原子力産業新聞

メディアへの直言

原発再稼働はホルムズ危機にも強い「トリプル+1」のメリットが!

二〇二六年七月二十七日

 原子力発電所の再稼働のメリットは何か。新聞記事はなかなかその真相を伝えてくれないが、「電気料金が下がる」や「AI産業の電力需要拡大に寄与する」くらいは頭に思い浮かぶが、実はホルムズ海峡の封鎖危機にも強い。今回は原発再稼働の「トリプル+1(プラスワン)」を新聞記事などから拾ってみる。

毎日新聞の記者が現実論を
記事に

 原子力発電所の再稼働が期待したほど進まない中、おもしろい記事を見つけた。原子力に慎重な立場を取ることが多い毎日新聞の中島昭浩記者(経済部)が書いた「記者の目」(7月10日付)だ。

 見出しを見ると「現実に根ざしたエネルギー議論を」。どんな現実かといえば、「足元の課題は人工知能(AI)サービスに不可欠なデータセンター(DC)向けに拡大する電力需要にどう対応するかだ。DC24時間365日稼働する。昼夜を問わず、天候によらず、安定的に電力を供給できるベースロード電源が必要だ」という現実への問題意識だった。

 ではその結果、どんな結論に至ったのか。「(安定した電力を供給する)主力は火力発電と原発だが、火力は脱炭素に逆行する。AI業界が求める脱炭素電力を安定供給できる選択肢は、現状では原発の再稼働しかないとの考えに至った。日本はAI開発競争で米中の後塵を拝している。再稼働で得られるのは、AI需要の獲得という日本の成長機会だ」(筆者で一部要約)。

 毎日新聞は今年1月23日の社説で「福島事故の教訓を踏まえれば、経済成長や電力確保を盾に、原発をなし崩しで使うことは許されないはずだ」と明確に書いていた。そうしたことを考えると、日本のAI産業振興のために安定した電力を供給する原発の再稼働が必要だという主張が毎日新聞の記事として掲載された意義は大きい。

 毎日新聞は原発に批判的な論調の記事を多く書いてきたが、経済部に属する記者の中には、現実を考えると原発の再稼働が必要だという認識をもっている記者がいることがうかがえる。そして、毎日新聞がこの記事を載せたことは、まだまだ毎日新聞社には「記者の自由度」が他社に比べて高いこともうかがえる。

太陽光への期待は続く

 ただ、太陽光発電への過剰な期待は消えていないようだ。中島記者は数字を挙げて「大量のAI需要を太陽光パネルで賄うには日本の国土に余裕がない」と太陽光パネルの限界を記事で指摘しながらも、最後に来て、「原発反対派は原子力の2割(40年度の電源構成)を減らすよりも、再生可能エネルギーを目標の4~5割からさらに高める議論をすべきではないか」と、天候に左右される不安定な太陽光や風力にも期待を寄せた。

 私なら「そもそも原発がしっかりと動けば、太陽光発電などへの依存を抑えることができる」と書くだろうが、おそらくデスク(原稿をチェックする上層部)としてはそのままでは掲載しにくいだろう。記事を読み、そのような印象をもったが、それでも原発の再稼働がAI産業にとって必要だという第一のメリットは伝わったのではないか。その意味で上出来の記事だった。

原発再稼働の度合いで
電気料金に地域格差

 原発の再稼働によって、どんなメリットがあるかを示す良い例が電気料金である。再稼働の度合いによって、電気料金に大きな「地域格差」が生じていることは意外に知られていない。

 その意味で興味深かったのは朝日新聞の記事(251211日)だ。北海道電力の泊原発の再稼働について、鈴木直道知事が同意を表明したことを受けての記事だ。朝日新聞は各電力会社(10社)の電気料金を一覧表に載せた。

 その表を見ると、原発が多く動いている電力会社ほど電気料金が安いことが一目で分かる。たとえば、原発が7基動いている関西電力の料金が7791円(26年1月分)なのに対し、まだ原発が再稼働していない北海道電力の電気料金は1万534円と関西電力に比べて、約35%も高い。また、4基の原発が動いている九州電力は7755円(同)と関西電力並みに低い。この時点(2512月)で原発が動いていない東京電力と中部電力はそれぞれ8634円、8285円とやはり関西電力や九州電力よりも高い。

 この電気料金と原発再稼働の一覧を見ると、原発の再稼働が電気料金を下げること(つまり、電気料金は東日本で高く、西日本で低い)が明確に分かる。

 一覧表を載せた意義は大きいが、原発に慎重な立場を取る朝日新聞(251211日)は同じ記事の冒頭で「原発回帰を進めるほど、北電が抱える『危うさ』も浮かび上がる」と書く。どんな危うさかと思ったら、「北電の想定では、全3基が再稼働すると、発電量の6~7割を原発が占めることになる。地震などの災害で原発が止まれば、電力供給が一気に不足し、大規模な停電に陥るリスクが高まる恐れがある」と災害リスクに言及した。

 それを言うなら、日本国内で出荷・設置されている太陽光パネルの約9割が海外製であり、そのうち約8割を中国製が占めているリスクをもっと知らせるべきだろう。

産経新聞は料金値下げを
強調

 同じころ、産経新聞(2512月3日)も電源構成(再稼働の状況)と電気料金の格差を取り上げているが、こちらは、大きな見出しで「原発再稼働で電気代格差 北電は九電より2000円高」と再稼働で電気料金が安くなることを強調した。

 朝日と違うのは、その書きぶりだ。産経新聞は今年126日の記事でも原発再稼働は「電力課題に現実的選択」との大見出しをつけ、小見出しで「料金下げと安定供給 脱炭素でもメリット」と見出しだけで原発再稼働のメリットが分かる記事を載せた。これらの記事から、原発再稼働には「電気料金を下げる」「安定した電源でAI産業などを支える」「脱炭素」の3つのメリット(トリプルメリット)があることが分かる。

原発はホルムズ海峡封鎖
にも強い

 では、もう一つのプラス1(プラスワン)は何だろうか。

 それはホルムズ海峡封鎖危機に見られるような中東依存に強いことだ。ウェブサイト「アゴラ言論プラットフォーム」で尾瀬原清冽氏(長年、電力会社で電力の需給運用やシステム設計に携わってきた専門家)が書いた「ホルムズ海峡封鎖でも電気代は上がらない? 燃料コスト高騰説を検証」(26年3月7日)を読んで、なるほどそうかと思った。

 それによると、現在、電力の燃料構成で約7割は火力発電だが、そのうちLNG(液化天然ガス)が約34%(2021年)を占める。そのLNGの輸入先は豪州が約4割を占め、マレーシアなどを含めたアジア大洋州(オセアニア)地域で全体の約85%を占める。つまり、中東産は約15%に過ぎない。尾瀬原氏は国内の発電で使うLNGのうち、中東産は約15%なので、日本の発電構成に占める中東依存度はわずか約5%(34%×15%)で低いと指摘する(筆者注・資源エネルギー庁の24年度数値でもLNG比率は約32%なので、中東依存度の約5%は変わらない)。

 福島原発事故が起きる前の2010年当時、発電の燃料に占めるLNGは約20%だったことを考えると、当時の中東依存度はもっと低かったことになる。

 ホルムズ海峡の封鎖で確かに石油の価格は上がるが、発電燃料全体に占める石油は約7%に過ぎない。発電用のLNGに関しては、中東依存度が低いことは意外に知られていないのではないか。こと発電用LNGに関して言えば、原発がしっかりと動いていれば、ホルムズ海峡の封鎖危機の影響が小さいことをもっとメディアは伝えるべきだろう。

小島正美Masami Kojima
元毎日新聞社編集委員
1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道部で食や健康問題に取り組む。2018年6月末で退社し、「食生活ジャーナリストの会」代表。近著「フェイクを見抜く」(ウェッジブックス)。

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