原子力産業新聞

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1分でわかるサマリー

放射性同位元素(RI)の需要が診断から治療へと広がる中、日本のRI供給基盤にも新たな役割が求められている。原子力産業新聞は、長年にわたり医療や産業を支えてきた研究炉JRR-3と、アクチニウム225(Ac-225)の製造実証に挑む高速実験炉「常陽」を取材。原子炉によるRI製造の現状と可能性を追った。さらに、高速炉を医療RI製造に活用する構想を提唱した東京都市大学の高木直行教授にも話を聞き、加速器を含めた複数の製造手段を組み合わせる「複線化」の重要性を探る。日本のRI供給基盤の現在地と、その未来を描く。

放射性同位元素(RI)は、診断から治療へ、研究用途から臨床応用へと、その役割を大きく広げつつある。がん治療をはじめとする放射性医薬品の進展は、必要とされるRIの種類や量、そして供給の安定性に対する要求を質的に変えた。これまで本特集では、都市部でも設置可能で、機動性に優れる加速器を中心にRI製造の最前線を追ってきたが、取材を重ねる中で一つの問いが浮かび上がってきた。それは、「日本は、この需要拡大をどのような基盤で支え続けるのか」という問いである。

加速器は重要な選択肢であり続ける一方で、量産性、長期的な供給安定性という観点では、単独ですべてを担うには限界もある。世界に目を向ければ、オランダやベルギー、オーストラリアなど、現在も原子炉がRI供給の中核を担う国は少なくない。RI製造において、原子炉は加速器とは異なる強みを持っている。

日本では、東日本大震災以降、研究炉の数が大きく減少し、原子炉によるRI製造は過去のものと見なされがちだった。しかし現実には、国内には今も二つの原子炉が存在し、RI分野においてそれぞれ異なる役割が期待されている。一つは、JRR-3。長年にわたり医療や産業を支えるRIを「すでに作ってきた」研究炉である。もう一つが高速実験炉「常陽」で、本来は燃料・材料照射を使命としてきたが、近年、医療用RIという新たな分野に挑戦し始めている。

熱中性子炉と高速炉では中性子特性や運用条件が異なっており、RI製造においてもそれぞれ異なる役割が期待されている。JRR-3と「常陽」は、同じ原子炉でありながら、その役割も時間軸も異なる。前者は現在の医療・研究を現実に支える基盤であり、後者は将来の不足に備える可能性を探る試みだ。さらに、加速器を含めた複数の製造手段をどう組み合わせるかという視点に立てば、RI製造は単一解ではなく、目的に応じた「複線化」が求められていることが見えてくる。

原子力産業新聞では、加速器中心で語られるRI製造の議論に、原子炉という視点を改めて加える。すでにRIを作り続けてきたJRR-3と、本来の使命を超えて新たな価値創出に挑む「常陽」。その両者を並べて捉えることで、日本のRI供給基盤の現在地と、その射程を描き出す。

JRR-3

JRR-3 ―「すでに社会を支えている」原子炉

東海村にある日本原子力研究開発機構の研究用原子炉JRR-3は、日本に現存する数少ない研究炉の中でも、単なる研究設備にとどまらず、実運用を通じて社会と直接つながってきた存在である。熱出力20MW級の多目的研究炉として、中性子ビーム実験を主目的に設計されたJRR-3は、材料科学や基礎物理の分野で長年にわたり成果を生み出してきたが、照射利用にも対応できる設計思想の柔軟性により、古くからRI製造という産業分野でも活用されてきた。高い熱中性子束、安定した運転実績、そして研究炉ならではの利用ニーズを重視した運用は、JRR-3を「研究炉」でありながら「社会インフラの一部」として機能させてきた要因である。

医療分野でJRR-3の存在感を最も端的に示してきたのが、金198(Au-198)やイリジウム192(Ir-192)といった組織内照射用RIである。舌がんや喉頭がんなど、局所に確実な線量を与えることが求められる治療において、これらの核種は長年にわたり臨床現場で用いられてきた。新規性や話題性は高くないものの、こうしたRIは「使えなくなると医療が止まる」性格を持ち、診療の継続性という観点では極めて重要な医療資源である。現在、製造主体は民間企業に移っているが、照射の場としてJRR-3が使われ続けているという事実は、日本のRI製造基盤が制度変更や事業環境の変化を経ても、細い糸ながら途切れず維持されてきたことを示している。仮にこの連続性が一度でも断たれていれば、原子炉を用いたRI製造の技術、人材、運用ノウハウは国内から失われ、再構築には長い時間とコストを要した可能性が高い。

JRR-3がRI製造に適している背景には、高い熱中性子束や照射設備といった炉の特性に加え、研究炉として利用ニーズに応じた柔軟な運用が可能である点がある。多くの有用なRIは、熱中性子を吸収する(n,γ)反応によって生成されるが、JRR-3ではその反応が起こりやすい中性子環境が安定して確保されてきた。加えて、水力照射設備(水圧により照射済みキャプセルをホットラボへ移送する設備)を用いることで照射後の迅速な取り出しが可能となり、半減期によるロスを最小限に抑えられる。

「研究炉として派手なことをしているわけではありませんが、これまでの運転経験の蓄積と、運転員の不断の努力によって、トラブルが少なく安定した運転を続けてきました。医療用RIでは、この“当たり前に動く”安定性が一番大事だと思っています」
(JAEA 原子力科学研究所 研究基盤技術部 研究炉技術課 平根伸彦 課長)

RI製造では核反応の成立そのもの以上に、計画通りに運転し、確実に取り出せることが品質と実用性を左右するが、その点でJRR-3は国内でも稀有な実績を積み重ねてきた。

品質管理の考え方にも、JRR-3ならではの積み重ねがある。現時点で多くのRI製造は研究・試験段階に位置づけられており、医薬品製造に求められるGMP(医薬品の製造・品質管理基準)対応とは異なる枠組みで運用されているが、現場では核種ごとにセルを使い分け、取扱い核種の切り替え時には徹底した除染を行い、不純物混入を極力排除する運用が長年にわたり続けられてきた。これは制度やマニュアルによって一律に規定されたものではなく、失敗や試行錯誤を通じて培われた「現場知」の集積と言える。体制として品質管理を掲げる以前に、各工程で品質を下げないという共通認識が現場に浸透している点は、JRR-3が長期間にわたりRI製造を担ってきたからこそ成立した文化である。

近年、JRR-3が新たな柱として力を入れているのが、ルテチウム177(Lu-177)である。がん治療用RIとして世界的に需要が高まる中、余分な担体や放射性不純物を含まない、高純度Lu-177の供給が求められており、その実現には照射後の分離・精製工程が最大の技術的ハードルとなる。化学的性質が近い元素を高純度で分離する工程は繊細で、再現性と安全性を両立させる必要がある。JRR-3では大学、企業との共同研究を通じて、この分離プロセスの確立と改良に取り組み、将来的なスケールアップを視野に入れた技術開発を進めている。ここで重視されているのは、単にRIを製造することではなく、製造技術そのものを国内で開発・蓄積し、次世代につなぐという視点である。海外でブラックボックス化された技術に依存し続けるのではなく、自ら理解し、改良し、応用できるプロセスを持つことが、長期的な供給安定と研究開発の自律性につながる。

原子炉によるRI製造には、技術的な可能性だけでなく、制度的な前提が存在する。日本原子力研究開発機構の活動は、「原子力機構法」によって研究開発を主たる目的として位置づけられており、医療用RIの製造や販売を事業として直接担うことは想定されていない。かつては前身の日本原子力研究所がRI製造を担っていた時期もあったが、その後、恒常的な供給は民間事業者へ移管され、現在の役割分担が形成されてきた。実際、JRR-3に隣接する施設では、千代田テクノルが事業主体としてRI製造を行い、商業レベルでの供給を担っている。JRR-3はその基盤として照射環境と技術的裏付けを提供し、制度の枠内で医療RI供給を成立させてきたのである。

こうした制度の下でJRR-3が果たしてきた役割は、RIを供給し続けることそのものよりも、国内に原子炉におけるRI製造・取扱技術と人材を絶やさず残すことにあったと言える。Au-198やIr-192の照射が途切れず続いてきたことは、供給量以上に、原子炉を使ったRI製造の知見と運用経験が国内に保持されてきたことを意味する。原子炉運転、放射線管理、化学処理といった異なる専門分野を横断的に理解できる人材が、世代を超えて技術と経験を受け継いできた。少数精鋭の体制ではあるが、実習生の受け入れや大学との共同研究を通じて、若手が現場に入り、実際の運用に触れる機会が維持されている。こうした人的連続性こそが、JRR-3を、数少ない研究炉の一つとしてではなく、「いまも現役で社会を支える原子炉」として成立させている最大の理由である。JRR-3は、研究炉という制度的制約の中で、医療と産業を支えるRI基盤の“下支え”を担ってきたのである。

一方で、RI医療の高度化が進むにつれ、求められる核種や供給形態は変化しつつあり、既存の枠組みだけでは応えきれない領域が見え始めている。とりわけ、α線内用療法に用いられるアクチニウム225(Ac-225)のように、医療の質そのものを左右し得るRIについては、供給制約がすでに臨床のボトルネックとなっている。こうした背景の下で浮上してきたのが、高速中性子という異なる特性を持つ原子炉を、医療という文脈にどう位置づけ直すかという問いである。その問いに対する一つの現実的な試みが、本来は燃料・材料照射を使命としてきた高速実験炉「常陽」によるRI製造への挑戦である。

平根伸彦 課長

「常陽」 ― 本来は別の使命を担ってきた原子炉

高速実験炉「常陽」は、日本の高速炉開発の第一歩として建設された国内初の高速炉であり、長年にわたり燃料・材料照射を中心とした研究開発を担ってきた。発電設備を持たず、冷却材にナトリウムを用い、高速中性子による核分裂連鎖反応を特徴とする実験炉であり、その主たる使命はエネルギー利用や燃料サイクル研究にあった。炉心規模は小さいが、その周囲に形成される高速中性子場は、熱中性子炉では得られない特性を持ち、国内外の研究開発にとって貴重な実験環境を提供してきた。

見学コースで示される炉心模型が象徴するように、「常陽」の炉心は高さ約50センチ、直径約80センチという極めてコンパクトな構造を持ち、炉心全体が格納容器内の地下部分に収められている。格納容器内から炉心上部を直接見下ろせる構造や、極めてコンパクトな炉心配置によって、炉内構造や照射位置関係を視覚的に把握しやすくなっている。こうした特徴からも、「常陽」が大量発電設備というより、照射試験を主目的とした「実験装置」として設計されていることが直感的に理解できる。ここでは発電ではなく、照射環境の再現性や安全な取り扱いが最優先されており、この設計思想が、後にRI製造という新たな応用を受け入れる余地を残すことになった。

「常陽」によるRI製造の特徴は、新規の専用設備を導入することなく、これまで燃料や材料の照射試験で培ってきた技術と運用を、そのまま応用できる点にある。試験集合体の中央部に試料を封入したキャプセルを装荷し、燃料集合体の代わりに炉心へ挿入して照射するという基本的な流れは、従来の照射試験と本質的に変わらない。照射後は原子炉を停止し、集合体ごと取り出して隣接施設へ搬送し、キャプセルを分解・回収する。この一連の作業は、「常陽」が長年繰り返してきた「日常業務」の延長線上にあり、RI製造は決して特別な例外ではない。

「常陽」がRI製造に踏み出す決定的な契機となったのが、α線内用療法向けのRIとして世界的に注目されているAc-225である。高速中性子を用いた(n,2n)反応は、熱中性子ではほとんど進行せず、高速炉ならではのエネルギーの高い中性子スペクトルで初めて意味を持つ。「常陽」炉心中心部では、この反応が成立するエネルギー領域の中性子が豊富に存在しており、理論的にも実験的にも優位性が示されてきた。「常陽」が対象としているのは、将来の構想段階にあるRIではなく、すでに海外で臨床応用が進み、供給不足が顕在化しているAc-225という「現在進行形の医療課題」である。

「常陽」がAc-225という特定のRIに着目するに至った背景には、外部研究者による明確な問題提起があった。その発想の起点となったのが、東京都市大学の高木直行教授である。

高木教授は、α線内用療法の国際的な動向と供給制約を踏まえ、高速中性子場を持つ「常陽」であれば、熱中性子炉や加速器とは異なる核反応経路を活用できるのではないかと提案した。これは、高速炉を「燃料・材料の照射試験の場」としてではなく、「医療RIという社会的要請に応答し得る装置」として捉え直す発想だった。この提案を起点に、JAEA内部で検討が進み、「常陽」におけるAc-225製造実証という具体的な取り組みへと発展していったのである。

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「高速中性子だからこそ可能だった」

「高速中性子だからこそ可能だった」

α線内用療法に用いられるアクチニウム225(Ac-225)は、世界的に需要が高まる一方で供給量が極めて限られている。現在の主な供給源は米国、ロシア、ドイツなどが保有するウラン233由来のトリウム229であり、新たな製造方法の研究も各国で進められているが、供給拡大には至っていないという。

「私がOECD/NEAの会議などで各国の状況を聞いた限りでも、供給量が急激に増えたという話はまだありません。臨床研究は進んでいるのに、供給は依然として限られている状況です」(高木教授)

こうした背景の中で、高木教授が着目したのが高速中性子による核反応だった。

Ac-225はラジウム226(Ra226)に高速中性子を照射し、中性子を1個吸収して2個放出する「(n,2n)反応」によって生成される。この反応はエネルギーの高い中性子で起こりやすく、高速炉の中性子環境が適している。

「Ra226から中性子を一つ取り除く反応を考えたとき、高速中性子が有効であることがよく知られています。高速中性子といえば、『常陽』、『もんじゅ』。日本が培ってきた高速炉技術が生かせるのではないかと考えました」(高木教授)

高木教授がこの可能性に気付いたのは2019年、東京のフランス大使館で開催された研究炉利用に関する会議だった。核医学分野でAc-225の需要が急速に高まっているという報告を聞き、即刻、高速炉の応用に関心のある修士学生とともに解析を開始したという。

「『常陽』の炉心で1gのRa226を照射することにより、現在の全世界供給量(約60GBq/年)程度のAc-225を生成できる可能性があることがわかったのです。そこでJAEAの研究者に相談したところ、『常陽』で実証してみようという話になりました」(高木教授)

さらに高木教授は、こうした取り組みを個別の研究にとどめず、国内全体の体制として整理していく必要性を指摘する。4月より、日本原子力学会に「原子炉生成RI」研究専門委員会を設置し、国内の原子炉を用いたRI製造能力を向上するため、技術、安全、体制、規制の各側面から体系的に検討を進めている。

高木直行 教授

実証へ動き出した「常陽」

「常陽」でのAc-225製造は、個別の研究テーマにとどまるものではなく、JAEAとして整理された医療用RI国産化の枠組みの中に位置づけられている。JAEA資料では、照射や分離技術の検証を担う研究炉JRR-3、製造実証を担う高速実験炉「常陽」、そして医療応用を担う国立がん研究センターという役割分担が明確に示されており、加速器による製造も含めた「ベストミックス」によって医療安全保障を確保するという考え方が打ち出されている。「常陽」はその中で、高速中性子という特性を生かし、供給制約が顕在化しているAc-225について「量」に応える実証拠点として位置づけられており、本取り組みは研究段階にとどまらない、社会実装を見据えた計画として進められている。

ブリーフィングの中で繰り返し強調されていたのは、「常陽」が加速器に取って代わる存在ではないという点だ。

「効率だけを見れば加速器が有利な場合もあります。ただ、『常陽』では複数のキャプセルを同時に装荷できるので、“量で応える”実証が可能です。まずは、できるかどうかを確かめる段階です」
(JAEA 大洗原子力工学研究所 高速実験炉部 前田茂貴 次長)

効率を重視する加速器と、スケールで補完する原子炉という役割分担は、現実的なRIサプライチェーンの姿として、現場で共有されている。

「常陽」でのAc-225製造が成立し得た背景には、半減期と運転サイクルの相性という現実的な要因もある。東京都市大学では、Ac-225製造に必要な照射期間と「常陽」の運転サイクルとの整合性に加え、生成時に生じるAc-227など不純物核種への対応可能性についても検討が進められてきた。こうした技術的成立性の提示が、JAEA側での具体的検討につながったという。

Ac-225の親核種であるRa-225の半減期は約15日であり、2~3半減期に相当する30〜45日程度の照射が最適とされる。「常陽」の定格運転日数は60日で、照射期間を柔軟に設定できる実験炉であるため、この時間軸は既存の運転計画に大きな影響を与えない。

一方で、原子炉内での核反応そのもの以上に重要なのが、照射後の化学処理である。中性子照射後のラジウムを溶解し、Ac-225を高純度で分離・精製する工程は、医薬品原料としての品質を左右する最大の技術的課題となる。「常陽」ではこの点を見据え、JAEAの原子力科学研究所(JRR-3がある東海拠点)で先行的に化学処理の練習と検証を進めてきた。これらは、文部科学省「原子力システム研究開発事業」の一環として進められてきた研究成果でもある。超小型ジェネレーターによる抽出試験や医療機関との品質確認を並行して行うことで、「常陽」再開後に一気に実証へ移行できる体制を整えようとしている。

「常陽」でのRI製造は、専用運転ではなく、あくまで照射試験の枠組みの中で行われる「副次利用:バイプロダクト」として位置づけられている。他の照射試験と同時に実施でき、特別な運転条件を必要としないことが、実現可能性や経済性を高めている。高速炉という大規模インフラを単一目的に固定せず、社会的要請に応じて柔軟に使うという姿勢は、研究炉としての「常陽」の本質とも重なる。

これまで高速炉は、資源利用効率の向上や放射性廃棄物低減を担う次世代革新炉として開発が進められてきた。実際、ロシアや中国ではすでに高速炉が運転され、インドでも今年4月に高速増殖原型炉PFBRが初臨界を達成するなど、各国で開発は現実に進展している。日本でも高速炉実証に向けた研究開発が継続して進められている。

そうした中、「常陽」のRI製造への挑戦は、高速炉の価値を医療や社会インフラへと広げる試みでもある。Ac-225の製造実証が現実のものとなれば、高速炉はエネルギー分野に加え、医療という新たな領域でも社会的役割を担う可能性を持つ。

前田茂貴 次長

二つの原子炉が示す「役割分担」という現実

原子炉によるRI製造を考える上では、熱中性子炉と高速炉で中性子特性や運用条件が異なることを踏まえ、それぞれの炉型がどのような役割を担いうるかを整理する視点が重要となる。

JRR-3は、熱中性子を利用する研究炉として、Au-198やIr-192など既存医療を支えるRIを安定的に供給し、診療や研究を支えてきた。一方、「常陽」は、高速中性子という特性を生かし、供給不足が課題となっているAc-225の製造実証に挑戦している。両者は医療用RIを社会インフラとして成立させるために、異なる役割を担っている。

また、RI製造は単一の手段で成立するものではない。機動性や効率に優れる加速器、既存医療を支えるJRR-3、そして新たな医療ニーズへの対応を目指す「常陽」は、それぞれ異なる特性を持っており、核種や供給リスクに応じて組み合わせていく必要がある。平時には最適な製造手段を選択しつつ、非常時にも供給を維持できる冗長性を持たせることが、医療RIを社会インフラとして維持する上で重要となる。

JRR-3と「常陽」の存在は、日本のRI基盤が単に維持されているだけではなく、医療ニーズに応じて再構築されつつあることを示している。日常医療を支える安定供給基盤と、新たな治療法を現実のものとする実証的挑戦が並行して進んでいる点に、現在の日本のRI開発の特徴がある。

RI供給基盤の未来

原子炉によるRI製造は、かつて「研究の副産物」あるいは「過去の技術」として語られることが多かった。しかし、これまで見てきたように、JRR-3と「常陽」の取り組みは、その認識を根底から改めるものである。JRR-3は、日常診療や研究を支えるRIを切らさず供給することで、医療インフラとしての連続性を現実に担ってきた。一方、「常陽」は、α線内用療法という医療の質を変え得る領域に正面から向き合い、供給制約そのものを技術で乗り越えられるかを問う実証に踏み出している。両者は、医療の異なる層を支える二つの柱として並び立っている。

この構図は、日本のRI政策にとっても示唆に富む。RIは市場原理だけで安定供給が成立する医薬品ではなく、医療の継続性や研究の自律性に直結する社会インフラである。海外依存が避けられない核種がある一方で、国内に「ゼロではない」製造能力を持つ拠点が存在するかどうかは、非常時の医療体制を左右する。JRR-3が果たしてきた安全弁としての役割、そして「常陽」が示そうとしている新たな選択肢は、経済安全保障という観点からも無視できない意味を持つ。RI製造を単線で設計するのではなく、加速器、研究炉、高速炉を用途とリスクに応じて組み合わせるという複線的発想が、今後ますます重要になるだろう。

そして、この基盤を最終的に支えるのは人である。原子炉運転、放射線管理、化学処理、医療との接続といった異なる専門性を横断できる人材は、一朝一夕に育つものではない。JRR-3で培われてきた現場知と、「常陽」で進みつつある新たな挑戦が同時に存在していることは、技術の継承と発展にとっても決定的に重要だ。原子炉によるRI製造は、もはや過去の遺産ではない。医療の現在を支え、次の医療を切りひらくための現実的な選択肢として、日本はその価値を改めて見据える段階に来ている。

RI供給基盤を支える

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