原子力産業新聞

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Vol.4

CORE POWER社の会長兼CEO ミカル・ボーさん

CN2050実現に向け再評価される原子力。英国CORE POWER社が進めている浮体式原子力発電所プロジェクトにはこのほど、今治造船(愛媛県今治市)や尾道造船(兵庫県神戸市)など13社が出資したとの報道もあった。
原産年次大会で来日したCORE POWER社の創設者で会長兼CEOのミカル・ボーさんに、同社が進める海洋分野での原子力利用プロジェクトについて聞いた。同氏は切迫する環境問題やエネルギー安全保障、脱炭素化への困難な現実的な課題に対し「考え方を変える必要がある」と述べ、その意味で同社が提案する新たな原子力利用の実現が「未来への非常に大きな一歩になる」と強調した。

文:保科俊彦 写真:小山内大輔

25 May 2023

浮体式原子炉が拓く 新しい世界

原子力に新しいイメージを

現在、インフレやウクライナ戦争で国際的に物流コストが上昇する中、物流の安定と安全、環境負荷の軽減が世界経済にとっても非常に重要な課題と認識されてきています。これらの課題に対して、ボーさんが提案されている新しい原子力利用では、どのような貢献ができるのでしょうか?

ボー

これはいきなり大きな質問(Big Question)を頂戴しました(笑)
いくつかの共通した問題の視点から捉えることができると思います。
第1に気候変動と脱炭素化、第2にエネルギー安全保障の地政学的な性質、そして第3に今までの便利な生活から脱炭素化された新たな生活への移行/転換する際の高コスト--といった視点です。
これら問題に対応するには、人々の考え方を変える必要があるのです。エネルギーの生産および利用のあり方をどうするか。あるいはエネルギー源とそれを届ける手段をどうするか。考え方を根本から変えなければなりません。

具体的な解決策を3つ挙げましょう。
まず1つ目は、まったく新しい原子力テクノロジーで人々の考え方を変えることです。これまで原子力というと、廃棄物、高コスト、安全性といった必ずしもポジティブではないイメージが付きまとってきましたが、これを一新させることのできる新しい原子力利用の形を示すのです。
2つ目は、これまでプロジェクトベースだった原子力産業を、製造現場に立脚したプロダクトベースの産業に変えていくことです。原子力発電所では、現場での工期が長期にわたると、コストがどんどんかさんでいきました。これに対し最新のモジュール工法では、原子炉など機器を製造し、建設現場へ輸送し、あとは組み立てるだけです。これまでの原子力産業のイメージが大きく変わります。
そして3つ目はプロジェクトの推進体制です。わたしたちはエネルギー・セキュリティを重視しており、安全保障上もパートナーとなる各国と協力する枠組みを用意しています。それぞれのパートナーの長所を活かし、ソリューションを生み出していくのです。CORE POWER社の拠点は英国です。主に米国のパートナーが核心となる原子炉技術を開発しています。日本のパートナーは造船やエンジニアリング分野を担当しています。リーガル分野やファイナンスおよびインシュアランスを担当しているのが英国です。この英米日のパートナーシップによってエネルギー・セキュリティを担保することが可能ですし、各国の安全保障にもつながると考えています。

ボーさんが提案されている海上で利用する浮体式発電について、その特長や技術的な可能性について教えてください。

ボー

浮体式発電については2つのタイプを検討しています。
ひとつは恒久的に運用していくタイプで、出力も大きく、100万kWクラスの原子炉を採用します。沖合でも港湾内でもユーザーが指定する場所で、電力あるいは熱を供給するシステムです。
水素やアンモニア、メタノールなどの製造施設や、製鉄所やアルミ工場、臨海の都市などに、電力や熱を供給することができます。
もうひとつのタイプが、移動式です。バージ(はしけ)や船舶に出力6万~10万kWクラスの原子炉を搭載します。移動が極めて容易ですので、遠隔地へ電力や熱を供給することが可能です。災害発生時には被災地へ派遣することもできます。また用途に応じて、例えばデータセンターに電力を供給したり、淡水化プラントに利用することもできます。小規模で移動式ですので、必要な用途に柔軟に対応できるというのが、この新しい原子力システムがもつ特長だといえるでしょう。
浮体式発電所は地震や津波にも強く、洋上風力を補完している石炭火力やガス火力をリプレースすることで、炭素排出量を大きく削減することができます。課題は、実用化に向けた技術開発と試験の実施、許認可の取得です。エンジニアリング面では技術的な課題が残っていますが、ブレイクスルーを必要とするほど困難な課題ではなく、地道に工学的な開発を進めるだけです。
試験、実験については、原子炉周りのシステムとそれ以外のシステムのインターフェイスを確認するなど、あらゆる機器についてテストを繰り返していく必要があります。関連許認可を申請し承認される必要もありますので、今後7~10年で完了させたいと考えています。
早ければ2030~2032年頃に初号機を稼働させます。もちろん、許認可をより迅速に進める方策があれば、計画を前倒しで実施できます。

海運業界への応用も考えられていらっしゃるとか?

ボー

海運業界は2040年までに炭素排出量を現在の50%に減らさなければなりません。世界にはおよそ10万隻の船舶が存在しますが、燃料を多く使う大型船舶の多くは主要国が保有しています。10万隻のうち7300隻で、船舶燃料の50%超を消費し、大気汚染の大きな原因ともなっています。この分野での脱炭素の市場規模は、6兆ドルと試算されています。
その一方で、欧州や北米の造船業は既に衰退しており、現在、発注の50%以上が中国向けです。欧州、北米および日本はエネルギー・セキュリティや貿易戦争、保護主義、もしくは地政学的リスクなど、不安要素だらけです。ロジスティクスの世界では、消費財や工業製品、食糧、鉄などを安全に、安心できる形で運ぶことがなによりも大切です。つまりエネルギーと海運の安全保障は、国家の安全保障に繋がっているのです。
新たな原子力技術を海運事業に導入することで、グリーンな水素、アンモニア、メタノール、そして合成燃料といったグリーン燃料を生産し、船舶を動かしていくことができるようになります。

EPZの範囲が小さい浮体式原子炉

採用する原子炉については、特に安全性やメンテナンスの容易さ、廃棄物の処理などが重要だと思いますが、どのような特長や技術的な課題があるのでしょうか?

ボー

おっしゃる通り、原子炉が技術開発の中心です。わたしたちは6年以上にわたり、採用炉型を検討してきました。その結論が、米テラパワー社が開発中の塩化物熔融塩高速炉(MCFR, Molten Chloride Fast Reactor)です。MCFRは、燃料と冷却材に塩化物熔融塩を使用し、核分裂反応をより効率的に行う高速炉型原子炉です。従来の原子炉よりも高温で運転できるため、発電効率が高く、プロセス熱や熱貯蔵の可能性も秘めています。
熔融塩炉であり高速炉であるところがポイントで、液体燃料ですから燃料と冷却材が一体という非常にユニークなものです。メルトダウンする心配がないとされていることが大きな特長といえるでしょう。
また原子炉が加圧された環境下にありませんので、万一の事故時にも、放射性物質が圧力で拡散することがありません。したがってEPZ(緊急時計画区域)の範囲も極めて限定的です。これは非常に重要なポイントで、通常であれば30kmに設定されているEPZを、メートル単位に縮小することができるのです。有事の際、オペレーターには、避難あるいは除染の責任が生じますが、EPZが小さい場合、この責任の範囲は基本的に船舶内に収まってしまいます。したがって、特に海上で利用する場合は、沿岸部や港湾内など需要地のすぐ近くで利用できるメリットがあります。
さらに高速炉では、長寿命核種のアクチノイド元素が核分裂で消費されるので、原子炉の運転にともなって高レベル放射性廃棄物が燃えて減るという特徴があります。これは放射性廃棄物の量を削減するという点で非常に重要なメリットです。
また液体燃料で、かつ高速炉であることにより、エネルギー効率を高めることができます。MCFRは、運転中に燃料補給が可能ですので、その都度運転を停止して燃料を交換する必要がありません。燃料サイクルを停止することなく燃料を追加できるわけで、長期間運転が可能となります。持続可能なエネルギーに極めて近いものであると言えるでしょう。

熔融塩炉のメリットを最大限活かせるということでしょうか?

ボー

そうです。
開発中のMCFRの設計寿命は40年~50年を想定しています。申し上げた通りエネルギー効率が高く、静的安全性も高いものです。海上で利用しますので環境的にも有利です。こうしたメリットを十分に活かせます。
また工場でモジュール方式で製造しますので、コストは5割減、工期は7割減を見込んでいます。冒頭の質問にあったような、経済や環境の課題に対応した新しい原子力利用の形が実現できるでしょう。
いま環境問題への選択肢として太陽光や風力などの再生可能エネルギーの普及が進んでいますが、わたしたちが提案する原子炉MCFRは24時間運用できる効率性をもち、小型で安全です。きっと日本の皆さんにも新たな機会をもたらすのではないでしょうか。

福島第一事故から得られた教訓をすべて学び活用を

ボーさんの提案に対して、各国からはどのような反応や期待があるのでしょうか?

ボー

2016年にわたしたちが原子力の海上利用について提案し始めた頃は、懐疑的な人が多かったですし、疑問の声も上がっていました。賛同してくれる人たちはごく僅かでした。
しかし提案が具体化するにしたがって、徐々に変わってきたと感じています。MCFRのような先進炉がもたらすメリットについて、理解が進んできたのだと思います。
まだ許認可や一般の人たちへの理解活動などの課題は残されていますが、政府も支援してくれていますし、若い世代には支持してくれる人たちが大勢います。将来性のある素晴らしいアイデアだと考えている若者が存在することは、大変心強いことです。

最後に、エネルギー・環境問題の解決にあたり、新たな原子力利用の可能性を追求する意義について、とくに日本の人たちに対してメッセージがあればお願いします。

ボー

まず、わたしたちの提案する新しい原子力利用の考え方に賛同し、未来にむかって前進していきたいというパートナーの人たちが、日本をはじめ各国にいらっしゃることに、わたしたちは勇気づけられています。
これまでの原子力利用に問題があるとは思っていませんが、12年前に起きた福島第一原子力発電所の事故から得られる教訓はすべて学ぶべきだと考えています。
それはテクノロジー面での学びだけでなく、メディアや一般の人たちへの対応ということも含めて、あらゆる教訓を活用しなければならないと思います。
そのうえで、物事を前に進め、さらに未来への大きな飛躍を可能にするという意味で、原子力の海洋利用の実現は、非常に大きな一歩になると考えています。
そして最後に、この新しい原子力利用の実現が、人類の未来に必要であるということを強調させてください。ありがとうございました。

ミカル・ボー Mikal Bøe

profile
英国に本拠を構えるCORE POWER社の会長兼CEO。10年にわたり米国やアジアの船会社の最高リスク責任者(CRO)を務めた後、海事関連のイノベーションおよび技術開発を目的に、2018年に同社を設立した。現在は、世界原子力輸送研究所「海上利用と原子力推進」ワーキンググループ議長を務めるほか、ロイド船級協会オフショア技術委員会、米エネルギー省の国立原子炉イノベーションセンター(NRIC)海上原子力利用グループ、および英原子力産業協会(NIA)諮問委員などで活躍。海上輸送の生産性を高め、CO2排出量削減目標達成のソリューションとして、次世代原子炉の開発と応用に力を入れている。
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