原子力産業新聞

福島考

放射線の恐怖を煽り、遺伝子組み換え食品の恐怖を煽り、メディアはどこへいくのか?
単に市民の声、懸念を伝えるのではなく、科学的事実を読み込み、そうした懸念に応える建設的な提案も含めた情報、メッセージを発信すべきではないか?
報道の現場を知り尽くした筆者が、強く訴える。

SNS時代にふさわしいメディアチェックとは ― おかしな記事を評価して、世間に知らせる活動をもっとやろう

25 Apr 2019

おかしな新聞記事やテレビニュースを見つけたときに、まずだれもが思いつくのが「訂正の要求」か「抗議文の送付」だろう。しかし、相手が完全に無視したら、どうすればよいのか。そのひとつが相手の評判を落とすアクションだ。どのメディアも世間の評判には弱い。そのやり方を私なりに考えてみる。

私が共同代表を務めるメディアチェック団体「食品安全情報ネットワーク」(もう一人の代表は唐木英明・東大名誉教授)は、科学的な根拠がないか、あるいは乏しい記事を見つけたら、その媒体に訂正を求めたり、意見書を出したりする活動を続けている。学者や記者、企業の品質保証担当者、公的機関の研究者など約50人が集まったボランティア団体である。会費もなく、おかしな記事を見つけたら、みなで手分けして検証して、訂正の内容をメディアに送るという純粋な検証団体である。

ボランティアだから、自由にモノが言えるし、どの媒体に対しても等距離に身を置ける利点がある。2008年から活動を続けてきたが、一番の悩みは相手から無視されたときだ。幾度質問を繰り返しても、相手から全く音沙汰なしだとあきらめるしかなかった。そのときの気持ちは、一言で言えば「悔しい」だった。

新聞系雑誌は「無視」

知名度のない弱小ボランティア団体ゆえに無視されたのだろうと思うと本当に歯がゆい思いを何度も味わった。

たとえば、2018年2月、週刊朝日が「健康寿命を延ばす食品選び」というタイトルで、どうみても非科学的な記事を載せた。添加物を避ければ、健康寿命が延びるかのような非科学的な言論を吐く評論家や市民団体は昔からあったが、それが堂々と新聞系の雑誌に載ったとあっては、黙って見過ごすわけにはいかない。

さっそく質問状とその理由を書いて編集部に送ったが、全く返事は来なかった。しびれを切らして私たちの担当者が電話したところ、相手からは「特定の相手にだけ時間を割くことはできない・・」などといった冷淡な言葉だった。

その後も、別の複数の週刊誌の記事に対して、何度か訂正を求めたが、ここ1、2年は「回答なし」が目立つようになってきた。

ニュースの真偽を検証する

このまま敗北するわけにもいかない。

どうすればよいかを思案していたときにヒントになったのが、最近、世界で大流行している「ファクトチェック活動」だ。ファクトチェックとは、簡単に言うと記事やニュースの真偽を検証することだ。たとえば、米国のトランプ大統領の発言とそれが掲載された記事がどこまで真実かを検証して、「大統領の発言はフェイクです」などとSNSなどを通じて、みなに知らせる活動である。欧米を中心に100を超えるチェック団体がすでに存在している。

検証または評価のやり方はそれぞれ国や団体のカラーで異なる。たとえば、記事の評価を「ねつ造」「不正確」「やや不正確」「正確」と単純に分ける方法もあるだろうし、その一方、「科学的な根拠がなく、嘘に近い」「信じてはいけない真っ赤な嘘」「科学的な根拠があり、信じてもよい」という言い方で評価する方法もあるだろう。

評価結果の知らせ方は、これまた国や団体で異なる。

ただ基本的には、あらかじめ評価項目とその判断基準を決めておき、それぞれの団体がくだした評価結果を自らのウェブサイトに載せるという点は一致している。その評価結果を当該メディアに送るほか、他のメディア媒体(新聞、テレビ、雑誌など)にも送り、さらにそれぞれの団体会員が個々にSNSに投稿するという形をとれば、影響力は大きいはずだ。

欧米では、メディアチェック団体と提携した既存のメディアが評価結果を記事として載せるケースもある。既存メディアが協力すれば、確かに一般の人の目に触れる頻度は高くなる。これが理想的なあり方だろう。

「評価結果」は他の媒体にも知らせる

ここで大事なことは、たとえば、週刊朝日の例なら、週刊朝日の記事に関する評価結果を他のメディア媒体にも送るということだ。実は私たちの団体も2018年から、他の媒体(全部で約20社)にも送っていた。

おかしな記事を書いていないAという媒体に「B社の記事は、非科学的です。信じてはいけないという評価がくだりました。SNSにも投稿されています」という評価結果が届けば、他社の出来事とはいえ、おそらく、変な記事を書くブレーキになるのではと思う。

この「おかしな記事の評価を他社にも知らせる」というアクションは、実は、ずっと以前に一般社団法人「日本アルミニウム協会」がやっていたことだ。「アルミニウムの摂取がアルツハイマー病の原因になる」といった記事が約20年前にはやっていた。私もそうした記事を書いた記憶がある。いまでは信じられない話だが、台所でアルミ鍋を使っていた主婦たちが恐怖のあまりアルミ鍋を捨てるという行為まで見られた。

日本アルミニウム協会は、科学的な根拠の低い記事を見つけるたびに、どの部分が非科学的かの理由を明記して訂正要求リリース文を作り、当該の媒体のほか、他の新聞社にも送っていた。私の記憶では、この活動は10年近く続いた。その地道な活動の要因だけではないだろうが、アルミニウムがアルツハイマー病に関係するという記事は少しずつ減っていったように思う。

どのメディアもNHKを除き、客商売なので、世間の評判を気にする。世間の評判が落ちたら、購読数(視聴者数)の減少に直結する。この商の論理は傍若無人ぶりの週刊誌も免れない。

いま世界で流行しているフェイクニュースのチェックは、どちらかといえば、大手メディアが流すニュースの真偽よりも、政府要人など有名人の発言が真実かどうかをチェックすることに重きを置いている。

個人的な意見では、日本では主要なメディアの流すおかしなニュースに翻弄されているケースのほうがより深刻だと思っている。ぜひ、それぞれの組織の有志たちでメディアチェック団体をつくり、おかしなニュースを見つけたら、その評価結果をあらゆる媒体に知らせていく活動を始めてほしいと思っている。5~10人いれば、できるはずだ。どんなことも、初めの一歩がなければ、成し遂げられない。私たちの団体もまもなく評価活動を始動させる。

小島正美Masami Kojima

Profile
食生活ジャーナリストの会 代表 元毎日新聞社編集委員
1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道部で食や健康問題に取り組む。2018年6月末で退社し、現在は「食生活ジャーナリストの会」代表を務める。近著「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)。小島正美ブログ「FOODNEWS ONLINE

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