原子力産業新聞

メディアへの直言

最終処分場の交付金「20億円」は低過ぎる!メディアはもっと未来都市ビジョンを

 二〇二六年九月三十日

 高レベル放射性廃棄物の最終処分場をめぐる動きは、なかなか前へ進まない。ニュースを見ていていつも気になるのが、文献調査を受け入れた自治体に支給される交付金の「20億円」という額の大きさだ。国家として絶対に避けて通れない歴史的な一大プロジェクトを前進させるのに「20億円」はどう見ても少な過ぎる。個人的には50億円、いや100億円でも妥当だと思うが、いかがだろう。

常陸大宮市は結論を先送り

 高レベル放射性廃棄物の最終処分場に関して、文献調査を受け入れた自治体はこれまでに北海道寿都(すっつ)町、北海道神恵内(かもえない)村、佐賀県玄海(げんかい)町、東京都小笠原村の4つ(寿都町と神恵内村はすでに文献調査を終了)がある。そして、今年8月末、国が茨城県常陸大宮市に対して文献調査の申し入れを行い、その行方が注目されていた。

 9月18日、茨城県常陸大宮市の鈴木定幸市長は受け入れ可否の判断を保留すると説明した。鈴木氏は同市の人口が7割に減り、「将来世代に責任あるまちづくりの選択肢」と位置づけて、個人的には受け入れに前向きの意見を表明していた。だが、16人の市議から「なし崩し的な処分地化への不安」「特産品や観光への風評被害」「説明の機会不足」の3点を指摘され、最終結論を先送りした(9月18日の産経新聞参照)。

風評被害は自然現象ではない

 反対理由で気になるのが「特産品や観光への風評被害」だ。風評被害は自然に発生する現象ではない。風評被害は、人々の情報発信や受け止め方によって生じる社会的な現象である。私などは、文献調査を受け入れた自治体の産品を買ってむしろ応援したくなるが、反対する動きと応援の駆け引きはまさに双方の力関係に左右される。

 その力関係で記憶に残る出来事がある。福島第一原発事故で発生した処理水の海洋放出のときだ。処理水を「汚染水」と呼んで福島産の農林水産物がさも危ないかのような言論を展開するメディアを「風評加害者」だと断じる対抗的な市民行動が見られた。風評被害の懸念をめぐって事態が悪化しそうなときには、どのような報道が風評被害を助長しかねないのかを、しっかりと見極める必要がある。

文献調査の受け入れとして「20億円」

 それはさておき、今回のテーマは文献調査を受け入れた自治体に支給される最大20億円の多寡だ。

 最終処分場の手続きは、最終処分法(特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律)に基づき、最初の「文献調査」、次の「概要調査」、そして最後の「精密調査」と3段階の調査を経て、建設が決まる。最初の文献調査では最大20億円、次の概要調査に進むと最大70億円の交付金が支給されるが、まだ概要調査に進んだ例はない

 この交付金は自治体の申請に基づいて国から支払われ、地域振興や医療・福祉サービスなどに活用できる。神恵内村は周辺自治体の3町村に計4億5,000万円を配分し、残る15億5,000万円を活用して、診療所の医療機器整備、温泉施設の建設工事、漁協施設の新築事業などへの補助に使い、2024年度までに交付金を使い切ったという。

 文献調査の公募は2002年に始まったが、当初の交付額は単年度2億1,000万円だったが、2007年度から最大20億円(単年度10億円)に拡大した。この交付金(電源立地地域対策交付金)の原資は、電力会社に課せられている「電源開発促進税」で、最終的には電気料金として国民が負担することになる(東京新聞26年7月6日参照)。

メディアは総じて批判的

 つまり、国民の目から見れば、文献調査を引き受けた自治体に対して、「国民の皆が嫌がる処分場の文献調査によくぞ名乗りを上げてくれました。微々たる額ですが、町づくりに役立ててください」という趣旨で負担するわけだ。

 言い換えると文献調査を引き受けた自治体は、いわば世間からの批判を覚悟して名乗り出たことになる。ところが、メディアの多くは「地域をカネで売るのか」といった冷たい非難を浴びせかける。日本にとって絶対に必要な施設にもかかわらず、その施設の受け入れ調査を表明した自治体を非難することは倫理的な観点からもだれにもできないはずだが、メディアは総じて冷たい態度を示す。

 そういう非難の嵐に立ち向かう自治体に対して、その交付金がわずか20億円とはあまりにも少な過ぎる。第一関門の文献調査を突破しなければ、どんなプロジェクトも前進しない。それを考えると勇気ある行動を示した自治体に少なくとも50億円を支給しても決して多くはない。概要調査なら100億円でも妥当だろう。

年間約40円の負担で50億円

 20億円がいかに少ないかは、太陽光や風力発電など再生可能エネルギー普及のため、電気料金に上乗せされている「再エネ賦課金」の額を見ればすぐに分かる。26年度の再エネ賦課金は1キロワット時当たり4.18円。これを標準家庭[1]総務省「家計調査」に基づく「一般的な世帯」の電力使用量(月間使用量400キロワット時)の電気料金に換算すると年額約2万円になる。これを国民全体の負担金に換算すると、なんと年間約3兆円にもなる。

 天候に左右され、年間の平均設備利用率が20%にも届かない太陽光の整備などに年間3兆円も負担していることを考えると、文献調査への協力金がたった20億円とはあまりにも少な過ぎる。国民1人が年間わずか約42円を負担するだけで50億円になる。再エネ賦課金と比べれば、年間42円の負担ならどうってことない。

最先端の未来科学都市になる

 最終処分場のニュースを見ていると自治体を分断させる暗い話ばかりだ。なぜもっと未来に希望が持てるビジョンをメディアは報じないのだろうか。

 かつて、数量政策学者の高橋洋一氏(元財務省官僚)は最終処分場問題について「最終処分場を引き受ける自治体を、最先端の研究都市やハイテク都市として国が丸ごとプロデュースするような大改革を行うべきだ」と持論を語っていた(23年9月13日ニッポン放送)。その際、高橋氏は、つくば研究学園都市(茨城県)のような最先端の科学技術・研究機関が集積する未来都市を国策として建設するという破格の国家プロジェクトとして提示すれば、名乗りを上げる自治体や住民の合意形成のあり方も変わるのではないか、と指摘していた。

 全く同感だ。国家的な先端都市プロジェクトとして、国が主導する形でまちづくりを進めるのであれば、夢と希望が湧いてくる。

メディアは建設的な提言型報道に舵を切るべき

 今年5月下旬、全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協)は高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定に関する提言書を高市首相へ提出した。高市首相は「国が前面に立つ」と述べたという(読売新聞26年6月26日参照)。ぜひそうあってほしい。

 最終処分事業の実施主体は原子力発電環境整備機構(NUMO)であるが、予算も含め、国家がもっと前面に出る必要がある。スウェーデンでは、最終処分場の選定で「世界最高峰のハイテクが集まる工業・研究地域にする」というビジョンを掲げ、地層処分の研究開発拠点として最先端技術企業や優秀な研究者を誘致することに成功したと聞く。

 常陸大宮市の鈴木市長は地層処分の事業を「まちづくりの選択肢の一つ」として議論を俎上に載せることを問いかけてきた(筆者注=鈴木市長は9月30日、受け入れを表明)。メディアも地域の対立ばかりに焦点を当てるのではなく、もっと未来の先端都市ビジョンを提示する建設的な提言型報道に舵を切るべきだろう。

脚注

脚注
↑1 総務省「家計調査」に基づく「一般的な世帯」の電力使用量
小島正美Masami Kojima
元毎日新聞社編集委員
1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道部で食や健康問題に取り組む。2018年6月末で退社し、「食生活ジャーナリストの会」代表。近著「フェイクを見抜く」(ウェッジブックス)。

cooperation