原子力産業新聞

国内NEWS

原子力学会、高校教科書の原子力関連の記述で調査報告

22 Aug 2022

日本原子力学会は8月18日、教科書のエネルギー・環境・原子力・放射線関連の記述に係る調査報告書を発表した。

同学会の教育委員会が毎年、小中高校で用いられる教科書を対象に実施しているもので、今回は、新学習指導要領に基づき2022年度から使用されている高校の地理歴史、公民、理科、保健体育、家庭、工業の各教科の検定済み教科書計72点を調査し、エネルギー・環境・原子力・放射線に関連した記述(写真、図・グラフも含む)、これに対するコメント・修文例を整理。エネルギーや原子力に関する教育の改善につながるよう意見・提言をまとめた。

高校の新学習指導要領は、2022年度入学生から学年進行で実施されており、今回、調査した教科では現在、地理歴史の地理総合と歴史総合(近現史、旧課程の世界史A・日本史Aに概ね相当)、公民科の公共(旧課程の現代社会に概ね相当)の新設科目を含む計11科目が履修されている。

地理総合では、今回調査した教科書6点中5点が資源・エネルギー問題について取り上げており、発展的学習として、国ごとのエネルギー事情の比較、日本の電源別発電量の推移など、資料を提示した上で、エネルギーの将来についてディスカッションを通じ考えさせる記述もあった(二宮出版「わたしたちの地理総合 世界から日本へ」)。そこでは、「従来通り、化石燃料を中心におく」、「原子力発電との共存を図る」、「再生可能エネルギーに迅速に移行する」の3つの主張をあげ、自身と意見の異なるグループとのディスカッションを経て「自分の意見はどう変わったか」を考えさせる内容となっており、今回の報告書では「理解を深め考察を促す効果的な内容」と評価している。

歴史総合では、12点中11点がチェルノブイリ[1]本紙では「チョルノービリ」と表記しているが、実際の教科書の記述にならった原子力発電所事故について取り上げていた。これに関し、報告書では、「『ウクライナ』、『ロシア』、『ソ連』の関係が今の生徒にはわかりにくい」と指摘し、「ウクライナ」の記載に関しては、「ソ連」との関係性を明確にするため、「ウクライナ(旧ソ連)」と記載するよう提案。また、戦後50年の国内外の動きを振り返る記述の中で、高速増殖炉「もんじゅ」の所在地を「大洗」と記載した誤りもあった(正しくは福井県敦賀市)。

公共では、「これからの日本の発電エネルギーはどうあるべきか」をテーマとした市民、専門家、自治体職員、経営者によるロールプレイを通じた議論の事例を紹介した教科書があり、報告書では、「重大な問題を多角的に考える姿勢を育成する意味で大変好ましい」と高く評価(帝国出版「高等学校 公共」)。また、エネルギー問題の複雑さから、公共の教科書に関しては、新エネルギーのメリットとデメリットを紹介し理解しやすくする工夫を図るとともに、供給の安定性、安全性、環境への配慮、経済性も含めた総合的な観点、長期的な視点から言及するよう要望している。

福島第一原子力発電所事故に関しては、化学基礎と「科学と人間生活」を除くほぼすべての教科書が記述。「カーボンニュートラル」については、地理総合と物理基礎の計4点の教科書が取り上げていた。電力の需給バランスについては、2018年の北海道胆振東部地震に伴う大規模停電を例をあげ、「火力発電・水力発電・原子力発電に加え、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーなどをふくめたうえで、電力の需給バランスを維持する必要がある」などと記述し、詳細に説明している教科書があり、報告書では「大変適切」と評価(啓林館「高等学校 科学と人間生活」)。高レベル放射性廃棄物の処分問題を取り上げた教科書も多くあったが、「科学的特性マップ」に触れていたのは1点のみだった(実教出版「地学基礎」)。

脚注

脚注
1 本紙では「チョルノービリ」と表記しているが、実際の教科書の記述にならった

cooperation