵するほどの人が働いているわけだ。関連する会社は約千二百社に及ぶから、青森県でも有数の一大産業基地だ。
ウランとプルトニウムを
回収する再処理工場
再処理工場は太平洋海岸から約5キロメートル離れた高台に位置するが、同PRセンターから遠方に見えたので事前に写真に収めることができた(写真1)。
再処理工場は、原子力発電所で発生した使用済み燃料から、核分裂をしていないウランや新たに生まれたプルトニウムを回収する工場だ。つまり、ウラン、プルトニウムといった有用な資源を取り出して、再利用しようというのが再処理工場だ。年間八百トンの使用済み燃料を処理できる能力を持つ。ちなみに、ウランとプルトニウムを取り出したあとに残る放射性物質を含む廃液は、ガラスと混ぜて固化体(高レベル放射性廃棄物)として、地下深く最終処分されるまでの間、貯蔵される。
直接に処理工場の中を見ることはできないが、運転員は中央制御室で三交代勤務により、24時間三百六十五日、設備の監視等に従事しているという。
工場の中では、プールに冷却・保管されていた使用済み燃料が約3~4センチメートルに切断され、硝酸溶液で燃料と金属片に分けられ、その溶液の中からウランとプルトニウムが取り出されるという。こうした有用資源の回収に、硝酸などの化学薬品が使われる。再処理工場は原子炉施設というイメージだったが、発電所とは違い、巨大な化学プラントだと実感する。
フランスのラ・アーグ再処理工場で実地訓練
この再処理工場はいうまでもなく、商用レベルでは日本では初めてのプラント(研究レベルでは「東海再処理工場」がある)だが、世界を見渡せば、フランス、英国などでも導入されている。特にフランスにあるラ・アーグ再処理工場は一九六六年から操業を始め、日本やドイツ、ベルギー、イタリアなどから送られてくる使用済み燃料の処理を引き受けている。つまり、再処理工場のお手本はすでに存在するのだ。
このため、日本原燃は二〇二一年からこれまでに8回にわたり、若い世代を中心に延べ約九十人の運転員をフランスのオラノ社の再処理工場へ派遣し、実証訓練と人材育成を積み重ねてきた(写真2)。案内役の岡村部長も過去にフランスに約1年間滞在し、ラ・アーグ再処理工場で実地訓練を受けた。「非常に有意義な経験だった」と語る。この運転員の実地訓練は運転能力や技術力の向上に向けて大きな経験値となり、いまではすでに実機運転の経験者が約6割を占めるまでになった。
再処理工場の竣工遅延の
理由は何か?
再処理工場は26年度中の竣工に向けて順調に進んでいるように見えるが、ここで大きな疑問がわく。一九九三年に工場の建設が始まり、当初は一九九七年に竣工を目指していたが、これまでに27回も先送りされてきた。その理由は何なのか。
当初は設計変更や試運転の計画見直し、ガラス固化工程の不具合などで遅れたが、二〇一一年以降は東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故によって、原子力施設に対する厳しい安全基準(新規制基準)が課されたのが主な遅れの要因だ。
この新規制基準は、地震はもちろん、津波、竜巻、暴風、火山の噴火、森林の火災、航空機の墜落など大規模な災害を想定した対策を必要とする。言い換えると安全基準が厳しくなったのだ。下北半島では大きな竜巻など起きないようにも思えるが、冷却塔に防護ネットを設置したり、高さ百五十メートルの排気筒にはステンレス製防護板も設けられた。
大掛かりな竜巻対策だけで丸3年を要したというから、新規制基準への対策がいかに竣工スケジュールに影響したかが分かる。さらに、こうしたハード面だけでなく、ソフト面の詳細設計の審査も複雑を極め、多段階の許認可プロセスに時間がかかるのも竣工が遅れている要因だといえる。
技術面はどうかと言えば、実際に使用済み燃料を使用して、実操業とほぼ同じ環境で設備の性能や安全性を確認するアクティブ試験(試運転)が二〇〇六年から行われ、技術的な問題を乗り越えてきた。
MOX燃料工場
再処理工場に次いで重要な施設が、MOX(モックス)燃料工場だ。現在、27年度の竣工を目指して工事が進んでいる。「MOX燃料=Mixed Oxide Fuel」とは、使用済み燃料から回収されたプルトニウムとウランを混ぜ合わせてつくられるウラン・プルトニウム混合酸化物燃料のことだ。
このMOX燃料は、「軽水炉」(軽水は普通の水で、重水に対して使う言葉)と呼ばれる原子力発電所の燃料として、再び使用することができる。ちなみに、日本の原子力発電所は原子炉内で直接蒸気を発生させる沸騰水型(BWR)と、蒸気発生器で二次冷却水を蒸気にする加圧水型(PWR)の2種類があるが、どちらも軽水を使っている。
MOX燃料を軽水炉で発電することを「プルサーマル」と呼ぶが、これは日本独自の造語だそうだ。現在、関西電力の高浜発電所(3〜4号機)、四国電力の伊方発電所(3号機)、九州電力の玄海発電所(3号機)の計4基でプルサーマル、すなわちMOX燃料利用がおこなわれている。このMOX燃料はフランスで加工されたものだ。MOX燃料の加工に関しても、再処理工場と同様に、世界で先端を走るフランスのオラノ社のメロックスMOX燃料工場がお手本になる。日本原燃はこのメロックス工場にもエンジニアを派遣し、技術の習得に努めている。
MOX燃料の課題といえば、これを使う原子力発電所がまだ少ないことだ。原子力事業者11社は二〇三〇年までに12基でのMOX燃料利用を目指している。全国の原子力発電所にたまっている使用済み燃料は約一万七千トンあり、その貯蔵割合は電力会社ごとに異なるものの、平均では貯蔵できる容量の約八割にまで達している。その意味で再処理工場とMOX燃料工場の1日も早い稼働が必要だといえる。
3つのメリット
今回の取材で分かった燃料サイクルのメリットは主に3つある。
まずは資源の有効利用だ。使用済み燃料6体から1体のMOX燃料と1体のウラン燃料(回収ウランを濃縮して燃料に再加工)を加工でき、再利用できる。エネルギー資源に乏しい日本にとって準国産エネルギーといえるだろう。
次いで廃棄物の減容化だ。使用済み燃料(高レベル放射性廃棄物)をそのまま直接廃棄することも可能だが、再処理してMOX燃料などにすれば、廃棄処分量を体積比で4分の1に減らせる。これは、直接処分に比べて、処分施設の面積や容積を2分の1~3分の1に減らすことを可能にする。
3つ目は有害度の低減だ。直接処分のままだと放射性物質の有害度が天然ウラン並みに低減するのに約10万年かかるが、再処理を経ると約八千年に縮まる。劇的な短縮だ。これなら処分場の建設に理解が得やすくなるのではないか。
今後の課題は何か?
他にもまだ課題はある。使用済み燃料からウランやプルトニウムを回収して再利用しても、高レベル放射性廃棄物は残る。これを貯蔵する高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターも見学した。細長い筒状のガラス固化体(キャニスター)が整然と地下に埋められ、並んでいた。このガラス固化体はいずれは地下深くの地層に埋められる方針なのだが、その最終処分場がまだ決まっていない。
一方、MOX燃料にしたとしても、天然ウランの利用効率は2割程度にとどまる。将来的には天然ウランのほとんどを燃料にできる高速炉が必要だという専門家の声は強い。とはいえ、当面は燃料サイクルの要である再処理工場の竣工が目標になる。それには国民の理解が欠かせない。
また、コスト面の理解も進んでいないように思える。再処理事業は、電力会社からの拠出金を受けた「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」(旧使用済燃料再処理機構)が日本原燃に委託する形でおこなっている。経済産業省の発電コスト検証ワーキンググループの資料(25年2月6日)によると、再処理事業は約15兆円の費用(24年6月時点)がかかる。燃料サイクルに要するコスト「一キロワットあたり一・九円」のうち、再処理とMOX加工にかかるコストは一キロワットあたり〇・七円で、原子力発電の全体コスト(一キロワットあたり一二・六円)に占める割合は約五・五%と低い。ただし、コスト面に関するよりわかりやすい解説情報を発信する必要はあるだろう。
「オールジャパンで取り組む」
今年1月28日、日本原燃の増田社長は記者懇談会で再処理工場について、今年3月までに原子力規制委員会への設計や工事計画の認可説明を終えられるよう「安全を最優先に、オールジャパン体制で竣工・操業に向けて取り組む」と語った。このほど就任した電気事業連合会の森望会長(関西電力社長)も、2月20日の就任会見で、26年度中の再処理工場の竣工について言及し、「関係者が一丸となって、オールジャパン体制で日本原燃を支援」すると強調している。
原子燃料サイクルはいよいよ正念場を迎える。日本原燃の社員約三千百人のうち、青森県出身者は約7割を占め、すでに生え抜きのプロパー社員が約9割を占める。もはや青森県の巨大産業となった原子燃料サイクル事業を、確実に軌道に乗せることが必要だと実感した。折しも高市政権が衆議院議員選挙で歴史的な圧勝を収め、批判を得意とする野党勢力が激減したように思える。これを機に、批判ばかりを繰り返すリベラル系メディアにも、もっと建設的な提言を含む報道を期待したい。



