原子力産業新聞

COP28

グローバル・ストックテイク 28回目となるCOP28開催地はUAEのドバイです。前回のCOP27から持ち越しとなったロス&ダメージ(気候変動の悪影響にともなう損失および損害)対策など、気候変動に関するさまざまなテーマが議論されます。

©︎COP28

COP28:世界の原子力発電設備容量を3倍に 22か国が宣言に賛同

2023/12/03

COP3日目の12月2日、日本をはじめとする米英仏加など22か国が、「パリ協定」で示された1.5℃目標[1]世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える努力目標の達成に向け、世界の原子力発電設備容量を3倍に増加させるという野心的な宣言文書を発出した。

賛同した22か国[2]15日現在アルメニア、クロアチア、ジャマイカも署名し25か国は、日本のほか、アラブ首長国連邦、ウクライナ、英国、オランダ、ガーナ、カナダ、韓国、スウェーデン、スロバキア、スロベニア、チェコ、ハンガリー、フィンランド、フランス、ブルガリア、米国、ポーランド、モルドバ、モロッコ、モンゴル、ルーマニア。2050年までに世界の原子力発電設備容量を、2020年比で3倍とする目標を掲げるだけでなく、小型モジュール炉(SMR)や先進炉の導入拡大、原子力を利用した水素製造などにも言及。電力以外の産業分野への応用も視野に入れ

また原子力プロジェクトに対するファイナンスについても取り上げ、世界銀行を筆頭とする国際金融機関並びに各国の金融機関等に対し、融資対象に原子力を含めることを奨励している。

そのほか宣言に盛り込まれた取組内容は以下の通り。

  • 最高水準の安全性、持続可能性、セキュリティおよび核拡散抵抗性を保持しつつ責任を持って原子力発電所を運転すること、 長期にわたって責任を持って使用済み燃料を管理すること
  • 新しい資金調達メカニズムなどを通じ、原子力発電への投資を奨励すること
  • 原子力発電所が安全に稼働するために、燃料分野を含む強靭なサプライチェーンを構築すること
  • 技術面で実行可能かつ経済性がある場合には、原子力発電所の運転期間を適切に延長させること
  • 原子力導入を検討する国々を支援すること

そして、これら取組の進捗状況をCOPの場で毎年レビューするとしている。

強いリーダーシップで宣言を取りまとめたJ.ケリー米大統領特使 ©︎COP28

近年、世界の原子力産業界では、エネルギー・セキュリティの確保と、CO2排出量の実質ゼロ化の両立に、原子力が果たす役割を周知しようと、国際間で連携しての活動が主流となっている。9月に英ロンドンで立ち上げられた「ネットゼロ原子力(Net Zero Nuclear=NZN)」イニシアチブも一連の流れだ。

同じく9月には、仏パリでOECD原子力機関(NEA)と仏エネルギー移行省の共催による官民ハイレベル会合「新しい原子力へのロードマップ」が開催され、各国の原子力産業団体が連名で、気候変動の緩和およびエネルギー・セキュリティの強化へ向け、原子力発電の迅速かつ大規模な導入を強く訴える共同ステートメントを発表した。同ステートメントは、4月に札幌での「G7気候・エネルギー・環境相会合」に併せ、日本原子力産業協会らが採択した同種のステートメントをベースとしており、2050年までの炭素排出量実質ゼロ目標を達成するには、原子力発電設備容量を現在の2~3倍に拡大する必要があるとの認識を強調している

原産協会の調べでは、世界の原子力発電設備容量は2020年末時点で、4億788万kW。3倍ということは、これを12億kW強とすることになる。国際エネルギー機関(IEA)が10月に発表した最新の「世界エネルギー見通し」では、最も野心的なネットゼロエミッション(NZE)シナリオでも、2050年の原子力発電設備容量を9億1,600万kW[3]2022年=4億1,700万kWと設定と予測。国際原子力機関(IAEA)が同じく10月に発表した報告書「2050年までの世界のエネルギー・電力・原子力発電予測」では、高予測シナリオでも2050年の原子力発電設備容量を8億9,000万kW[4]2022年=3億7,100万kWと設定と予測している。これら予測と比較して、今回の3倍宣言が非常に野心的な目標設定であることがわかる。

産業界を代表してWNAのサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長が登壇した ©︎COP28

発表セレモニーでスピーチした世界原子力協会のサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長は、「世界の原子力産業を代表して、この大胆かつ現実的な宣言を作り上げたことに深く感謝する。皆さんの原子力への取り組みは単なる声明ではなく、世界中の原子力産業界への課題として受け止めたい」と謝意を表した。そして宣言と同様の野心的な精神で、既存炉の運転期間延長や新規原子炉の導入加速に向けて一致団結することを表明し、「今後も最高水準の安全性を維持し、若手の科学者やエンジニアら優秀な人材を惹きつけ、育成していきたい」と強い意欲を示した。

脚注

脚注
1 世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える努力目標
2 15日現在アルメニア、クロアチア、ジャマイカも署名し25か国
3 2022年=4億1,700万kWと設定
4 2022年=3億7,100万kWと設定

現地取材

  • 石井 敬之

    総括課長にして編集長。COPへの参加は昨年のエジプト以来2度目。特技は料理。

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