消費減税をめぐる報道の「怪」 なんと朝日新聞と産経新聞が瓜二つの論調
二〇二六年八月十三日
食料品の消費税を1%に引き下げる新聞記事を読んでいて、これまで体験したことがないほどの奇妙な違和感を覚えた。どの新聞も驚くほど似通った論調に終始し、多様な言論が見られなかったことだ。普段は真逆の朝日新聞と産経新聞が同じ論調だったことに驚きを禁じ得ない。
朝日新聞は厳しく批判
高市早苗首相は7月30日、食料品の消費税を現行の8%から1%へ引き下げると表明した。翌日の朝日新聞は社説で「首相の消費減税表明 社会保障の安定損なう無責任」との見出しで厳しく批判した。同じ日付の他の紙面でも「財源後回し 急いだ『1%』」や「年5兆円の『穴』 高まる財政懸念 円安進めば物価高招く恐れも」といった見出しで次々に消費減税のマイナス点を挙げた。
反対する理由はいくつかあるようだ。社説から拾ってみた。
1.「消費税は景気変動の影響を受けにくく、社会保障のための安定財源に欠かせない」
2.「食料品の減税は、より多く消費する高所得者ほど減税額は大きい」
3.「企業にとっては納める税金が減るが、値下げが強制されるわけではない。逆に食料品の価格が上がってしまうことも考えられる」
4.「財源の裏付けがないので、市場の信認が得られず、円安が一段と進み、物価高につながる恐れがある」
5.「食料品の消費税ゼロというメンツを守ることを優先した」など。
減税にはメリットもあるはずだが、肯定的な内容はほとんど見られない。先の衆議院選挙で高市首相は減税を公約として掲げた。ならば、それを実行することはむしろ信頼できる政治的行為だと思えるが、朝日新聞は1%減税を全否定した格好だ。
記事を差し替えても
違和感なし
何かと高市内閣に批判的な論調を展開する朝日新聞だから、それほどの驚きはないが、では、次の記事はどの新聞社の記事なのだろうか。社説から拾ってみた。
1.「消費税は景気に左右されにくい社会保障の安定財源でもある」
2.「高所得層にまで恩恵が及ぶ減税を実施することが妥当なのか」
3.「税率を引き下げても十分に物価が下がらない」
4.「政府の財政運営に対する市場の信認が大きく損なわれる可能性がある」
5.「たとえ公約であっても、実施の是非は慎重に検討されるべきは言うまでもない」
あえて文章の前に数字の番号をつけたのは、朝日新聞と全く同じ内容なのを分かってもらうためだ。
この社説は産経新聞である。朝日新聞の論調と瓜二つである。産経新聞の社説(31日)は「減税判断の妥当性どこに 財源確保の具体策が必要だ」との見出しだ。中身を朝日新聞の社説と差し替えても、だれも入れ替えたことに気付かないだろう。
産経新聞、朝日新聞とも記事を読むかぎり「公約にこだわる必要はない」と読める。では、仮に高市首相が「諸般の事情で消費減税と公約を撤回します」と表明したとすれば、両新聞は「よくやった」と称賛するだろうか。おそらく公約を撤回したらしたで批判の矢を飛ばすに違いない。
読売新聞も公約を疑問視
自民党政権に比較的穏健なスタンスの読売新聞の社説(31日)はどうか。「消費減税の方針 懸念は払拭されないままだ」と過激な見出しではないものの、「消費減税と給付を行えば、年5兆円もの財源を失い、大きな穴があく。社会保障給付の財源確保に支障を来しかねない。大きな弊害が予想される消費減税に政治資産を浪費するよりも、長期的な国益に資する防衛力強化や社会保障制度の抜本的改革などにこの資産を使うべきだ」と主張。論調は朝日新聞や産経新聞と大同小異だ。「公約にこだわったのだろうか」と公約にこだわることに疑問を呈した点でも、朝日や産経と同じだ。
毎日新聞も朝日と同じ
日頃から朝日と論調が近い毎日新聞の社説(31日)はどうか。「首相が消費税減税表明 将来に禍根を残す浅慮だ」との見出しで厳しく批判した。その主な内容は「(消費税は)深刻な借金財政の下、増え続ける社会保障費を支えてきた重要な財源である。消費税減税は高所得者ほど減税額が大きくなる。税率引き下げに見合うだけ、物価が下がる保証もない。多額の税収が毎年度失われることになれば、政府の信用が低下する。高止まりする長期金利は更に上昇し、国債の利払い費が急増して財政不安に拍車をかける」。
やはり朝日新聞と同じ論調である。どの新聞もまるでコピペして書いたかのようだ。
大手メディアの「煽り」こそがリスク要因
新聞を読む価値のひとつは、それぞれの媒体が多様な言論を競い合うことにある。なぜ、こんなにものっぺらぼうな論がまかり通るのだろうか。別に異なる意見がないわけではない。
SNSのネットニュースや書籍を見れば、傾聴すべき見方はたくさんある。たとえば、エコノミストの永濱利廣氏(第一生命経済研究所)は「減税に賛成だ。財政懸念を指摘する声もあるが、政府の資金収支が一時的に黒字に転じるなど財政状況は改善しており、政府は家計から取り過ぎている。実質賃金が低迷している中で食料品の減税は家計の助けになる。名目GDP(国内総生産)が1%台半ばで2年間程度伸び続ければ、5兆円程度の税収増加が期待できる(筆者で要約・ユーチューブ「ニュースの争点」)と述べている。
また、元日銀副総裁の岩田規久男氏(学習院大学名誉教授)は著書「日本経済の分岐点」(夕日書房)で以下のような見解を述べている。
「財政緊縮派は、日本の政府債務残高のGDP比が200%を超えた15年前から、日本の財政は破綻すると警告してきた。しかし、いまだに日本財政は破綻せず、債務不履行に陥っていない。日本国債はすべて円建てで、政府が返済する場合、円で返せばよい。外貨準備高は1659兆円(筆者注・財務省が発表した今年7月末の外貨準備高は1兆2870億ドル=1ドル160円換算で約206兆円)(中国に次いで世界第2位)に達し、政府は円安防止のためのドル売り資金を十分保有している。日本の財政が改善傾向にあることを無視して、『高市財政は破綻する』といった誤った『財政危機』を声高に煽ることこそが、証券市場や国際金融市場の投資家の円売り・ドル買いを促し、円安と長期金利の上昇をもたらす要因ではないか」。
大手メディアがいたずらに煽ることこそが、外部から見た日本経済のリスクを高めているという見方である。同感である。
新聞は公共財だから8%
みなさんもご存じのように新聞(定期購読)は、2019年10月から食料品と同じく8%の軽減税率が適用された。その際、朝日新聞社は読者に対して「軽減税率の適用は、公共財としての新聞の役割が認められたものと受け止めています。すべての人には社会の出来事を知る権利がある。私たちはその一人ひとりの権利に応えていくために新聞の存在があると考えます。こうした公的な役割を再確認し、公正で中立な報道姿勢をより一層心がけていくことが私たちに求められていると考えています」と説明していた。
この報道姿勢は全くその通りだと思う。しかし、今回の消費減税の記事を読む限り、自分(自社)の言いたいことを中心に報じているだけに思える。読者がほしいのは考える材料としての記事だ。どの新聞にも言えることだが、自社の論調とは異なる意見や見方をあえて載せることが公共財としての姿勢なのではないだろうか。
